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短編集90(過去作品)

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 夢というのは、確かに目が覚める寸前、数秒見るものらしいのだが、それも眠りに就くまでに掛かる時間が幾分かあってのことである。電車に乗ってから明らかに十分は意識があった。それからカーブに差し掛かるまでの数分、眠っていたとしても、夢を見るまで熟睡できていたとは到底思えない。
 っとすれば、この感覚は一体何なのだろう?
 疲れが溜まっているということであまり気にしないようにした。カーブを曲がってまっすぐ走っていると、大きな川を挟んで少し大きな駅に着く。そこで、乗っていた少ない客のほとんどは降りてしまうのだ。
 鉄橋に差し掛かった時、特有の大きな音と揺れを感じる。それまで疲れて寝ていた人たちも、その音と揺れで起きてくる。
 荷台から荷物を降ろす光景が見られ、
――これほどたくさんまだ人がいたんだな――
 と感じるのは、駅に着いて改札口に向う人の流れを見る時だ。
 自分の乗った車両が特別人が少なかったわけではない。なぜなら、改札口までに比較的近いところに停まるからだ。漠然と人の流れを見ていると、それでもその日はいつもより人が多かったように思えてならない。そういえばその日はその時間帯に乗客の多い曜日だった。
 曜日によって乗客の多い少ないは分かれているようだ。いつも同じ人たちばかりのように思うのだが、明らかに曜日によって人の数が違う。それは座っている人がいつも同じ井内に座っているのが分かるからで、少ない時に見ない人たちは、どうやら窓際あたりに立っているからだ。立っている人が多いと、それだけ乗客の多さを知ることができる。面白い現象ではないだろうか。
 その駅を発車して車内を見渡すと、さすがにもう同じ車両に乗っている人は数人しかいない。多い日、少ない日変わりなく、乗っているメンバーはいつも同じである。
 川津の降りる駅は終着駅で、もうここから終着駅までは停車駅がない。乗っている人は漏れなくそこで降りるのだ。
 駅に着いて表に出ると、その日は月明かりをまず感じた。もうこの時間になると駅員はおらず、完全な無人駅と化している改札を抜けると、いつものようにトイレに行った。さすがに歩いて二十分掛かる道のり、最初にトイレに行っておく方が正解である。
 乗っていた他の乗客には、ほとんどお迎えの車が待っている。女の子などは仕方がないとしても、サラリーマンには奥さん運転の車が待っているのだ。その光景を横目に見ながら歩き始めるのだが、実に羨ましい限りである。
――月明かりの中を、ゆっくりと歩いて帰るか――
 と、ある程度割り切った気持ちにならないとやってられないような寂しさを感じる。
 街灯も、申し訳程度の道は、お世辞にも広いとは言えない道である。しかも明るさは月明かりがなければ、それこそ申し訳程度の明るさで、車もライトを上げて走ってくるので対向車が来ると手で庇を作らないと眩しいくらいだ。
 この道は比較的近道として有名なようで、ラッシュ時はそれこそ車がひっきりなしに繋がっているようだ。夜になると結構飛ばしてくる車もいて、しかもここを歩いている人は珍しいので、危ないと思ったことは何度かあった。
――なるほど、これではお迎えの車でもないと危なくてしょうがないわけだ――
 車が横を通り過ぎて感心してしまうのだが、それも歩きながらいろいろなことを考えているからだろう。
 電車の中でもそうだったが、漠然と毎日同じことを繰り返しているようで、その実、いつも何かを考えているのだ。その時々で違うので、その時は流れで覚えていても、一旦家に帰り着いて落ち着いてしまうと、すっかり忘れてしまっている。最近物忘れが激しいことを気にしているからだろう。
 結構早歩きをしている。ゆっくり歩いていると却って疲れが溜まってしまって、時間が余計に掛かった気がするからで、考えごとをしていれば足だけは、いつもの感覚で歩幅を広げて歩いているようだ。
 特にその日のように月明かりの時は、自分が歩いているところを、考えごとをしながらでも意識しているようで、歩きながら無意識な時間配分を感じることができた。
 最初の田舎道は、どうしても恐ろしさがあるせいか、少しでも道のいい方を歩こうとする。歩道もないため、道は荒れているが、途中ところどころ陥没していたりするところがあり、暗い街灯といっても、影で真っ黒になっているのは気持ち悪いものだ。
 しかし毎日歩いている道なので、感覚的に分かっている、なるべく気持ち悪くないようにと気をつけながら歩いているが、たまに足を取られることがある。
――本当に毎日同じ道を通っているんだろうか――
 そんな気分にさせられるのも無理のないことだ。
 いつも同じスピード、したがって判で押したように帰り着く時間は正確だ。時計を確認するまでもない。逆に時計を見て違っていれば、
――時計の方が狂っているんだ――
 という考えでいいくらいだったが、最近はそれが少し変わってきている。
 駅から家まで徒歩で約二十分、普通に歩けば一分と誤差がないはずだった。それがいつの間にか一分になり、二分になり、最近では三分が誤差の範囲となってしまった。
 今までとの違いを考えていた。
――暗くなってきたんだ――
 街灯もかなり老朽化してきて、中には消えかかっている街灯もある。完全に消えてしまっているのも恐ろしいが、中途半端に点滅しているため却って気持ち悪い。点滅の間隔が最近は早くなってきて、完全に消えてしまうまでのカウントダウンの様相を呈していた。
 昼間はのどかな田園風景も、夜になると暗闇がすっぽりと世界を包んでしまう。足所歩いた時は、果てしなく続く暗闇に飲み込まれそうで、歩いていて恐怖と気持ち悪さしか感じなかった。今でもそれは変わらないが、月明かりの日は安心できる。
 だが、最近ではそのあたりが変わってきて、あまり明るくても影の長さに気持ち悪さを感じてくるのだ。それを感じ始めたのは、街灯の一つが点滅し始めてからで、それまでは慣れてきた暗さで、それほど気にならなかったのだ。
 その日は完全に街灯が消えていた。さすがにいつもよりも暗く感じる。
――完全に消えた方が気持ち悪くないだろう――
 などという考えが甘かったことを感じたが、それよりもこれだけ暗いのに、影があるのを感じたのは不思議なことだった。
――どこからの影だろう――
 まわりに影になりそうな大きなものがあるわけでもないのに、影が自分の横に大きく覆いかぶさるように写っている。もちろん自分の影ではない。迫ってくるように歩いていて同じスピードで寄ってくるのだ。
――やっぱり自分の影なのかな――
 と考え始めた。確かに自分に平行するようについてくるのだから自分の影だと考える方が自然であるが、それではどこから来る光に反応してできた影なのだろう?それが不思議なのだ。
――光を必要としない影があってもいいんじゃないか――
 という考えが生まれたのは、ただでさえ気持ち悪い暗さに浮かび上がっている影が迫ってくるという恐怖からだろうか。川津は、今までにない緊張感から、背中が攣ってくるような異様な感覚に苛まれていた。
作品名:短編集90(過去作品) 作家名:森本晃次