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裏表の研究

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 ただ、ストリートして続いているわけではない。シチュエーションを変えて、まるで一話完結の関連性のあるドラマが毎週放送されるような感じだった。
 いつ晴れるとも知らない、悪夢という形の地獄だった……。

                  道化師

 次の夢がいつのことになるのか、自分でも分からない。そして今自分が何人殺されたかも頭の中では微妙だった。ただ、夢を見そうな感じがするのは、その日眠りに就くその時にやっと分かる気がした。
「今日は眠りたくないな」
 などと思ってみたが、寝ないわけにはいかない、
 寝る前にちょっとした葛藤があったが、
「しょせん、夢なんだ」
 と最後は思い切ってしまうと、気が付いたら眠りに就いている。
 深い眠りに就きているという印象はない。眠っているという意識はあるのだが、その紐またどこか昔の光景の感覚だった。
 歩いている道は、まだ舗装もされていないどこかの住宅街のようなところだ。住宅街と言っても、一軒家が並んでいるというだけで、今の住宅街とはまったく違った様相であった。家のほとんどは平屋で、木の垣根が施されていて、その下には木でできた板が蓋になっている溝が続いていた。
 初めて見る光景のはずなのに、どこか懐かしさがあった。小さかった頃、似たような光景をどこかで見たことがあったというのだろうか。自分の小さかった頃に舗装もされていないような場所があったという記憶はない。ひょっとすると、以前に夢で見たことを回想しているのかも知れない。
 やはり純一郎は小学生だった。ただ、洋服を着ているわけではなく、何か浴衣のようなものを着ている。ズボンを履いているわけではないので、下半身がスウスウしていたのが気持ち悪かった。まわりの友達も同じ姿をしていて、何も考えずに走り回って遊んでいる。これもどこでも見る光景に思えて、自分の記憶がどうなってしまったのか、この情景がでてきたことよりも自分の記憶の方がおかしいのではないかという不思議な感覚になっていた。
 今日はどこかから、音楽が聞こえる。音楽と言っても、ちゃんとした楽器で演奏されているジャンルのハッキリしたものではなく、ただメル出来が存在し、楽器と言えるのか分からないような陳腐な何かで奏でているだけの音楽だった。ただ、これも何となく懐かしい。
 懐かしいだけでなく、どこかウキウキした気分になるのはなぜだろう。まわりの皆はその音がする方に走っているようだった。
「なんだ、宣伝じゃないか」
 純一郎はその正体を見た瞬間、一瞬ガッカリした気分になったが、そこにいたのは誰か分からない派手な様相で、大げさなパフォーマンスでまわりをおどけた気分にさせている、いわゆる、
「ピエロ」
 だった。
 ピエロとは道化師とも呼ばれ、道化という滑稽な格好、滑稽な行動でまわりを楽しませるといういわゆるパフォーマーである。顔には真っ白な白粉を塗っていて、なぜか口は耳元迄裂けていて、恐怖を煽っているように思うのは気のせいだろうか。そのイメージが強いせいか、探偵小説でも時々犯人が誰とも分からない人物に変身する時や、犯行に及ぶときに道化師の衣装を身にまとっているのが印象的な気がしていた。道化師の口が耳元迄裂けているという印象を持ったのは、そのイメージが強かったからであろう。
 道化師は、子供たちを引き連れて、いつものように何も言わずに、住宅街の角を曲がり、垣根の向こうに消えて行った。自分一人取り残されてしまった純一郎は、一人だけ取り残される恐怖を嫌い、何も考えずに道化師と他の友達の後を追った。急いで角を曲がると、そこには道化師も子供たちの姿も消えていた。
「どうしたんだ? 一体」
 そう思うと、怖くなって後ろを振り向いた。そこには、さっき曲がってきたはずの角が遥か遠くにあるではないか。
「たった今曲がったはずなのに」
 そんなに遠くまで来たという意識はないが、ただ、この感覚がウソだという意識もなかった。
 もう一度前を見ると、そこには道化師だけが立っていた。何も言わずにただ、気配だけは十分に感じられるそんな道化師を見ていると、金縛りに遭ってしまったかのように動けなくなった気がした。
 道化師は相変わらず何も喋らない。喋らないのが道化師なのだから当たり前だという意識を持っているから喋らないのだろう。もし、道化師が喋るおのだと思っていると、きっとしゃべったに違いない。
 しかし、どんな声でしゃべるのだろう。イメージとしては、ハスキーを通り越し、男か女か、若いのか老人なのか、まったく分からないようなしゃがれた声になっているということだけは分かった気がする。
 ただ、これも昔見た探偵小説の映像化作品をイメージしてのことであったが、それを思うと、今目の前に広がっている風景もその時に見たものだという意識があった。
 だが、確かに初めて味わうものではなかった。懐かしい記憶は自分がその場にいたということを教えてくれている。感覚がマヒしているからなのか、それとも記憶が錯綜していることで、余計な発想と記憶が入り混じってしまったのか、どのどちらもあるのではないかと思うのだった。
 道化師が立ちはだかっているので、それ以上動くことができない。金縛りに遭っているのは、自分だけではなく、目の前の道化師も金縛りに遭っていて、どちらが先に金縛りを解くのかで、お互いの運命が決まる気がした。
 すると、その道化師の後ろから誰かが顔を出している。見覚えのあるその顔は、小学生の頃自分を苛めていた少年の一人で、彼も小説の中で殺した一人だった。
――ああ、このまま殺されてしまうのかな?
 と漠然と感じた。
 この日はなぜか恐怖心は薄かった。道化師が出てきて、自分に金縛りを掛けてくれたおかげなのか、目の前にいるやつに殺されることになるのだろうが、いつものような怖さはなぜかなかったのだ。
 殺されることを運命だと思っていたが、運命は自分にとってロクなことになるはずのないものだと思っていたはずなのに、この日は受け入れようとしている。どうした気の迷いなのか、分かるはずもなかった。
 友達はナイフを持っている。この男に対してはナイフで殺した記憶があったので、自分もナイフで殺されるという意識はあった。
「首を絞められるのと、どっちが楽なんだろう?」
 死ぬということに対して、楽というキーワードが出てくるなど、その時点で感覚が狂っているはずだと思ったが、人は飛び降り自殺をする時、
「どこに落ちれば、痛くないんだろうな」
 と一瞬思うのだそうだ。
 そのまま死んでしまう人間だから、誰がどこでそう思ったとしても、他の人に分かるはずもないはずなにに、おかしなことだ。どうして知ることができたのかという思うよりもその時は、その言葉だけが思い出されて、少し苦笑してしまった。
「楽に死ねるのかということよりも、痛みを感じるか感じないかを考えるというのもおかしいな。普通だったら、一気に死んでしまわないと、下手に生き残ったりすれば、ずっと苦しみが抜けないことになる。飛び降り自殺をする意味がまったくないのではないか」
 と感じたからだ。
 友達は純一郎を見つけると、間髪入れずに猛スピードで走ってきて、いきなり胸を突き刺した。
作品名:裏表の研究 作家名:森本晃次