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猟奇単純犯罪

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 グラマーな体型で可愛い系というアンバランスな雰囲気が、本当であれば男心をくすぐるのだ。彼女に対して告白してくる男性は少なくなく、短い期間に別れても、次から次に付き合う相手が変わるだけなので、絶えず誰かと付き合っているというイメージだ。
 ただ、相手が違っていることが彼女を中途半端にしか知らない人は、
「男を狂わせるタイプなのかも知れない」
 と思い、敢えて彼女と距離を取っている人もいるくらいだ。
 そういう意味で、幸助はそっちのタイプだった。自分も社交的ではない性格であり、しかもそれまでずっと学生時代から付き合っている女性がいたのだから、他の女性に目が行くはずもない。
 ただ、避けてはいたが、桜子のことをかわいいと感じていたのは事実のようで、嫌いだというイメージはなかった。
 それだけに、距離を保っていたというのが本音で、避けていたという感覚は桜子側が勝手に感じていたことだった。
 だから、自分を避けている男が女性にフラれてショックを受けているのをいちいち気にするはずもなかった。
 別に好きでも嫌いでもない相手なので、
「どうでもいい」
 と感じているだけだったのだ。
 だが、桜子という女の子は、実際にはウブだった。男性を知らないわけではなかったが、下ネタの話などは、他の友達に任せていて、自分から積極的に話に行くタイプではない。高校時代までは、結構ませたタイプだったようだが、友達ばかりが目立つようになってしまったので、自然と自分は引っ込み思案な性格に変わってしまった。
 中学の頃というと、ファッション雑誌などを結構見ていて、自分も将来ファッション関係の仕事に就きたいと思ったほどだった。実際にファッションセンスに関しては今でもいい。それは誰もが認めるところであったが、目立つというところまではいかなかった。
 そのうちに、高校生になると、それまでいつも自分の後ろにいたような女の子が急に饒舌になった。何が彼女をそんな風に変えたのかというと、これも考えればすぐに分かること、その女の子に彼氏ができたからだった。
 元々、暗い性格ではなく、何かのきっかけがあれば、会話にしてもいくらでもできる女の子だった。きっと自分でもそのあたりは分かっていたのだろう。分かっていたからこそ、彼氏ができたのだと思うのだし、どうして自分が表に出なかったのかというと、ただ自分に自信が持てなかったからだった。
 彼女は人の顔を覚えるのが苦手で、一度人ごみの中で知り合いを見かけたと思い、思わず声を掛けると、
「あなた、誰ですか?」
 とキョトンとされたことがあった。
 それ以来、彼女は人に声を掛けられなくなり、同時に自分に自信も失った。同時に失った自信なので、一つ取り戻すことができれば、他の自信も簡単に取り戻せるのは必然だった。
 今でも人の顔を覚えることができない彼女ではあるが、一度高校を卒業してから連絡を取り合っていなかったのに、就職してから少しして、電車の中で偶然出会ったのだった。
 彼女は名前を塩塚りえという。
「桜子じゃないの?」
 と言われて、最初は誰なのか分からなかった。
 普段から急に声を掛けられるなどないことであったが、とりあえず相手が女性でよかったと思った。
 振り向けばそこにいたのは、どこかで見たことがあるような気がしたが、すぐに思い出せる顔ではなかった。それだけ高校時代の記憶というと桜子にはかなり昔の記憶だということであった。
 化粧が濃いわけではなかったことで何とか思い出すことができた。
「ひょっとして、高校の時一緒だった、りえ?」
「ええ、そうよ。久しぶりね」
 高校の頃から前のことは、あまり思い出したくないと思っていた桜子だったが、りえの顔を見ると急に安心感が湧いてきた。
――だが、待てよ? りえというと、人に話しかけることに対して、極度のトラウマを持っていたはずじゃないのかしら? どうしてこんなにも簡単に私に声を掛けることができたのかしら?
 という思いがあった。
「本当に、りえなの?」
 と思わず聞いたくらいで、
「何よ、そんなに不思議なの?」
 と言われて、
「だって、あなたの方から誰かに声を掛けるなんて、ちょっと信じられなくて」
 というと、それに関して彼女も別にこだわっている様子もなく、
「あれからだいぶ経ったもんね。私も変わったのよ」
 とあっけらかんと言ったが、こんなに重要なことを簡単に言えるような性格でもなかったはずだ。
――何が彼女を変えたのかしら?
 と思ったが、その後、
「彼氏ができた」
 と聞いて、
「なるほど」
 と感心したのだった。
 桜子としては、先を越されたという意識が強かったが、焦る気持ちはなかった。それは彼女の変わりようが少し大げさすぎたからだ。以前の彼女を知っている人であれば、違和感を抱かないわけはないと思えた。
 彼氏というものが、女性をどれほど変えるかということは、大学時代に見てきたことでよく分かった。
 桜子の直接の友達ではなかったのだが、その女の子はアルバイトでキャバクラで働いていた。桜子も、
「あなたもやらない?」
 と言って誘われたことがあった。
 しようとは思わなかったが、興味はあったので、どんなものなのか、彼女の口から出る言葉が聴いてみたかったのだが、
「男性を騙すつもりになってはいけないと思うの。自分が相手に好かれているという思いを錯覚だとして認識して、その時に彼が彼氏だとして、何をしてほしいのかを考えるようにすると、お仕事も嫌ではないし、お客さんからの指名も増えると思うの」
 と言っていた。
 その時は何を言っているのか分からなかったが、確かに彼女は楽しそうに仕事をしているということは分かった。
「普通の接客業と変わらないと思えばいいんだわ」
 と思い、一度だけ体験入店というものをしたことがあった。
 もちろん、その時のことは誰にも内緒だが、その時に、
「聞くとするとでは大違い」
 ということがよく分かった。
 もちろん、客のタイプにもよるだろうし、一緒についてくれたキャバ嬢にもよるのだろうが、客の好奇の目は、かなりグサリと突き刺さった気がした。明らかに厭らしい目が桜子に注がれた、髪の毛の先から舐めるような視線がどんどん下がっていく。途中、胸に来た時と、腰のあたりに来た時の視線の厭らしさと言えばなかった。思わず腰をくねらせたものだが、その様子を客はさらに舐めるような厭らしい視線で見つめた。
「まるでまな板の上の鯉のようだわ」
 と感じたが、その時に、恥ずかしさが頂点に達しているのを感じた。
 しかし、次の瞬間にはその恥ずかしさが続いてこない気がした。続いていないくせに、下がってくる気はしない。同じ恥じらいという感情があるのに、それが恥ずかしいという感情とは違っていると感じた。
――この感情は一体何なのかしら?
 と思うと、
「見られたいという感覚とは違うんだけど、何だか気持ちいいわ」
 と自分に言い聞かせた。
 気持ちよさは心地よさに変わり、相手の指が身体に触れでもすれば、鳥肌が立ってしあうのは間違いないと思っているのに、そのまま睡魔に襲われそうな感覚に陥った。
「ああっ」
作品名:猟奇単純犯罪 作家名:森本晃次