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裏表の研究

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 と言われていた。
 彼は、何かを研究しているようだったが、それは誰にも分からない。
 研究室というのは、会社から数キロ離れた山の麓に位置していて、そこでは彼のような優秀な人材が自由に研究に没頭できる。そんな環境を持った会社は他にはなく、彼がこの会社を選んだ理由はそこにあったようだ。
 実はこれは後から知ったことだが、この会社の本当の存在目的は、他の薬品会社や国家の国立研究所などが取り扱っている薬品の開発を、ここで行っていたようなのだ。表向きな開発は、自分たちの会社で行い、ここでは裏の開発を行う。したがって、開発に成功すれば、こちらの会社の大きなる利益にも繋がるが、開発に成功しなければ、開発費用はすべてこちらもちなので、大手薬品会社や国立研究所では損をすることはない。そのため、この会社の利益はほとんどが、この研究所の裏の開発費用に充てられるのだが、その見返りに、表立った企業からの利益に繋がりそうな受注は優先的に我が社へと流れてくる仕掛けであった。要するに、
「表の利益の都合はつけてやるから、裏の開発の全責任を負ってくれ」
 というのが、この会社の存在意義となるのだ。
 だから、好きなように研究していいというのは表向きなことであり、自由に使っていいのは間違いではないが、裏の受注がある時は、それ最優先であった。ただ、それ以外は自由に利用していいというのは間違いではない。あくまでも表向きと裏の顔が存在するということであった。
 ただ、彼ら専門スタッフのチームは、本当に優秀だった。開発依頼を受けて、今までに開発できなかったものや、失敗したものなどは一つもなかった。むしろ他の会社が独自に開発したものの方が圧倒的にコストもかかっていて、できた薬品が役に立たなかったり、副作用が生じたりと、肝心なところでの臨床実験の不足が致命的な結果を生んだりしていた。
 国家や、大手企業が専門の裏企業を画策したというのも、無理もないことであった。背に腹は代えられないとでもいうべきか、彼らにとって自分たちの利益だけの問題ではなくなっていたのだった。
 彼らの研究は相当なスピードで行われた。不眠不休など、研究が三度の飯よりも好きだという連中の集まりでもあるので、それほど苦になることもなく、効率的で何と言っても捉えるべきところをしっかり押さえることのできる連中の集まりだということで、受注されたもののほとんどは、納期の半分近くで開発されるくらいであった。
 こちらの方で、あまり早く納入もできないということで、ギリギリまで納入時期を抑えるくらいに早くできる開発は、この研究所の設備と、彼らの才能をフルに生かした最高の環境だと言えるのではないだろうか。
 そんな研究所なので、受託依頼以外の仕事が済むといろいろな研究を行うことができる。最近では、数年前に世界的に大流行した伝染病の特効薬の開発に成功したということだが、それはまだ表には出ていない。開発はどこからの依頼でもなく、この研究所による独自の研究でなされたものなので、それをどのように扱うかというのは、シビアな検討事項であった。それでも、この研究所の成果であることに変わりはなく、その底知れぬ力に、他の企業や厚生労働省はビックリしているくらいだった。
 それでも、ここの研究員はそんな表のことにはまったく興味がない。どこがどのように発表しようと、どうせ自分の研究として世に出すことができないのであれば同じであった。一人ですべてを研究できるようになるまでは、この研究所で研究をするしかないことくらい皆分かっていた。
 それでも、この研究所にいれば、他ではどんなに出世しても稼ぐことのできない収入を短期間で得ることができる。年数が経てば、共同出資で研究所を開設することもでき、そこで開発したものを、自分の名前で世界に発表することもできるようになるだろう。皆が目指しているのはそこだった。っそれまでに自分の知識と技量を、この天才と秀才の集まりの中で磨いていくことが、自分のこの先を決めると皆が思っているのだ。
 気持ちの強さは、そのあたりの企業で出世を目論んでいる連中よりもよほど強いものがあるだろう。政治家が出世を目論んでいる比ではない。金と欲だけに埋もれている連中になど、彼らが負けるはずなどあるわけはない。
 特にこの国はずっと平和ボケしていることもあって、政治に感心のない国民が多すぎる。それを思えば、政治家が出世するために金や欲に溺れるくらいは、大したことではないと彼らは思っていた。
「しょせんは、意識のない国民を欺いて、暴利をむさぼるだけのことだ」
 と思っていた。
 それでも、国家のための薬品開発が、そんな連中の肥やしになるのは、あまり気分のいいものではない。早く自分たちが開発したものを提示できるようになり、自分の地位を上げることで、国家を正しい道に導くという目的もあった。
 ただ、これも本音ではなく表向きの考えだ。彼らも自分の本当の目的がどこにあるのかハッキリとしていないのかも知れない。研究ばかりに時間を費やし、実際の国家運営などは知らないのだからである。それでもモラルが持っているつもりなので、今の国家を動かしているくだらない連中よりはよほどマシだと思っている。
 そして、それはまんざら間違ってもいないのだ。
 先ほど言った、世界で蔓延した伝染病の時でもそうだった。
 首相をはじめとして、厚生労働大臣などの一番しっかりしなければいけない連中のバカみたいな政策や、それに伴った発言が国民の怒りを買い、さらに政策が後手後手に回ったことで、経済が止まり、さらに死者を悪戯に増やしてしまったのは、完全に国家の責任だった。
 実際に、非常時代や有事というのは、ほとんどの国で、政府への支持率は上昇するものだ。
「今の元首に従って、国家の危機を挙国一致で守り抜こう」
 という考えが国民全員にあるからだ。
 しかし、我が国の政府は国民をバカにしているとしか思えない態度が続いた。
 税金の無駄遣い、医療機関に対しての暴言、芸能人動画の政治利用した挙句に、国民からの感情を煽ってしまったりと、ロクなことのなかった政府だ。
 他の国で政府への支持率が上昇する中、我が国では世論調査を行うたびに、政府への支持率がどんどん落ちていく。本当に最低の政権である。
 しかし、それに代わるかも知れない野党も腰抜けだった。いうだけは立派だが、批判するだけで何も政策を示さない。さすがにそんなところに政治を任せるわけにもいかない。そんな政府がどうなったのか……。国民がバカなのか、それとも政府がバカなのかである……。
 そんな薄っぺらい政府とは別に、裏ではこのような特効薬を製造するプロジェクトが動いていた。政府も他の企業もまったく知らない間にである。
 果たして開発に成功し、特効薬を作った会社がどのように動くかというのは実に興味深いが、それでも開発メンバーにとっては、そんなことですら、どうでもいいことだったのだ。
 世界的な電線が拡大してからの政府はすべてが後手後手だっただけではなく、その間にしたことといえば、火事場泥棒のような、
「自分たちに都合のいい仲間を残していくため」
 そのための、何と法律改正の決議だった。
作品名:裏表の研究 作家名:森本晃次