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猟奇単純犯罪

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。

                桜子

 都会へのベッドタウンとして、最近マンションが爆発的に増えてきたT坂ニュータウンでは、入居者募集のマンションや、近くでは分譲住宅が増えてきていた。近くには学校も設立され、スーパー、コンビニなども増えてきて、いよいよ新興住宅街としての様相を呈してきた。
 ベッドタウンとしての需要がこんなに高まるなど想像もしていなかった土地の持ち主たちは、次第に土地の値段が上がってくるのをほくそ笑んでいたことだろう。売るタイミングを見計らっている人もいるかと思うと、さっさと土地を売って、新しい場所に家を建てている人もいる。
「昔からの代々続いた家」
 などという設定は、すでに過去の話えあり、そんな土地は、ほとんどがすでに開発されていた。
 今、新たに開発されようとしているところは、昔の森林地帯であった場所を切り開いての場所なので、買収する土地というのは、住宅地ではなく、ほとんどが森林だった場所である。
 そういう意味では、土地に対する執着というのはそれほどはなかった。昔であればいざ知らず、森林地帯が高値で売れるということもなかったが、森林にしておいても、収入がそれほど入ってくることもなく、さっさと売った方が得策だと思う人も多かった。森林に対しての需要がそれほどないということであろう。
 それよりも、今は高度成長時代に建てられた家やマンションが耐久年数に近づいてきたこともあって、新たに建て直しというのが急務になっていて、新たに土地を開発するということが疎かになっていた。ただ建て直すのも、一度立ち退いてから、さらに建て直しという手間と時間が掛かるので、家や土地に執着しない人は、新たに開発される場所が自分にとって不便でなければ、引っ越していくというのもご時世になっているようだ。
 それでも、今の家が忘れられないという老夫婦は新たにできたところに残り、今の世帯主となっている息子夫婦は、新たに開発された土地に引っ越していくという家庭も多かった。
「いまさら、親と二世帯なんて、マンション住まいじゃあ、部屋も狭いし」
 という家庭もあった。
 親の世代は建て直した家に年金で住んでもらい、その分、息子夫婦には何ら干渉しないという取り交わしをしているところもあったようだ。
 ただ、その場合、建て直した家が小さくなるのは仕方がない。年金だけで賄えないところは、土地を売った部分で補填し、老夫婦二人だけで過ごせるだけ住宅で十分だった。
 実際に、今までの家も、息子夫婦がいるというだけで下手に広かったので、逆に気が楽である。
「これでいいんだよ」
 と息子夫婦がいうと、老夫婦も、安心したようにうなずいていた。
 嫁姑も、お互いに口には出さなかったが、かなりのストレスを抱えていたので、一番別居を喜んだのは、嫁姑だったのかも知れない。
 嫁と姑、どっちがストレスが大きかったのかは難しいが、一般的には嫁の方だろう。基本的に旦那はそんな嫁のストレスは知らないだろう。もし知っていたとしても、知らんぷりをしていたのは必定である。それを思うとここで世帯が分かれるというのは、実に好都合なことであった。
 しいていえば、孫がいたりした時に、老夫婦は今までと同じように孫の面倒を見ることができないということだろうか。
 息子夫婦は、自分たちから出て行った手前、もう老夫婦に孫を任せられないと思っている。しかし老夫婦にしてみれば、
「任せてくれていいのに」
 と思っている。
 孫を巡っての家庭内での抗争は、一緒に住んでいる時の方が、お互いの防波堤になってよかったかも知れない。親が見てくれなくなると、この問題は夫婦だけの問題になってきて、それまでなかった夫婦間のいざこざの元になるかも知れないと思うと、少し胸が痛むような気がした。
 そんなニュータウンの新しい方に、一組の夫婦が入居してきた。彼らは舅姑から「逃げてきた」というわけではなく、三十五歳を機に、新しいマンションを購入する気になったのだ。ちなみに、二人に子供はいなかった。
 旦那の名前は牛島幸助。某商事会社で営業の仕事をしている。彼の会社は全国チェーンではなく、地元大手と言われるところなので、転勤があったとしても、県内なので、今のところ営業所のある場所には、この場所からでも通勤はできるので、安心だった。
 今は本社勤務なので、電車を使って通勤時間に一時間とちょっとくらい、このあたりであれば普通に当たり前の通勤時間だった。
 ライバル会社も最近近くに営業所を作り、自分たちのエリアを脅かし始めたこともあって、少し忙しくはなったが、元からの地場大手ということもあり、信用は地元民に抜群なので、今のところは安泰だった。
 幸助が結婚したのは、今から五年前、社内恋愛で、三年という交際期間を経ての結婚だった。二人は同じ部署にずっと勤めていたが、最初は二人とも意識することはなかったように見えた。幸助の方は、大学卒業前から付き合っている女性がいたが、なかなか結婚に対して煮え切らない幸助に業を煮やして、彼女の方から遠ざかっていった。
 それまでの幸助と人間が変わってしまったのではないかというほど、露骨に落ち込んでいた。同僚の女性からみれば、
「何て情けない男なのかしら。女性にフラれたくらいであんなに落ち込んじゃって。元々明るい方ではなかったけど、さらにひどくなったわね。あれじゃあ、フラれるのも当たり前のことだわ」
 と、ウワサしていた。
 確かに幸助の落ち込み方は激しかった。
「女の腐ったみたいな情けなさ」
 と言われてもしょうがないくらいだったが、本当に仕事も手につかないほどになっていて、
「このままだったら、クビになっちゃうわよ。まあ、いい気味なんだけど」
 と、彼を擁護する人は誰もいなかった。
 もちろん、そんなことを彼の前で口にする人もおらず、ただでさえ、彼が近くにいると鬱陶しく思えた。
「そんな態度を取られると、こっちまでどうにかなっちゃんわ」
 と、苛立ちを隠せなかったので、本当は文句を言いたくて仕方のない人も多かったことだろう。
 幸助の奥さんは、桃井桜子と言った。桜子は、そんな幸助のことを最初は何とも思わなかった。桜子自身、あまり人と関わる方ではなかったので、人のことを気にしないような性格になっていた。
 今までに男性と付き合ったこともあったが、長続きしなかった。桜子とすれば、
「どうしてなのか分からないんだけど、相手が私から放れていくのよ」
 と同僚には話をしていたが、実際に同僚もどうして彼女が長続きしないのか、不思議でしょうがかなった。
 ルックスもキレイというよりも可愛い系で、男好みのするタイプのはずだった。少しポッチャリしてはいるが、太っているというわけでもなく、体系的にはグラマーと言ってもいいだろう。
作品名:猟奇単純犯罪 作家名:森本晃次