短編集88(過去作品)
という気持ちもなきにしもあらずである。
なみと身体を重ねて、自分の気持ちがなみの中に入っていった時に目の前に浮かんだ光景、それはモンゴルの大平原だった。その向こうに立っているなみは朗らかに笑っている。
微笑んでいるなみは、自分の知っているなみではないように思う。今までのなみとどこが違うというのだろう?
なみもきっと同じことを感じているように思うから不思議だった。きっと同じようにモンゴルの大平原に立っている斉藤を見つめていることだろう。
どうしてその時にそんな風に感じたのか分からなかった。しばらくその気持ちが心の中に燻っていたが、少し記憶が擦れかけていた。車窓で見た光景にモンゴルの大平原を思うことによって、思い出したのだが、出張の用事が終わって、帰りに見ると、行ってみたくて仕方がなくなった。
そこに何があるのか分からないが、プライドという自分を見つけることができるような気がする。なみとはあれから会っていない。会えないわけではないのだが、一旦会うことを躊躇したことがあったが、その時に躊躇した気持ちがさらに追い討ちをかけて、お互いに距離をとってしまったのだろう。
――なみは私と一緒なんだ――
きっとプライドが高く、私同様、プライドが先に立っていろいろ考えをめぐらせているに違いない。それがなみと身体を一つにした時に見た朗らかで大らかな表情だったのだろう。
――あれが本当のなみなのだ――
そう感じると、本当のなみを、そして本当の自分を探しに行きたくなった。
それがモンゴルに行くことで何かを見つけることができるような気がする。
何も見つけることができないかも知れない。だがそれでもいいのだ。行ってこの目で確かめてみることが大切なのだ。
翌日ウランバートル行きの飛行機に搭乗した斉藤だが、同じ日、成田空港のウランバートルからの到着デッキに降り立った一人の女性がいたことを知らない。それは、自分を発見して帰ってきた、なみだった。なみは、送迎デッキから飛び立っていくウランバートル行きの飛行機を見ている。その胸に去来したもの、それは一体なんだったのだろう……。
( 完 )
作品名:短編集88(過去作品) 作家名:森本晃次