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猟奇単純犯罪

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 その部屋は、三〇五号室で、表札には
「牛島」
 と書かれていた。
 ああ、管理人が人が死んでいると言って、奥さんを連れ込んだその部屋は何と、幸助と桜子の部屋ではないか、
――ということは、死んでいるのは二人のうちのどちらかということになるではないか――
 奥さんは、牛島家のことも知っていたので、さすがに知り合いの部屋で人が死んでいると聞くとビックリする。
 この管理人の様子を見ると、ここまで驚いているということは、きっと見た瞬間、死んでいるのが分かったということか、それであれば、外傷があるということになるが、それとも揺り起こそうとしても返事がないので、死んでいると思ったのか、どちらなのだろうか?
 もし外傷で感じたのだとすれば、刺殺である。まわりには夥しい血液が飛び散っていて、見るからに惨状を描き出している光景。きっと血液の鉄分の臭いもして、息もできないくらいの悪臭が漂っているかも知れない。
 また毒殺などでは、血を吐いている光景を思い浮かべる。これは吐血なので、さらにどす黒く、臭いもひどい者だろう。どちらにしても、死に顔は、断末魔の様相を呈していて、まともに見ることはできないものかも知れない。
 そういう意味ではそんな惨状に再度管理人を案内させるというのは酷なことなのかも知れないが、このまま放っていくことはできない。奥さんも根性を据えて、その現場に踏み込む覚悟をしていた。
 部屋は開いていた。管理人が発見したのだからそうであろう。靴は女性用の靴しかなく、乱雑になっていた。
 中に入るが、想像したような血みどろの光景は見当たらない。臭いも鉄分を含んだような、あの嫌な臭いがしてくるわけではなかった。
「こ、こちらです」
 玄関から入り口を入り、右側にリビングがあるが、それは自分も同じマンションに住んでいるので、間取りが同じなので、分かり切っていることだった。ただ、部屋はまったく別の部屋で、普段から丁寧に片づけられているのが分かっていた。
 ベランダは半分開いていて、ベランダの奥に二つのプランターが置いてあり、家庭菜園であることは分かった。数日前から桜子がやっている例の家庭菜園である。
 リビングに入るとソファーが置いてあり、その向こうにテレビが設置してある。
――私の家のよりも二回りくらいでかいかしら?
 と思い、部屋の大きさから比べれば大きすぎるように思うテレビが、部屋を狭く感じさせるイメージがあったのだ。
 二人掛けのソファーの向こうを見ると、一人の女が仰向けになって倒れている。ただ、体半分はテレビの方を向いていて、顎を少し上げる形で、目を開けているが、瞬きはしていなかった。
 口は半分開いていて、明らかに断末魔の表情だった。
 だが、一見どこにも外傷は見られない。
――心臓麻痺か何かの事故かしら?
 と思ったが、とにかく変死であることには違いない。
――そもそも死んでいるのか?
 と思い、奥さんは手首を握って、脈を調べていた。
 すると、苦み走ったような表情をすると、
「ダメ、亡くなっているわ」
 と言って、手を合わせて、合掌した。
「管理人さん、とにかく警察を呼ばないとダメよ。すべては警察が来てからね。そして私たちはなるべく警察が来るまで何もしないようにしないといけないわ」
 と、テキパキとした指示を与えた。
「はい」
 と言って、管理人はその場を離れて、管理人室に向かった。
 管理人はもたもたしていて、管理人室に奥さんが入った時、まだ電話をしているところだった。電話が終わって、
「何をしていたのよ。管理人さんが出て行ってからだいぶ時間が経っているわよ」
 と管理人を責めた。
「すみません。ちょっと気を落ち着かせてから連絡していました」
 と言ったが、実際には、それだけではなかった。
 この時の管理人の行動は事件に重要な意味があるので、少し気に留めておいていただきたい。
 管理人が警察に連絡してから、ほどなくして警察が到着した。警官と初動捜査の人たちであろうか、まわりに立ち入り禁止のロープを張ったりして、刑事が到着するのを待ちながら、初動としての取り調べが行われた。
 取り調べを受けたのは言うまでもなく管理人と、奥さんであった。二人は口裏を合わせないように、お互いに別々に話を聞かれた。奥さんに対しての質問と返答は、ここに記した以外には何も新たな話はなく、少年が見かけたという管理人の様子がおかしかったということだけは伝えた。奥さんとしては、自分の中では、管理人の様子がおかしかったという意識はあったが、勝手なことを言って、警察の捜査を混乱させてはいけないと思い、何かを聞かれるまで、余計なことは言わないようにしようと思った。
 管理人は、第一発見者でもある。当然、慎重に取り調べを受けた。
「あなたはどうして発見したんですか?」
 と聞かれて、
「最初扉が開いていたんです。私は別の部屋に用事があったので、それを済ませてから戻ってきた時にもまだ空いていたので、おかしいなと思いました。しかも、最初と同じだけの隙間だったんで、誰も動かしていないと思いました」
「どれくらいの時間だったんだ?」
「十分くらいだったと思います。私が最初にこの扉を触らないように避けるようにしてその扉を通り超えたんですが、帰ってきた時もまったく同じように扉を避けるようにしたのでよく分かります」
 と言って。管理人はお腹を抑えた。
――なるほど、これくらいの体型なら、それも仕方がない――
 と、取り調べをしている初動捜査員二人は、そう思った。
 さらに管理人は続ける。
「十分も部屋の扉を開けっぱなしにしているというのは変です。それで私は気になって中に入ってみたんです。すると、そこに一人の女性が倒れていて、それで腰を抜かしてしまったんです」
 という話をした。
「ところでこの方は誰だか分かりますか?」
 と聞かれて、
「ええ、この部屋の奥さんである、牛島桜子さんです」
「管理人さんとは、何度かお話されたことはあるんですか?」
「いえ、あまり馴染みはありませんでした」
 この管理人は、どうやらあまりマンションの住人とは話をするタイプではないようだということは、その後行われたマンションの住人からも証言を得ていた。
 同じ話はその後に来た刑事にも行われた。
「また、同じ話をするんですか?」
 と言いながらであったが、それはしょうがないことだとして、管理人も従うしかなかった。
 ただ、管理人も気が動転しているからなのか、話していることにどこか辻褄が合っていないように思われたが、それも実際に人によってはあることなので、少し管理人も注意しながら、捜査が続けられるようになった。
 鑑識の捜査にて、死因は絞殺。首にタオルのようなもので絞めた跡があった。ただ、後頭部も殴られていて、殴られてから昏倒したところを、後ろから首を絞められたようだ。だからであろうか、悲鳴を聞いたという人もいなかった。死亡推定時刻は、その日の午後三時前後、つまり、発見されるまで、それほど時間は掛からなかったということである。
作品名:猟奇単純犯罪 作家名:森本晃次