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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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第二十八話 説得






俺はおかねさんの必死の叫びに呑まれてしまいそうになった。浴衣の袂を両手で揉んで涙を流している彼女を見て、“早く言わなければ”と心が急いたけど、今は俺が何を言っても彼女を傷つけて混乱させるだけなのはわかっていた。

“でも、言わなければ”

俺は喉が震えて熱く、両手の指先もぶるぶると震えて、今は待ち焦がれていた時なのに、彼女を痛めつけることしかできない自分が不甲斐なかった。悔しくて仕方なかった。

「わたくしは…私が、あなたを嫌がるはずがないじゃありませんか…それに、私の姿だって、病のせいで、「あの方」とはもう違うのです…!」

“なぜこんなまずい文句しか選べないんだ!”

俺の声はやっぱり震えていて、でもそれに負けて嘘に聴こえるなど嫌だったから、ほとんど叫び声のようになった。俺だって泣いていた。

「でも、だめなんだよ…お前さん、だめなんだ…」

おかねさんはそこから「だめだ」、「だめだ」とうわごとのように繰り返してから、座り込んでいた布団にわっと泣き伏すと、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。








俺は、おかねさんがよく眠っていて、しばらくは起きないだろうことを確かめてから、大家さんの家を目指して歩いた。

何をしようというわけでもなかった。でも、“自分たちよりかなり年上で、世間をずっと渡り歩いてきた大家さんなら、おかねさんを説得できるんじゃないか”と、考えていた。



「おや、めずらしいね、秋兵衛さん。主人は今、奉行所に呼ばれているんだよ」

大家さんのおかみさんは、にこにことして俺を迎えた。でもその時の俺は、世間そのものがなんだか不人情なような、この世は悲しいだけのような、そんな気でいた。

「どうしたえ。なんかあったんかい」

そう言われて顔を上げると、おかみさんは俺の顔を見て笑った。

「いい羊かんがあるよ。急いでないなら、待つかえ?」

「お願いします…。お邪魔します」