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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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真夏のある夜、俺はかっぱらってきたむしろの上に横になり、橋の下で唸っていた。その頃の俺は品川に生活する場所を移していて、知っている人など誰も居なかった。

知り合いも居ないのは心細かったけど、それ以上に、原因不明の病が俺を追い詰めていた。


息が苦しい。咳が出る。高熱も出ていた。それに、全身に蕁麻疹のようなものができていて、かゆくてしかたない。


結局俺は眠られないままで夜を明かし、朝になっても唸り続けていた。

朝の日差しが橋桁の下に居る俺の横っ面を照らして、眩しくて仕方なかったけど、もう首をひねる余裕もなかった。俺が吐く息はどんどん熱くなっていく。

“これはもういけないだろうな。俺もここまでか”

自分が死のうとしているのだと感じ始めた頃、俺の目にはひとりでに涙があふれた。

“もう一度彼女に会いたい。一目でいい。そして、死んでいく俺を彼女に見守っていてもらいたい”

そう思っていると、川辺の葦を踏んで誰かがこちらに近づいてくる足音がした。でも、俺はもう目を開けられなかった。

咳は出るのに、ぐったりと力が抜けて重たくなった俺の体は、自分で火傷をしそうなくらいに熱くて、俺は夢の中に居るように、目の前に彼女の顔を見ていた。

夢の彼女は、俺のことを覗き込んで心配をしているように悲しそうな顔をして、俺は“もう一度、おかねさんの笑い顔が見たかったな”と思っていた。

その夢で彼女は俺をゆすぶってから何かを叫び、俺は誰かに優しく抱きかかえられるような心地がした。


“ああ、仏様が迎えに来たのかな。天国と地獄なら、どっちがいいんだろう”


俺はそんなことを考えながら、自分を手放した。