小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

猟奇単純犯罪

INDEX|25ページ/30ページ|

次のページ前のページ
 

 と言って、刑事は何かのコードの先に小さな突起がついていて、反対側はプラグのようなものになっているのを発見した。
 それを科学班の人が見て、
「ああ、これは盗撮セットですね。この先に超小型のカメラがくっついています」
 と言って、綿引刑事に見せた。
「これがカメラ?」
「ええ、今はこれくらいのものであれば、通販などでも買えますからね。ただ、闇でしょうけど」
 と言っていた。
「なるほど、そこまでは思いませんでしたね。この浪人生がどうしてこんなものを持っていたのか不思議ですよね。何をしていたんだろう?」
「指紋ですが、あまりにも小さな線だったりカメラなので、採取することはできませんでした」
「分かりました。こちらはこれの出所を探ってみましょう」
 と言って、カメラの出所を探ることにして、その日は署に戻った。
 翌日になってから、鎌倉探偵が警察署を訪れた。
「やあ、鎌倉さん、お久しぶりです」
 鎌倉探偵は、最近よく事件解決のために、警察に協力してくれていたので、綿引刑事とも、昵懇であった。
「こんにちは、綿引さん。ところで綿引さんが、新興住宅のマンションでの主婦殺しと浪人生殺しの捜査をされていると聞いたのでやってきました」
「ほう、それはどういうことでしょう?」
「依頼内容は守秘義務がありますので、詳細までは言えませんが、実は私に依頼してきたというのが、このマンションの管理人なんです」
「管理人というと、確か藤原とかいう管理人ですか? 確か彼は最初の被害者である奥さんの第一発見者だったと思いますが」
「ええ、そうです。管理人から依頼を受けたのが、ちょうど事件が起こったあの日の夕方だったんですが、今日になって連絡をくれることになっていたんですが、連絡がもらえなくて、マンションに行ってみると、管理人室には誰もいないんですよ。何となく気になって、それでちょっと、こちらに寄らせてもらったんですけどね」
「ということは、管理人の藤原氏は行方不明ということでしょうか?」
「そういうことになりますね」
 まだ一日だけなので、行方不明というのは、判断が難しいかも知れないが、少なくとも事件の第一発見者である管理人が行方をくらませたのだとすれば、犯人であるかないかは別にして、大きな役割を果たしていると思ってもいいかも知れない。
 それにしても、管理人は、鎌倉探偵に何を依頼したというのだろう?
 探偵がいうように守秘義務があるのだから、簡単には話してはくれないだろうが、管理人が事件に関連していることが少なからず証明されれば、おのずと黙っているわけにもいかなくなるだろう、
 最初の被害者の隣の部屋に住む浪人生が殺されたという事件も発生している。それを思うと、二人を殺したのが同一犯人で、管理人が秘密を知っているのだろう。
 さすがに主婦を殺しておいて、事件に関しての何らかの依頼をするというのも考えにくい。
 もし、警察は管理人を重要容疑者としてマークし始め、そのことを管理人が感知したのだとすれば、探偵に自分の容疑を晴らしてほしいという話をしに行っても理屈は分かるのだが、今はまだ警察は初動捜査を始めた時点で、何も分かっていない。管理人は何を恐れているというのか。
 しかも、失踪したのだとすれば、自分から姿を消したのか、誰かに狙われているという予感があったから姿を消したのか。
 自分から姿を消したのだとすれば、何か後ろめたいことを感じたとも言える。しかし、すでに鎌倉探偵に何かを依頼しているのであるから、自分から姿を消すというのは理論的におかしなことだ。それでも姿を消さなければいけないのであれば、一体どういうことなのか、不思議なことだ。
 綿引刑事は、いろいろ頭の中で試案を巡らせていた。だが、結果は見えてこない。見えてこない理由として、一つのことを考えていると、他のことから派生した考えと重なってしまい、別の方向から考えるとさらに裏返ってしまう。堂々巡りを繰り返しているように思うのだった。
 ただ、金倉探偵が何を知っているのか、きっと管理人の何かの秘密を知っているのだろう。そうでなければ、
「守秘義務がある」
 という言葉をいきなり言わないと思った。
 もちろん、探偵における守秘義務が絶対で、警察相手であれば、それが大前提になるので、本当は最初に断るのが当たり前のことなのだろうが、今までの鎌倉探偵からすると、どうも腑に落ちないところがある。
 そういう意味で、彼が知っていることと、綿引刑事が考えていることは、同じ線である気がした。しかし、それが交わることはないのではないかと今感じていたのだ。
 あれから一月が経過したが、捜査の具合も、管理人、藤原氏の捜索も進展はなかった。一つだけ分かったことがあり、例の盗撮セットであるが、あれを浪人生は購入してはいなかったということであった。綿引刑事は大いに落胆したが、鎌倉探偵の方は別に当然という顔をしていた。それを見て綿引刑事は、
――これが鎌倉探偵の頭の中にあったようだということは、この盗撮グッズを購入した人間に心当たりがあるということか?
 と考えてみると、次第に分かっていなかったことが氷解してきたような気がした。
――なるほど、そう考えればある程度説明がつく――
 このことは守秘義務があって自分の口から言えないことであり、
――捜査に協力はできないが、リアクションで、我々に鎌倉探偵が知っていることを伝えようとして、いかにもわざとらしい素振りを見せているのかも知れない――
 と綿引刑事は感じた。
――まず、盗撮グッズを購入したのは、管理人の藤原である。藤原だったら、管理人という立場から部屋に侵入することもできるだろう。また、何かの工事の立ち合いということにすれば、公然と部屋に入ることもできる。不法侵入だが、バレなければいいと思っていたのかも知れない。ただ、それを自分で楽しむだけであればいいのだが、何かの脅迫にでも使っているのだとすれば、問題だ。だが、もしそうであったとすれば、簡単に鎌倉探偵に何かの捜査を依頼するなどということはできないだろう。だが、管理人が盗撮していたのだとすれば、その時に何が起こったのか、彼の部屋の機械を捜索すればいいのだ――
 と、そこまで考えたが、捜索するにも本人はいない。
 さらに、容疑が決まっているわけではないので、捜索令状も取ることは難しいだろう。鎌倉探偵も分かっているから、自分の守秘義務もあり、迂闊なことはできないと思っているに違いない。
 だが、そこまで仮定できたとしても、そこから先が難しくなってくる。
 どうして、盗撮グッズと隣の部屋の浪人生が持っていたのか? どうして、その浪人生が殺されなければならなかったのか? このあたりがどうにも説明がつかない。
 管理人が何かを鎌倉探偵に依頼したとして、警察に内緒にしていたのは、盗撮の問題があったからだろうが、それをどうして浪人生が持っていたのか、浪人生は何かの理由で盗撮を知った。そして管理人を脅迫でもしたとして、そうなると殺したのは管理人。
 だったら、管理人が奥さんも殺したのか? だったら、あんなに簡単に死体が見つかるようなことはしないだろう。
作品名:猟奇単純犯罪 作家名:森本晃次