元禄浪漫紀行(21)〜(28)
「お前さんは…善さん…つまりあたしの言い交わした相手に、よく似ているんだよ。もちろん、顔や背格好だけだけどね…」
おかねさんがしゃべっている間、俺は決して口をはさまなかった。彼女はもう煙草を吸い終わり、煙管は元の場所に戻っていた。
「今まで、いけないことだと知りながらもお前さんを手元に置いたのは…恋しい気持ちをまぎらすためだったのさ…許しておくれ。でもね…」
俺は彼女がだんだんと目に涙を溜めて語る様子を見守っていて、“彼女が俺を気にして話をやめることだけはないように”と、強く祈っていた。
そこで彼女は目頭を押さえて涙を流し、目の前に何かを放り投げるように、腕を投げ出した。
「今はもう…違うんだよ!あたしは…秋兵衛さん、お前さんがしゃにむにあたしにかじりついて看病してくれて、命が助かってから…この、残った痘痕をね…お前さんに嫌がられたらどうしようと思って、つらくてしょうがないんだよ…!」
彼女は引きちぎるような悲痛な叫びを上げた。俺はそれに体を貫かれたかのように胸が痛み、嬉しいのか悲しいのかもさっぱりわからなかった。
「だから今日、善さんの墓参りをして、謝ったのさ…あたしは、あたしはどうしたらいいんだい、秋兵衛さん…」
作品名:元禄浪漫紀行(21)〜(28) 作家名:桐生甘太郎