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猟奇単純犯罪

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 何を考えているか分からなく見えた女性の中にも、しっかりと自分を見ている女性もいた。気が強く見えた女の子だったが、彼女はきっと幸助が他の女性とも付き合っていることを知っていたに違いない。
 知っていて何も言わなかったのだから、ひょっとすると彼女も同じように、他に男性がいたのかも知れない。彼女の強気な態度は、そのあたりから見えていたのかも知れない。
 そう思うと、それは自分にも言えることではないかと思い、付き合った女性のほとんどは、幸助のことを強気な男性だったように思っているのではないだろうか。その思いが天真爛漫な自分の性格を抑えてくれていると思ったことが、付き合ってこれた最大の理由だったのかも知れない。
 だが、幸助には不思議と罪悪感はなかった。正当性を求める気持ちはあるのに、罪悪感がないというのはおかしなものだが、お互いに結婚するつもりのない相手だと思っていたので、許されるとでも思っていたのだろう。
 四年生になって声を掛けてきた女性の雰囲気は、本当に
「お姉さん」
 という雰囲気だった。
 今までは友達に連れられてスナックなどに行くこともあったが、スナックでも高いレベルの端正な顔立ちの女性として人気があるであろうと思われるような女性であった。
 友達に連れて行ってもらったスナックでは、ほぼモテたのではないかと思う。多分にお世辞が混じっていたのは否めないが、それでも皆が褒めてくれるところが共通していた。それは偶然だとしても、まったく知らない数人の女性から、同じ褒め言葉を貰うというのは、もう疑うことなく、そう思われているということであろう。
 その褒め言葉というのは、
「頼れる雰囲気なんだけど、それは女性の私たちが癒されるイメージを感じるような気がする」
 というものだった。
 皆が同じ言葉ではないが、概ね似たような表現である。パッと聞いて、理解できる内容ではないが、よく聞いてみると、褒め言葉に思えた。
「それって褒め言葉だよね?」
 と聞くと、
「もちろんそうですよ」
 と真剣そのものという表情が返ってくる。
 取って付けたような褒め言葉ではなく、難しい言い回しを自分独自にアレンジしていってくれるのは、男としては嬉しい限りである。
 それから、幸助は自分を、
「女性に癒しを感じさせることができるタイプだ」
 と思うようになった。
 だから、しっかりしている女性とは自分は合わない気がした。お互いに磁石で言えば同極のような関係で、反発しあうのではないかと思ったからだ。しかし、逆に反発しあわないのであれば、
「これ以上の惹き合う関係もないのではないか」
 と思うようになっていた。
 それから、それまで意識したことのなかった、
「大人の女性」
 を意識するようになったのだが、意識し始めると、やっぱり相手が自分を相手にしていないということに気付かされた気がして、
「やはり自分は大人の女性との付き合いは難しいのかも知れないな」
 と思うようになっていた。
 彼女とはそれからその日は話をすることはなかった。お互いに初対面だったし、少し彼女の方が幸助を避けている雰囲気があったからだ。それまでもそうだったのだが、幸助はいつも、自分から女性を追いかけたことはない。それは自分がモテるということへの自信から来ているものだが、
「ダメなものはダメ」
 という早めの判断があったからなのかも知れない。
 それを今まで付き合ってきた女性は最初、
「この人は頭がいいんだ」
 と思ってきたようだ。
 しかしそのうちに彼の性格がドライであるということが分かってくると、彼に対して最初に感じる疑問は皆そこだった。だから、自然消滅も多かったが、女性の方から彼との別れを口にする場合もあった。その場合の相手はかなり悩んでのことであろうが、ハッキリさせないと自分的に前に進めないという性格がハッキリした女性だっただろう。自然消滅というのは、お互いに傷つかずにいいのかも知れないが、理由が分からないというだけに、モヤモヤした感情だけが残るという意味では決していいことではないような気がした。
 三年生になって、それまであれだけいつも幸助のまわりにいた女性がパッタリといなくなったのかということを考えると、おのずと分かってくることもあったであろう。
 幸助は別に絶えず自分のまわりに女性がいなければ我慢できないというような性格ではない。寂しがり屋というわけでもないので、いないならいないで、自分の好きな生活をするだけだった。
 三年生になってから一人になり、一人での時間を大切にするようになると、一人の時間が楽しくなった。三年生の頃はそういう意味でやりたいことをやっていたと言ってもいいだろう。
 幸助は今までしてこなかったことを自由にしようと思っていた。そのため、誰かが一緒ではできないような趣味をすることはなかった。やってみたいと思ったのは、釣り、絵を描くこと、などであった。
 釣りは初めてであったが、最初は釣れる釣れないは関係なく、道具を揃え、本でそれなりに勉強し、そして実際にどこかの漁場に数日フラッと出かけるということを楽しみにした。釣れる釣れないは本当に関係ない。
「一人で釣り糸を垂らして、何が楽しいのか?」
 というのがずっと疑問だった。
 今までに一人で何かを考えるということが非常に少なかったと思っている幸助は、一度味わってみたいち思ったのが、釣りへの興味の発端だった。さらに、これは本に載っていたことであったが、
「釣りが好きだという人は、短気な人が多い」
 と書かれていたことだった。
「釣り糸を垂らしているだけで、いつ釣れるかも分からない状況に短気な人が追い込まれて、それで我慢できるという感覚が分からない」
 という思いである。
 釣りというものが我慢するものだという感覚はない。釣れた時は感無量の喜びであることは分かるのだが、そこに行き着くまで我慢できるか、というのは、幸助にとっての最大の疑問だったのだ。
 ただ、我慢というレベルの感覚ではないとすれば、釣り糸を垂らしている間、絶えず何かを考えているのではないかと思ったのも事実である。何かを考えているから、我慢できるできないの問題ではないという思いだが、では、絶えず何かを考えているその考えは、果てしないものなのかという疑問にぶち当たった。
 果てしないものであれば、そこには、限界があるわけではない。限界のないものが何かを考えると、
「同じ考えを繰り返す」
 というものであり、結論が生まれる寸前で、もう一度元に戻って、そこから考えるのではないかと思うのだ、
 そうなると、自分が
「繰り返している」
 という感覚があるのか、ないのか、幸助の考えでは、もし繰り返していると思っているのであれば、考えるという行為はそこで終わってしまうような気がしたからだ。
 あくまでも果てしなく考えているという思いは、継続性のあるものだと、思うことだろう。
 釣り糸を垂らしながら、海に浮かぶ浮き輪を見ながら、浮いたり沈んだりするたった数秒の出来事が繰り返される視界の中、頭の中ではどの程度の繰り返しが行われるのであろう。それを思うと、早くやってみたいという衝動に駆られるのだった。
作品名:猟奇単純犯罪 作家名:森本晃次