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裏表の研究

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 世間や芸能人からのSNSによる強力なバッシングを受けながらも強硬に行おうとした態度も許せないが、最後は茶番に終わってしまったことが大いに波紋を呼んだ、
 何とその渦中の人物が、一種の法律違反を起こしたのだ。
 法を取り締まるべき人間がである。
 しかも、それを政府が擁護するかのような行動に出たことで、さらに国民の怒りを買った。
「もう、この政府は自分たちさえよければ、国が滅んでもいいとでも思っているのか?」
 という言葉を、普通だったら、
「国が亡べば自分たちだってただじゃあいられないんだから、そんなことは思っていないよ」
 という当たり前の言葉すら、信じられない気がしてきた。
「本当にこいつらのことだから、国が滅んでも自分たちは生き残るとでも思ってるんじゃないか」
 と疑いたくなる。
 悪知恵を働かせて、まず最初にそっちの手配をしてから、政治に向かっているとすれば、本当にどうしようもないとしかいいようがない。そんな政府を支持した国民が悪いと言えば悪いのだが、支持の一番の理由に、
「他に首相の器になれる人がいない」
 というだけで、このような悪魔のような政権が生き残テイルのだとすれば、それはあまりにも本末転倒というべきであろうか。
                ◇
 おっと、少し私情が入ってしまい、読者諸君にはお見苦しいところをお見せしてしまったが、実に申し訳ないことをしてしまった。
 しかしご安心ください。この小説の世界での政府は、そんなリアルな世界とは一線を画しておりますので、ここまでひどい政府ではないことを確約するとともに、お話を進めてまいりたいと思います。ご辛抱いただき、申し訳ございませんでした……。
                ◇
 さて、薬品開発が一段落した時、純一郎の同僚である北橋は、別の研究に勤しんでいた。彼が研究しているのは、脳波についてだった。脳波と夢の関係について彼は研究しているのだが、この研究はここだけではなく、今はどこの研究所でも医学の発展を目指して行われている。まだまだ夢というものに対しての人々の考えは一致しておらず、いろいろな説が囁かれる中、その説に信憑性を感じた学者や研究者が、日夜、その立証について研究を重ねていることは、周知のことであろう。
 しかし、夢についてあまりにもいろいろなところで独自に研究を重ねてきている関係で、誰もその研究の最先端がどこにあるのかを把握していない。したがって、実際のゴールを知っている人がいたとしても、どの研究が一番近いところにいるのか、あるいは、もうその場所に達していて、達していることに気付いていないだけなのかということも把握できていないことから、混乱しか起こらない。
 そんな状態で、天才の中の天才と言われる世界的な権威の人たちですら分かっていない研究を、我が国だけで、しかも一研究所だけで行うというのも無理のあることではないか。そんなことは分かっているのだが、それでもやらなければいけない。それが研究者としての性というものであろう。
「俺たちは天才と言われているが、どれだけのレベルなのか分かっていない。それと同じで研究する内容も同じこと、まずは自分たちがどこにいるのかということを見つけることから始めなければいけない」
 というのが北橋の考えだった。
 北橋はまだ若く、研究員としてはまだまだ新米だが、考え方と信念はベテラン連中と変わらない。それだけ天才気質だということであろうが、研究員としては当然の考えで、だからこそ、ここを支えていけるのだ。
「俺たちこそ天才なんだ」
 と彼らが言っても、誰も否定しない。
 することができないのだ。彼らには信念とともに意識がある。それは、
「何も知らないということが、すべての罪だ」
 ということが分かっているということであった。
 北橋が研究を続けていたのは、伝染病の特効薬としてでもあったが、別の意味で興味を持っていたことに特効薬を強引に結び付けようという発想であった。
 それは脳波を刺激することであって、
「元々人間の中に潜在している意識以外のものを取り出すことができれば、それが特効薬として利用できるのでないか」
 という発想であった。
 人間は、脳の一部しか使っていないと言われている。そのため、超能力というものも、あながち信憑性のないものではないと言われ、脳波の研究が超能力の研究と一緒に考えられ、そのために過度な人体実験をしてしまうことも多く、そのたび、人権問題として取り上げられることもあった。
 またその発想が小説にも生かされて、脳波の研究からフランケンシュタインのような化け物を生み出すことになるというようなSFホラーを世に生み出すことにも一役買ったかのようにも言われている。
 純一郎も、実は自分が今までに書いてきた小説の中に、似たようなイメージの話があったのは皮肉なことであろうか。
 彼の書いた小説では主人公は実に気の弱い少年で、ただ何かがあると急に強引になり、自分の提唱する説が絶対であるかのような自信過剰な男に変貌するというのだ。
 その変貌は、ジキルとハイドのように、お互いに意識のない多重人格の様相を呈していて、まるで満月を見るとオオカミ男に変身するかのようなシチュエーションに似ている。
 そんな彼を正常に戻そうとする学者がいたのだが、彼が実はこの怪物を作り出した張本人だった。彼も怪物と同じで、ジキルとハイドのようだった。彼の方がそれを地で行っていると言ってもいいだろう。
 博士が作り出した怪物は、実際には博士自身であった。博士が意識を失っている間だけ怪物は怪物としての無敵な力を発揮し、人間にはそれを阻止することなど不可能だったのだ。
 博士は怪物を無意識のうちに意識して作っていた。つまり怪物は博士の潜在意識によって作られたものだった。
 博士が怪物のことを永遠に忘れ、自分を前後不覚にまで陥れないと、怪物は消滅しない。消滅しないと怪物は次第に凶暴になり、最後には世界を滅ぼすまでになっていてもおかしくない存在であった。
 博士の執念はなかなか怪物を打ち消すことにはならない。いわば博士自身が怪物なのだからである。
 そんな時、一人の青年科学者が、博士の脳を電流で狂わせてしまおうと言い出した。
 しかし、まわりの博士連中は、
「そんなことをして、二度と博士の意識から怪物が消えなければ、どうするんだ?」
 と言って、一斉に反対した。
 しかし、
「このまま放っておいても、結果は一緒なんだ。やってみる価値はあるのではないか」
 といい、結局結論が出ないまま、しょうがないのでやってみようということになった。
 青年科学者の判断と知恵で何とか、博士の脳を電流で刺激し、その記憶を破壊することができたのだが、そのため、怪物はこの世を彷徨うことになった。
 もう人間に危害は加えないが、果たしてこの顛末をどう解釈すればいいのだろうか。
 確かに博士は脳に障害を残し、二度と悪いことはできなくなってしまったが、博士がやろうとしたことが本当に悪いことだったと誰が言えるのか。作品は後味の悪さをきっと読者皆に与えるだろう。作者自身も後味が悪い。そんなことを考えていると、
「果たして誰が悪いのか?」
作品名:裏表の研究 作家名:森本晃次