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短編集89(過去作品)

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忌まわしい年齢



                忌まわしい年齢


 人にはそれぞれ節目になる年齢というものがある。男と女では違うのだろうが、生きてきた環境や、その人の性格によっても違うのだろうが、その節目に気付いている人いない人とで、人生に大きな影響を与えるということも往々にしてあるのではないだろうか。
 厄年というものがあって、男性と女性では若干違っている。しかしよくよく考えると、それぞれ人生の節目になる年齢であることは分かるような気がする。神社に行ってお祓いを受けると、人生の節目の年齢だということを話してくれる。男も女も心体それぞれで迎える節目の歳、それが厄年だということである。
 厄年でなくとも、人生の中で節目になる歳はいくらでも存在する。その一つ一つを気にしながら生きている人、または、節目など一切感じることなく生きている人、きっとさまざまなのだろう。そして、同じ年齢に達することで、運命が交差する人たちがいる。そんなお話である……。

 今まで無口で男性と話をすることもめったになかった節子は、
――結婚なんてできるのかしら――
 と最近では悩むようになっていた。
 節子という名前も好きではなかった。地味な名前にしか思えないし、どうして両親がこんな名前にしたのか分からない。
――名前が悪いのよ――
 と男性と知り合うこともできない無口な性格の原因を名前に押し付けてしまうこともあった。まったくの逆恨みなのだが、自分が努力もしていないことは百も承知で、それだけに自分に対しての憤りは歳を増すごとに激しくなっていく。
 女性の友達はそれほど多くないが、そんな仲でも親友といってもいいだろう里美には何でも話すことができた。里美がいなければもっと暗い性格で、それこそ存在感などなかったことだろう。それを思うとゾッとする節子だった。
「あなたはせっかく落ち着いた性格なんだから、それをもう少し出せればきっといい人にめぐり合えるんじゃないかしら。積極的になれればいいのよね」
 もし他の人に指摘されれば、
――当たり前のことでしょう。そんなことは私にも分かっているのよ。分かっているから悩んでいるんじゃないの――
 と反発心しか起こらないが、里美に言われると、素直に聞くことができる。
 一歩進んで考えることができるという表現がピッタリであろう。積極的にということなので、少し服装や、化粧を変えてみたりした。他の友達はあまり関心を持ってくれなかったようだが、里美は、
「なかなかいいじゃない。そうよ、そうやって少しずつ変えていくのがいいのよね」
 と言ってくれた。しかし、節子にしてみれば目いっぱいイメージチェンジしたつもりだったが、他の人に関心を持たれることもなく、里美には「少しずつ」という表現をされてしまったことは少しショックだった。
 それでも少しは功を奏したようで、一人の男性と知り合うことができた。里美が誘ってくれた合コンなのだが、三十歳にもなって合コンなど恥ずかしいと思って最初は渋っていた。
「あなたのためにもなるのよ。せっかく自分から変わろうとしているんだから、今度は積極的な出会いに自分から飛び込んで行かなくっちゃね。せっかく演出したんだから、行きましょう」
 誘われるがままに出かけるという気持ちが強く、
――せっかくだから――
 まるで他人事のようでさえあった。
――こんな気持ちで本当に男性と知り合えるのかしら――
 とも思ったが、実際に会場に行って男性が自分を見つめる目がいつもと違うことに最初から気付いていた。
 相手の視線が変われば、自然と自分が男性を見つめる目も今までとは違ってくる。目が合えば思わず逸らしてしまう恥ずかしさが却って生まれた。今までには恥ずかしさどころか、目を合わせることすらなかったからだ。
 そんな中で、話しかけてきたのが、幸雄という男性だった。
 見ていると彼もどちらかというと積極的な男性ではない。だが、彼と話をしていると魔法に掛かったように、自分のことを何でも話せるような余裕を感じることができるのだ。
「久しぶりに楽しいお話ができそうですね」
「ええ、私もそんな感じがしますわ」
「本当は自分からあまり話をするタイプではないんですよ」
「そうなんですか?」
 節子には不思議だった。すでに宴もたけなわ、お互いにパートナーも決まり、自分たちの世界を作って会話に入る時間だった。今までであれば、きっと帰りたくなる時間なのだろうと、お互いに感じていたはずである。そんな時間をうまく幸雄は演出していた。これまでの会話のほどんどは、幸雄からの話題である。
――男性の方から話題提供をして、それに対して女性が答える――
 この構図が一番しっくり来るのだろう。特にお互い会話の少ないタイプで初対面での会話である。思ったほどの違和感は感じられなかった。
 幸雄は今年で三十三歳になる。仕事の上では別に可もなく不可もなく、無難にこなしていた。
 元々幸雄は目立たないタイプの男だった。子供の頃から友達と遊んでいても、決して自分から目立とうとすることもなく、まわりを引き立てる結果に繋がることが多かった。
 もちろんそれは本人が意識してのことではなく、結果的にそうなっているだけで、それでも嫌だという気持ちになることはない。
――これがきっと自分の生き方なんだろうな――
 子供の頃にそこまで考えたかどうか分からないが、社会人になってすぐには、そう考えていた。
 それだけにあまり大きな失敗もなく、堅実にこなして来れたのだ。
――大きなことや、たくさんのことを望まないこと――
 というのがモットーで、身分相応をいつも意識していたのだ。友達の中には、
「男なんだから、しっかりとした夢を待たなきゃ。その夢は大きければ大きいほどいいんだ」
 という友達もいたが、気持ちは分かっても、自分にはできないことを幸雄は自覚していた。
「人間には二つの成長の仕方があると思うんだ。一つは何事も平均点に近づくことを考える堅実な考え方。もう一つは、他のことは平均点を下回っても、一つだけ人よりも秀でていて、ナンバーワンを目指す考え方だよね。僕には前者の生き方が似合っていると思うんだ。それだけのことだよ」
 友達は大きく頷きながら話を聞いていた。お互いに生き方考え方は違っても、真剣に自分のことを考えているのだ。人生を漠然と考えている人には分からない会話ができることをお互いに楽しんでいるのだ。
 自分のことが分かっている幸雄なので、人の気持ちを理解することはそれほど難しくないと思っていた。しかしその気持ちを覆す事実が、今から五年前に起こっていた。
「実は、僕には離婚経験があるんです」
 初対面で会話もある程度盛り上がっている中で、あれだけ饒舌で楽しそうな顔をしていた幸雄の表情が、みるみるうちにこわばってきたのだ。
――あれ、どうしたんだろう――
 と、節子は考えていたところへの告白である。
――やっぱりそういうことだったのね――
 と思ったが、告白は相手を軽蔑するどころか、最初に話しておかなければならないと感じたことへ敬意を表したい気持ちにさせるに十分だった。
作品名:短編集89(過去作品) 作家名:森本晃次