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猟奇単純犯罪

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「結婚を考えているわけではないので、数人の女性と付き合うのは、別に悪いことではない」
 というおかしな考えがあった。
 恋愛は恋愛だという思いを持っているくせに、心のどこかで、恋愛を結婚までの予行演習のように考えているところがあり、数多くの女性を知ることで、いい結婚相手に巡り会えるのだと真剣に考えていた。
 だから、結婚するまでであれば、一度に数人と付き合ったとしても、悪いことではないと思ったのだ。
 だから、彼は好きになった相手であっても、決してのめりこだ恋愛をしていたわけではない。それは、
「決して相手を好きにはならない」
 という思いがあったからだろうか。
 ひょっとすると彼の中で、大学生と付き合っている分には、本当に好きになる相手は現れないという確信があったからなのかも知れない。
 実際にその通りで、大学時代に付き合った女性は、女の子として付き合う分にはいいが、その延長として結婚を考えることはなかった。彼女たちと一緒にいると癒されるし、自分も彼女たちに対して男の魅力を与えることで、お互いにフィフティ―フィフティーな関係だと思っていたのだ。
 大学時代に付き合った女性たちのほとんどは、幸いにもほとんどドライな関係でいけたのだが、最後に付き合った女性だけはそうではなかった。初めて彼が本気で好きになった女性だった。
「どうしたんだ? この僕が大学生の女の子を本気で好きになるなんて」
 と、一番信じられなかったのは幸助自身だった。
 ちょうどその頃就職活動をしていたので、女性と付き合うということは考えなかった。だから、フリーであったし、就職が決まるまで誰かと付き合うということはないと思っていた。
 もっとも、一度に複数の女性と付き合うということは二年生の頃までで、三年生以降ではそんなこともなかった。三年生以降になると落ち着いてきたというよりも、女性に対して少し考え方が変わってきたのかも知れないと思っていた。
 だが、それは自分がまわりの女性の目に気が付いたというのが本音かも知れない。
「今までのお互いの利益になるという考えが違うような気がする」
 というもので、つまりは、彼女たちから癒しがもらえないような感覚になってきた。女性の側でどこかリアルさを求めてきたというべきか、付き合っている女性がどこかドライに見えてきたのだ。
 だが、これは今までの自分の視線を相手が見せるようになったということで、それまでどうしてそんな思いを感じたことがなかったのかというと、それは幸助が付き合う女性が性格的に融和でよかったというだけのことだった。決して相手に疑いを持つこともなく、お互いに好き合っているということを、信じて疑わないような、相手も天真爛漫な女性だったということである。そういう意味では本当に幸運だったとしか言いようがなかったのであろう。
 今度は三年生になると、幸助の方が、そんなまわりの女性の目を怖がるようになってきた。別にまわりの女性の目が変わったわけではない。今まで気付かなかったことに自分が気付いてきただけのことだった。そのことを分かってくると、
「僕のことを好きになってくれる女性って本当にいるのかな?」
 という、今までとは極端とも言えるくらいの違いを感じるようになってきた。
 今まで自分が好きだと思っていた女性たちに対して、好きだという錯覚をしていたことを棚に上げて、今度は自分が被害妄想に陥ってしまった。そうなると、もう女性も自分に近づいてくることは合いと思えたのだ。
 実際に付き合うような相手は現れなかった。今まで付き合ってきた女性は、中には遊びの女性もいたが、そのほとんどは真面目に好きになってくれた。それを癒しだと思い、さらには役得のように感じてしまっていたのを、まだ恋愛には疎かった女性たちもよく理解できなかったのだろう。
 お互いにウブなもの同士が付き合っているのは、傍から見ていると微笑ましくも見える。幸助も付き合っていた女の子たちも、お互いにそんな傍から自分たちを見ていたのであろう。
 そんな感情の中、三年生の頃はそれまでと違って、あまり女性と付き合うことはなかった。
 幸助自身は、
「自粛していた」
 と後になって回想するようになったが、実際には今までまわりにいて、手を伸ばせば届いていたはずの女性が、手の届くところにいなくなったというのが一番の理由だった。
 元々女性に対してはドライな気持ちを持っていた幸助なので、手の届くところにいれば手を差し伸べるし、いなければいないで、別に探してまで手を差し伸べるようなことはしなかったのだ。
 ちなみに幸助は、
「手を出す」
 という表現が嫌いで、
「手を差し伸べるものだ」
 と思っていたのである。
 自分が好きになった女性というのが果たして三年生までの間にいたのかどうか、その頃には分からなかった。本当に女性を好きになるとどうなるのかということを思い知ることになるのは、四年生になってからで、それが就職活動中だった。
 就職活動は、それほど困難なものではなかった。成績もそんなに悪くもなかったので、自分の予想でも、いくつかの会社に内定がもらえるのではないかと思うようになっていた。だが、たくさんもらえれば選択肢は増えるのだろうが、それゆえに、どこにするべきなのかで悩むことにはなる。他の人から言わせれば、
「そんなの贅沢な悩みだ」
 と言われるだろうが、その選択を間違えてしまうと、せっかく選択肢が多いだけに、その後悔は果てしないものとなり、トラウマとしても残るレベルではないだろうか。
 それを思うと、就職活動というのを決して甘く見ることはできないと思うのだった。
 彼女と出会ったのは、就職活動も佳境に入っていて、一日に数社の訪問をしていた時だった。
 すでに二社で面接が行われ、まだ一次面接の時期ではあったが、就職活動が本格化してきたことを示すものだった。
「面接も大変ですよね」
 と、隣にいた女性が急に話しかけてきた。
 その雰囲気は今までに付き合った女性たちにはないもので、しかも久しぶりの女性との会話だったので、思わずタジタジになっている自分がいるのに気が付いた。
 話しかけられた時は、その言い方があまりにも機械的だったので、
――この女性は何者だ?
 と感じ、思わず尻込みしたほどだったが、そこにいたのはセリフから感じた何も知らないような捉えどころのない女性とは正反対の、しっかりした顔立ちの女性だったことで、ビックリしてしまった。
 今まであどけない表情で、時々何を考えているか分からないタイプの女性が多かっただけに、どうしていいのか分からない自分がいたのだ。自分が天真爛漫なように相手に見せていたので、相手も天真爛漫であれば気が楽になる。自分がどうして天真爛漫になるように相手に見えていたのかというのは、その時には分からなかったが、やはり今思えば、複数の女性と付き合っているということを相手に対してではなく、自分に対して正当性を求めるための言い訳に過ぎなかったのであろう。
作品名:猟奇単純犯罪 作家名:森本晃次