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短編集91(過去作品)

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 のどかな田園風景を眺めていると、助けを求めていた転校生の顔が微笑みに変わっていくのを感じるようになっていた。あくまでも自分に都合のいいように感じているだけなのだが、今までは悪い方にばかり考えていたように思えて、都合よく考えられる今の自分が生き生きしているように思える。
 洗面所の鏡を覗いてみた。いつも眺めている自分の顔には違いないが、後ろに誰かがいるような気がする。
――まだちょっと鏡を見るのは怖いかな――
 と感じるが、ほっとした顔色になっていることは間違いない。
 電車に乗らなくなって久しいが、乗りたいとは思わない。できればもうあの電車にだけは乗りたくないと思うのはなぜだろう?
 鏡を見たその日の夜、夢を見た。
 いつも乗っている電車を表から見ている自分。表から見ているとさすがに中に乗っている人の顔までは分からない。しかし、自分がいつも乗っている車両の、いつもの席に人がいて、それが自分であることは分かっている。お互いに一瞬だけ目が合っているのだ。
「大変なんだよ」
 次の日のことだった。どうやら朝のニュースを見ながら待合室で入院患者と医者が話しをしている。
「列車脱線事故なんだって?」
「ええ、そうなんですよ。それもけが人も多数出ているらしい」
「三両目が一番ひどいらしいんだけど、その車両には誰も乗っていなかったらしいのが不幸中の幸いだったとのことですよ」
「いつも誰も乗っていないのかい?」
「いや、いつもはサラリーマンが一人乗っているらしいんだけど、その日に限って乗っていなかったらしいんだ。いつも同じ人らしくて、車掌はその日に乗っていなかったので不思議に思っていたらしい」
 話を聞いてみるといつも乗っている電車らしい。その電車が脱線事故を起こしたのだ。
きっと車掌がいつも見ていたサラリーマンというのは千早のことだろう。これこそ入院していても不幸中の幸いだったのだ。
 だが、その日からずっと同じ夢に苛まれている。それは電車を毎日表から見ている夢であった・・・・・・。

                ( 完 )

作品名:短編集91(過去作品) 作家名:森本晃次