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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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その晩、おかねさんは遅かった。そして、ずいぶんとお酒を飲んで帰ってきた。

「おかねさん!どうしたんですこんなに酔っぱらって!」

土間から上がる時に彼女は上がり框に足を突っかけてしまい、その場にどたーっと倒れてしまった。俺が慌てて駆け寄ると、彼女からは深酒をしたらしい匂いがしたのだ。

俺は、顔をべたっと畳に引っ付けていたおかねさんの体を起こして、手を引いて肩にかつぐと、とにかく壁に彼女の背中をもたせて座らせ、急いで布団を敷いた。

「…布団はまだいいよ」

「何を言ってるんです!早く休まないといけませんよ!」

するとおかねさんは息を吐くだけのようにふっと笑い、座ったままで下を向いた。

「いいから。話をしよう…」

俺は、彼女がどこか自暴自棄になっているような気がして不安になって、下を向いたままの彼女が話し始めるのを、じっと待っていた。

こんなに飲んで遅くに帰るほどのことが、今日、あったのだろうか。何かあったのなら、俺はまず彼女を慰めないと。

そう思っていたのに、おかねさんがいつまで経ってもしゃべり始めなかったので、俺はおそるおそる下から覗き込んで様子を窺った。

彼女は、やっぱり眠ってしまっていた。それに、すごく疲れたように、眉間にしわを作ったまま。

俺は、理由はわからないけどすごく疲れて、それからここ数日何かに悩んでいたのだろうおかねさんを布団にそっと横たえさせ、少しため息を吐いた。

彼女のこめかみには、熱病の傷跡が残ってしまっている。


女性である彼女にとっては、顔に傷が残るなんて、やっぱり耐えられないものなのかもしれない。その辛い気持ちが、日々を過ごすことで収まってくれるといいけど…。


俺は、彼女のために取っておいた豆腐をとりあえず棚にしまい、自分は遅い晩ごはんを食べて、くうくうと寝息を立てる彼女の姿を確かめてから眠った。