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猟奇単純犯罪

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 と、ほとんどの関係者が思っているのではないだろうか。
 それを思っていないとすれば、それは何も考えていないということであり、ある意味責任逃れであり、やっているという自己満足のためだけに動いているだけなのかも知れない。
 管理人は、住み込みであるが、単身なので、組長の職は免れている。実際に苦情の多い中での組長の仕事は無理だという話もある。
 さて、この藤原という管理人であるが、実年齢はまだ若く、三十歳を少し超えたくらであろうか。二十代までは普通に会社勤務で営業などをしていたのだが、何しろ性格的に打たれ弱いところがあり、ハッキリと営業には向いていなかった。それでも二十代までは何とかこなしてきたが、さすがに年数が嵩んでくればどんどん責任もベテランになってきたということで大きくなってくる。耐えられなくなってきたというのも、当然のことではないだろうか。
 営業職を辞めて、今の管理人の仕事に就いたのだが、管理人というものがこれほど大変だということを知らずに入ってきた。以前ドラマなどを見ていて、昔のアパートの管理人を想像していたようだ。住み込みで、一応管理人ということなので、住民たちもそれなりに敬意を表してくれているようなイメージである。当然クレームなどあるなど、想像もしていなかった。
 と、まさかここまで能天気だったわけではないが、実際に今ほど心身ともに消耗するものだと思ってもいなかったのは事実である。
 管理人としてというよりも、まず住み込みで行けるというところが一番の魅力だったが、実際にクレームなどがなければ、普通に雑用だけで済んだのかも知れない。消耗品の交換であったり、いろいろな業者との折衝であったりなどである。
 それでも管理人を数年していると、慣れてくる部分もある。精神的な消耗部分が多いのも事実だが、住人の中には管理人と仲良くしようと思ってくれる人もいるようで、どこかに出かけたりするとお土産を持ってきてくれる人もいた。実にありがたいことで、特にクレーマーの存在を絶対的に恐怖に感じていただけに、涙が出るほど感動したほどだった。
 確かに管理人を辞めるという選択肢もあるのだが、今の時代、簡単にやめるわけにもいかなかった。まずは、住むところから探しなおす必要があるからだ。
 そういう意味で住み込みの管理人を引き受けた時、まったく辞めることを考えていなかったというのが、今から思えば分かってきた。
 もし、辞めることを最初から考えていたのだとすれば、住み込みなど考えることはないだろう。住み込みを考えてしまうと、辞めた時点で、宿なしになってしまうのは必然だからである。
 管理人の仕事は会社勤めと違って、集中してできることと、相手がある折衝などの場合によって時間的な制約が変わってくる。自分のペースで集中してできることであれば、自分で勝手に計画し、一気に午前中に済ませて、昼から以降を自分の時間に使うこともできるが、相手がいれば、少しずつ休憩時間がたくさんあるという、歯抜けのような状態になるだろう。
 なるべく、自分でできる時間を集中させ、自分の時間を作るようにしていた。それでも最初は自分の時間を作っても、その時間で何をするということは消えていなかったので、やることと言えば管理人室にとじこもってゲームをしたり、パソコンのネットで映像を見たりなどと、まるで引きこもりの少年がやっているようなことをしていた。
 管理人は、引きこもりの学生などを知らないので、自分がそんな状態になっていることを知らなかった。ただ仕事を持ってお金も貰っているわけなので、引きこもりとは基本部分で違っていた。
 管理人がネットに嵌ったのはいつ頃くらいのことだろうか。ゲームをするようになって、ネットの住人と仲良くなったというのが一つである。ネットの住人は、リアルなマンションの住人のようにクレームを言ってくることはない。相手もこちらに好かれたいという思いがあるからなのか、お互いに気を遣っているのが分かる。管理人との一番の違いは、立場が対等であるということだ。今の管理人の立場が一つまわりより上だという自覚はあったが、クレームをまともに受けることで、その立場を見失いがちになっていた。実際に失っていないのは、
「逆らうことができない」
 という意味があるからだ。
 逆らってしまうと、相手はさらに逆上する。逆上されて、運営会社にさらに文句を持っていかれると、管理人としての立場はあってないようなものだ。そうなると、本当にやめなければいけなくなり、せっかくの我慢が水泡に帰してしまう。それだけは何とかしなければいけなかった。
 最近、管理人がまわりにいかにも腰を低くしているのは、そんな自分を分かっているからなのか、それともクレイマーに対しての精いっぱいの抵抗を試みようという意識からなのか、ハッキリと分かっていなかった管理人であった。

                  幸助

 旦那の幸助が妻の桜子に不倫の疑問を感じるようになったのはいつからだったのだろうか。桜子も細心の注意を払っていたし、旦那である幸助もそんなに強く疑念を持っていたわけでもない。そもそも幸助という男は、そういうことには疎い方で、猜疑心もさほど強い人間ではなかった。
 桜子が彼と結婚しようかと思ったのは、彼のそんな天然なところに惹かれたのであって、天真爛漫に見える性格からは、
「少々のわがままは許してくれそうだ」
 という自分中心の考えがあったことは否めない。
 しかし、結婚相手を決める理由に、そんな理由が悪いというわけでもないと思う。消去法で言っても、彼は性格的に悪いこともないし、収入の面でも安定している。容姿も女性受けしそうな雰囲気に、結婚を決めたと同僚に話した時、
「あの人なら間違いないわ」
 という声を聞いたことで、自分の考えが間違っていないという確信めいたのを感じていた。
 幸助としては、最初から桜子のことが好きだったわけでもなかった。幸助には中途半端な自尊心のようなものが存在し、
「僕は女性にモテるんだから、焦って結婚することはないんだ」
 とも思っていたほどだ。
 天真爛漫に見える性格も、彼からすれば自尊心の賜物だと思えた。自尊心が中途半端であることを自分でも分かっていた幸助にとって、まわりに媚びを売ることは、その中途半端な自分をまわりに見誤らせようというような腹積もりだったと言ってもいいだろう。そうでもしなければ、せっかく今は信用してもらっている人たちから、信用されなくなると思ったからだ。
 それはもちろん、仕事上でのことで、ただ、そんな天真爛漫さが、
「軽い男だ」
 と、いうことを相手に誤解を与えるのではないかというのが、唯一気になるところであった。
 天真爛漫であるが、仕事は真面目で、ぬかりがないことで、幸いにもまわりの人は幸助のことを中途半端だなどと誰一人思っていなかった。幸助が自分に感じている中途半端な性格だという思いは、幸助だけが感じている気のせいだったのかも知れない。
 幸助は、大学時代から結構モテていた。一時期は数人の女の子と付き合っていることがあったくらいで、その時は、
作品名:猟奇単純犯罪 作家名:森本晃次