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裏表の研究

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 そんなに残虐なものはなかったような気がする。普通に首を絞めたり、ナイフで刺したりなど、よくある殺人描写だったはずだが、その一人一人と思い出していくと、彼らが自分を殺そうとしているその手段は、自分が彼らを殺した描写だったのだ。
 夢というのは潜在意識が見せるものなので、自分が記憶していれば、その通りの反動が起こったとしても当然のことである。
 まだ、その頃は戦前戦後などのシチュエーションを考えていなかったので、普通に現代が舞台だった。
 首を絞めて殺したやつは、確か室内での犯行だった。一緒にゲームか何かをしていて、その時、ムラムラときた純一郎は、ちょうど手元にあった手拭いで友達の首を絞めた。偶然手元に手拭いがあったから、首を絞めようという衝動に駆られたのか、ムラムラときた理由もそのあたりにあるのかも知れない。
 友達は、必死で後ろを振り返ろうとした、純一郎は、断末魔の表情を見たくない一心で必死に首を絞める。友達は後ろを振り向くことができず、そのまま絶命していた。
 その友達から、今度は自分が殺される番だった。自分の夢ではまったく時代背景が変わっていた。そこは友達の家から少し離れたあぜ道の向こうにある空き地だった。友達の家も農家で、自分の家も農家だという「設定」になっていて、どうも時代としては、戦時中の学童疎開のような雰囲気だった。まわりは皆五分刈りにしていて、シャツにモンペという粗末な服だった。今の時代では信じられない光景である。
 空き地には防空壕のような穴があった。学童疎開するような片田舎で、防空壕があったというのもおかしな話だが、夢を見ていて、しかも自分の知らない時代を想像だけで頭の中で組み立てているのだから、少々の矛盾はしょうがないと言えるのではないだろうか。
 その穴に友達は自分を引き寄せる。するとそこにはもう一人先客がいた。
「あ、ごめんなさい」
 と言って、穴から出ようとすると友達が両手を広げて出口を塞ごうとする。
「おい、どうしたんだ? これ以上はいけないじゃないか」
 実際に、前にいる男の子は、それ以上先に進めないかのように、そこで立ち往生しているようだった。
 そんな状態で後ずさりなどできるはずもなく、友達は仁王立ちになって、穴の中で進むこともできず、下がることもできない純一郎を上から見つめていた。
 すると、穴の中にいたやつが、こっちを振り向いた。
「あっ」
 そこで自分を見つめているその顔、それはまさしく自分だった。普段は鏡を見なければ確認できないはずの自分の顔を一瞬にしてそこにいるのが自分であることに気付いたというのは、そこにいるのが自分であるということを最初から分かっていたということであろうか。
 こちらが悲鳴を上げると、もう一人の自分はニヤッと笑った。その顔はまさに狂気の沙汰で、何を見つめているのか、目の焦点は合っていないかのように思えた。
 もう一人の自分は、そのまま穴の中からこちらを追い詰める。まだ何もされていないのに、すでに首が苦しくて、息ができなくなっているくらいだった。
 少しずつ後ろにさがろうとすると、後ろの友達が通せんぼするので、後ろにも戻れない。
「おい、出たいんだ」
 と、背中越しに友達に言った。
 背中越しでないと、目の前にいる自分にいつ襲われるか分からない気がしたからだ。少しでも目を離すと、このもう一人の自分は、自分の予測のつかない信じられない行動を取るに違いないと思った。
 しかし友達は手で純一郎の背中を抑えて、決して後ろに下がらせようとはしない。
「どうしたんだ? 俺は出られないじゃないか」
 というと、背中越しに友達の笑い声が聞こえた。
「ふふふ、お前はここから出られないのさ。お前はここで死んで、その先にいるもう一人のお前がお前本人に成り代わって、これからお前として生きるんだ」
 一体友達が何を言っているのだろう。
 友達には、もう一人の自分が見えないはずだったのに、どうしてそれがもう一人の純一郎だということが分かったのだろう。しかも、この言葉の意味はもう一人の純一郎とこの自分本人の運命を最初から分かっているような言い草ではないか。
 純一郎は恐怖を感じ、背筋にゾッとするほどの汗が一気に噴き出していた。
――このままだと、どっちかに殺されてしまう――
 そう考えると、次に浮かんできた思いはまた変わった感情だった。
「どうせ殺されるなら、どっちに殺されればいいんだ?」
 というものだった。
 友達に殺されたいか、それとももう一人の自分に殺されたいかという二者選択を迫られたが、どう考えてももう一人の自分から殺されるのは恐ろしいとしか思えなかった。
――どうせなら、友達の方がいいか――
 と、ふと感じると、目の前にいたはずの穴の中で燻っていたもう一人の自分が目の前から消えていた。
 煙のように消滅するとよく言われるが、煙どころか、まったく最初から気配がなかったかのように、忽然と消えていたのだ。
 すると後ろにいた友達が、
「じゃあ、望みどおりに殺してやろう。お前もそれが本望なんだろう?」
 と言いながら、首を絞めてきた。
 その時思い出したのが、小説の中でそいつを絞め殺してしまった時のことだった。
「お前は俺に殺された方がいいんだ」
 というセリフがあったような気がした。
 確か、誰か二人に殺されかけて、どっちに殺される方がいいかという選択を、殺される瞬間考えさせるという不可思議な殺人シーンだったような気がする。そんな不可思議な殺害シーンをまさか夢の中で自分が演じることになろうとは思ってもいなかった。
 これが夢だということは自分でも分かっている。毎日のように繰り返して見ているのだから、何となく分かっている。しかし、こんな自分が殺される夢を見たのが、何日続いているのかという感覚はハッキリ言ってなかった。二日目かも知れないし、一週間かも知れない。下手をすると一年間もずっと見ているのかも知れない。だからこの友達に殺されるのが初めてなのか、何度目なのかなど夢の中で理解はできなかった。
 夢を見ていることで、潜在意識が働くのか、明日もまた同じ夢を見るのだという意識が働いていた。
 いつまでもこんな夢を見ていると、現実の毎日もそのうちに繰り返すようになるのではないかと思えてくる。
 実際に繰り返すということはないが、
「夢を見ているのではないか」
 と考えることがあった。
 それは、小説などを読んでいて、
「どこかで見たような光景だ」
 と感じることだった。
 時代背景が戦前戦後のミステリーを読んでいるので、夢の中で出てきた光景がフラッシュバックしてくる。
 いや、逆にこんな小説を読んでいるから、夢の中にも想像した光景がよみがえってきたのではないかと感じられた。
 どちらにしても、夢が現実になり、現実が夢になるというようなイメージは、
「死んだのにまた生き返って罰をうけなければいけない」
 というプロメテウスの三万年という気も遠くなるようなスパイラルを思い起こさせるのだった。
「夢か」
 その日の夢はそこで目を覚ますことになる。
 普通であれば、これで一安心なのだが、まだ夢が終わったわけではない、また明日以降にこの夢の続きがあるのだ。
作品名:裏表の研究 作家名:森本晃次