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猟奇単純犯罪

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 刑事はそれを聞いて、牛島夫婦は仲が悪いわけではないが、決してよかったというわけではなく、ご主人の方で何か奥さんに疑問のようなものを感じていたような雰囲気が感じられた。
 旦那との事情聴取ではそこまで込み入った話は出なかった。そして裏付けの中で旦那のアリバイがあるので、それ以上聞くことはなかったが、刑事には何か引っかかるものがあったのも事実で、少し頭の片隅に置いておこうと思った。多分、忘れることはできないと思ったからだ。
 今度は反対側に住んでいる隣人の男に事情聴取をした。隣人の男というのは例の浪人生で、彼は奥さんが殺されたということを聞いてからなのか、かなり青ざめているように見えた。
「本城さんは、浪人生なんですね。ところでお隣の奥さんなんですが、お話したこととかありますか?」
 と聞かれた本城は、
「ええ、ありますよ。一度、おすそ分けだと言って、食事の残りをいただいたこともありました」
「嬉しかったでしょう?」
 刑事は好奇の目で、下から見上げるように聞いた。
「ええ、何と言っても一人で寂しい浪人生ですからね。頑張って勉強しようと思いましたよ」
 少しの会話で、先ほどの真っ青な顔に少し血色が戻ってきたようだ。
 先ほどの表情は、奥さんに限らず身近な人が亡くなった、しかも殺されたということでのショックと、警察がやってきていろいろ聞かれるという緊張感とが一緒になって、あんなに青ざめていたのだろう。警察の聴取にも慣れてきたことで血色が戻ってきたのだとすれば、今刑事が考えたことへの信憑性には十分になると思われた。
 刑事はいろいろ聞いてみたが、彼の話はのらりくらりしているようで、どうにも要領を得ない。やはり浪人生というものは思考回路がどこか違う回転をしているのではないかと思う。きっと大学生でもない社会人でもないそんな自分に対して後ろめたさのようなものがあるからではないかと感じた。
「分かりました。また何かお伺いすることもあるかも知れませんが、今日はこのあたりで結構です」
「ご苦労様です」
 と言って刑事が部屋を出ようとした時である。
――おや?
 刑事はその視線は聴取を行ったリビングから表に繋がる途中に何か粒のようなものが足元に転がっていた。米粒よりも大きなもので、アーモンドよりも少し小さなもの。コメのように真っ白というわけでもなく、アーモンドのように赤褐色という感じでもない。
――何だろう?
 と思ったが、粒に筋が入っているように思えたので、それがひまわりの種であることに気が付いた。
――そうだよ。あれはハムスターとかの餌になるものだよな――
 と思って、部屋の中を見渡したが、どこにもハムスターはいなかった。
――変だな?
 と感じたが、その時はそれ以上考えなかった。
 浪人生の寂しい生活をしていると、ペットくらい飼いたくなっても仕方がないだろう。ただマンションなので、犬や猫というのは抵抗がある。鳴き声が近所迷惑になったりするし、一番飼育するのに適しているのは、ハムスターなどちょうどいいのではないだろうか。実際に刑事の知り合いで、マンションでハムスターを飼っている人もいた。だが、この間話を聞いた時、
「ハムスターは元気にしているかい?」
 と聞くと、少し寂しそうな表情で、
「今はもう飼っていないんだ。ハムスターというのは寿命が短くてね。この間一匹信者ってね。それを追うようにもう一匹も死んじゃったのを見て。可哀そうになって、さすがに継続して他の子を飼ってみようという気にはなれませんでしたね」
 と言っていた。
「ハムスターの寿命ってどれくらいなの?」
「そうだな、平均三年くらいかな? 病気になれば、もっと短いからね」
 と言っていた。
 さすがに三年は短い気がした。
 刑事は、自分が子供の頃に犬を飼っていたのを思い出した。小さな頃から世話をしていたが、結構生きて、十何年かは一緒にいたような気がした。幼稚園お頃からだったので、高校を卒業するまではいた。大学は都会に出てきたので、犬を残してくる形になったが、二年生の時だったか帰省した時いなかったので、
「死んだんだ」
 と思った。
 親にそのことを聞くのも忍びない気がして、わざと聞かなかったことを覚えている。子供の頃ずっと一緒だったので、愛着があり、いない家に帰ってくると、違うところに来たみたいな違和感もあったくらいだった。寿命が短いのは、そこまで愛着を感じることがないのでまだマシなのか、刑事にはよく分からなかった。
 刑事はこの浪人生に対して、事件に関してのことよりも、ハムスターが部屋にいないことの方が気になっていた。ベランダにいるのか、それともどこかに連れて行っているのかである。
 もしそうだとすれば、動物アレルギーの人が訪れた可能性もないとは言えない、もう一度近いうちにここを訪れてみようと思った。しかし、その必要はなく、いやが上にも訪れることになるのを、その時刑事には分からなかった。

                  鎌倉探偵

 牛島桜子が殺されてからその翌日。いよいよ桜子のことの捜査を本格的に行おうとしていた矢先、今度は同じマンションで別の殺人が行われていた。殺されたのは、牛島桜子の隣に住んでいる浪人生の本城直樹だった。その事実は、捜査関係者に衝撃を与えた。
「やつがなぜ?」
 と昨日本城に面会し、ハムスターに疑問を持った刑事の綿引は、どうしてもっと昨日事情を聴かなかったのかと後悔した。
 だが、昨日の状況で、あれ以上の話はできなかったわけで、仕方がなかったのだが、昨日の今日というのは、どうにも合点がいかない。
「綿引さん。これは同一犯ですかね?」
 と聞かれて、
「その可能性は高いだろうな。そして動機の可能性として一番大きいものは、彼が何かを見たために殺されたという考えだね。犯人にとって何か致命的なものを見られたのか、それとも、彼が犯人をそのことで脅迫でもしようと思ったのか、ただ、彼のような浪人生に、誰かを脅迫できるような気持ちに余裕があったかということだよね。例えば脅迫してお金を取ったとしても、受験に合格できるわけでもないからね。彼にとって重要なことが本当にお金だったのかということだよね」
 と言われて、部下の刑事は、
「なるほど、そうかも知れませんね。彼にとっての受験は、今は人生のすべてのようなものだろうから、いくら脅迫してお金が入るとしても、それは一時的なものでしかないことを分かりそうなものですからね」
「だけど、思い込みはいけない。受験にストレスがたまりまくっていて、その解消のために眼前にお金がチラついたら、衝動的に飛びつくというのも、人間の心理だからね。ありえないことではないだろう?」
「ええ、その通りです」
「ただ、ここで彼が前日の奥さんの殺害に、何らかのかかわりがあったということは間違いないだろうね」
「そうかも知れませんね」
 翌日までに、浪人生の部屋も十分に捜索された。彼の部屋は浪人生としては結構片付いている方かも知れない。そのおかげで、彼が押し入れに隠していたものを発見できたのだが、それが何を意味していることなのか、難しいものだった。
「これは一体なんだ?」
作品名:猟奇単純犯罪 作家名:森本晃次