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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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翌朝、おかねさんはまたも急なことを言い出した。

「今日の稽古はあたしは休むから、お前さんはこの文をお弟子の家まで届けておくれ。道は人に聞けばすぐにわかるから」

「えっ…!」

今まで、おかねさんが当日になってから、しかもなんの理由もなしに稽古を休むなんてことはなかった。だから俺は“やっぱり昨日何かあったんだ”と思い、彼女のそばに寄って詳しくいきさつを聞こうとした。

でもおかねさんは三通の手紙を俺の鼻先に突きつけると、「早くしとくれ!一番のお弟子はあと一刻で来ちまうんだよ!」と急かした。仕方なく、俺は「わかりました!」と言って家を飛び出す。





最後に回った家はかなりの大店で、“そういえばここは綺麗な娘さんが来ていたな”と、俺は店先で人を待っていた。すると、なんと誰も居ない店の奥から、年始の挨拶をしに来てくれた時に会ったその家のおかみさんが出てきたのだ。

「はいはい、すみませんね、今、奉公人が出払っていまして。私で伺えれば、ご用件をお聞きして…あら!あなた、お師匠様のお宅の…」

「秋兵衛です。実は今日…お師匠は稽古をつけられないので、おことわりの文をお届けにあがりました」

おかみさんは、ちりめんの着物の衿を合わせ直しながら心配そうな顔をした。

「まあ…お師匠は、またご病気ですか?大丈夫なんですか?」

「そんなに悪くはないんですが、ふせっておりまして…お師匠の元に戻らなければなりませんし、申し訳ございませんが、これで失礼いたします」

「いいえ、「お大事にしてください」とお伝えしてくださいね、くれぐれも…」

「ありがとうございます、では」






俺は、道々考えていた。

“おかねさんは、俺に何かを隠している。何か、とてもとても大事なことを。家に帰ったら必ず聞き出そう”

でも、帰宅した俺がまさかあんなことを言われるとは、俺は全然考えていなかった。






「おかえり。ごはんはお前さん一人で食べておくれ。あたしはちょっと寝るからさ」

「おかねさん」

「なんだい」

おかねさんはその時、床をのべて布団に包まっていて、また俺に背を向けて、壁に向いて横になっていた。

「何か、私に話すことがあるんじゃないですか」

そう言うと、おかねさんの肩はぴたっと上下するのをやめ、ずいぶん経ってから彼女は長いため息を吐き出した。それから起き上がって、「煙草盆を」と言った。

俺は反対の壁に寄せてあったそれを取り、おかねさんの布団の横に据えた。