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裏表の研究

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 ではどうすればいいのか。まずは高みに立ってから、自分は高所恐怖症に陥れば、自分が神に選ばれた人間ではないということだ、そう思い高みから下を見てみると、遠くに見えてはいるが、怖いという感覚はない。誰も到達できなかった頂に到着したという意識が初めて今までになかった自分への自信として生まれてきたのだった。
 その思いが北橋を脳波研究へと突き進ませることになったのだ。
 北橋は、純一郎に近づいた。純一郎が今までに書いた小説を全部読んでみたかったからだ。
 純一郎は自分が今までに書いた作品をすべて無料投稿サイトに上げていたわけではなかった。友達を殺すような小説はさすがに上げることはできなかった。自分のパソコンに誰にも見せずに保存だけしていた。
 北橋はそれを巧みな話術で見せてもらうことに成功した。純一郎はプロにまでなりたいという意識はなく、とりあえず、今は自分で思ったことを書き溜めて、そのうちに表に出せるような時期が来るのを待っていた。
 少し前なら、そんな時間がもったいないと思っていたのだが、過去の矛盾によるトラウマだったりする感覚からか、時間に対しての感覚がマヒしてきたような気がした。
「焦ってみても、何があるわけではない」
 という意外と冷静な考えを持っていた。
 その部分が見え隠れしている純一郎のことを、北橋も分かっていて、それで興味を持っていた。
 彼が小学生の頃に苛めに遭っていて、別に恨んでいるというわけでもないはずなのに、どうして小説の中で殺そうという意識になったのか、それが不思議だった。恨みに思っているのであれば、それこそ逆恨みの感情から、常軌を逸するような行動に出ても不思議ではないが、あくまでも純一郎は冷静だった。
 北橋は、そんな純一郎の冷静さが怖かった。北橋も冷静さという意味では、他の連中に負けることなどなく、群を抜いていると思っていた。それなのに、こんなに近くに自分に及ばないまでも、
「ひょっとすると一緒に一瞬だけでも高みにいることができる人なのかも知れない」
 と感じると、その瞬間、
――忘れていた高所恐怖症が襲ってくるのではないか――
 と感じるようになった。
 高所恐怖症というのは、自分だけの問題ではない。人が必ず絡んでくる。それがまさか自分とは最初から人間としてのランクが違っている平凡に思えていた人間によって引き起こされることになるのではないかと思うと、驚愕を通り越して、神様の存在すら怪しく思えてくるくらいだった。

                 夢の構造

 北橋は、純一郎のことをいろいろ調べてみた。彼には研究のために、人が与えられていて、探偵のようなことも彼に変わってやってくれる人がいた。彼に調べてもらったのだが、まず、純一郎の生い立ちから時系列で調査してもらった。
 その中でやはり気になったのが、小学生の頃に苛めに遭っていたということで、その友達も判明したことで、彼が小説の中で殺した連中は、その時の苛めをしていた連中だったということだ、
 すでに苛めは終わっていて、和解もなっている連中だったが、彼にとって若い程度ですまされないトラウマでもあったのか、殺害対象は彼らであった。
 実際に、殺してしまいたいというほどの恨みがあったわけではない。ただ、小説の中で殺人事件を起こしたいと思ったまでで、下手に殺人事件の場面を書いてしまうと、嫌な予感や気持ち悪さが残ってしまいそうな気がして、それならかつての苛めをしていた連中であればと思っただけのことだった。それほど深い意味はなく、あくまでも自分の中での都合というだけだった。
 だが、実際にはその中の数人が亡くなっていた。もちろん偶然にすぎないと思われたが、どうも気持ち悪いと思い、北橋はまずそのあたりの解明がしてみたいと思った。
 北橋が今やっている研究とどこかで繋がるかも知れないと思った。
 彼が今研究していて、そしてやっと実用化できるようになったものとして、かつて見た夢が分かるというものだった。本人が忘れてしまった夢を、封印している記憶の中から引き出して、どんな夢を、いつ見たのかというところまで引き出せるようになった。
 脳波の研究という意味での途中経過とでも言えばいいのか、今までブラックボックスだった夢というものにメスを当てることで、人の脳の構造を明らかにしようという考えだった。
 夢の内容をその人から取り出すことはさほど時間のかかるものではない。本人を夢の中に誘導し、夢を少し操作する中で、本人が開いた封印しようとしている記憶の世界を引き出す装置を用いるだけで、その部分を機械で吸収しようというわけだ。まるで音楽をパソコンでコピーするようなもので、時間的にも数時間で終わってしまう。
 その間、本人は眠っているわけで、気が付けば自分の部屋で眠っていれば、もし、何かの記憶が残っていたとしても、
「夢を見ていたんだ」
 という意識の元、そのまま記憶を封印すればいいだけだ。
 本人は封印された記憶を盗まれたなどという意識はない。そのあたりも北橋の開発した機械が記憶を操作してくれるのだ。
 一方で、事実関係を調査してくれた探偵による結果報告がもたらされている。とにかく彼の夢と小説で殺された人間の関係を見れば、何かが分かるような気がしたのだ。
 すると不思議なことが判明した。
 純一郎が小説上で殺害した連中は、必ず彼の夢に出てきているのだった。
 北橋の開発した機械では、人間の夢、つまり記憶の奥に封印したものと、さらに夢の原因である潜在意識を取り出すことに成功したのだが、その二つの結びつきを、まるでパソコンで操作するように、検索機能もついているので、キーワードさえ分かれば、研究にさほど時間を割くこともなかった。
 果たして彼の記憶もキーワードで検索することで、夢を見た日時と、さらにその夢に至った原因、そして時系列での潜在意識の動きとが徐々に分かってくる。
 さすがにそこまでは計算できないので、調べた内容からの想像となってくる。計算できないというのは、本当に計算できないのではなく、わざと計算しないのだ。ここでは人間の感性が必要になってくるので、わざと計算させずに、北橋自身の感性と分析とで解明する部分であった。
 純一郎が小説を書きあげるまでは、意外と時間が掛かっていない。書こうと思ってから数日で書き上げてしまうという恐ろしく短い時間だった。それだけその間での彼の集中力は恐ろしいまでに特化していた。ひょっとすると、今まで調査した人間の中でもこの部分に関しては徹底的に特化しているように思えてならなかった。
「この集中力が何か影響しているんだろうか?」
 と、北橋は思わずにはいられない。
 集中力を持って書いた作品が書きあがった日が分かってくると、その人物が死んだ日を比較してみた。すると不思議なことに、その本人が死んだのは、小説が書きあがる前であった。
 もっと言えば、小説を書き始める前でもあり、中には同じ日という人もいた。これは、小説を書いたから相手が死んだというわけではなく、
「相手が死んだということを彼自身に予感のようなものがあり、この人だったら、すでに死んでいるから書いてもいいんだという意識があったのかも知れない」
作品名:裏表の研究 作家名:森本晃次