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過去への挑戦

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 抑えている柱をのけることはまるで赤子の手をひねるよりも簡単だった。そして冷蔵庫の蓋を開けると、その中に少年が身体を丸くして入っていた。眠っているようだったが、睡魔だけで眠ってしまっていたわけではなかった。叩いても押しても開かない扉を当てもなく必死に脱出を試みてみたが、いくらやってもどうにもならない。そのうちに、
――もう出られないのではないか――
 という不安に駆られ、疲れが一気に出たことで、そのまま眠ってしまったのだ。
 身体の疲労と精神の消耗とが少年に一気に襲い掛かり、実際には一時間とちょっとくらいだったはずなのだが、彼にとっては数時間、いや数日に感じられたかも知れない。
 真っ暗で狭い場所に身体を曲げた状態でどうしようもない不安が募ってくる。こんな恐怖はもちろん初めてだった。
「もう二度とこんな思いはしたくない」
 と思ったことだろう。
 助け出されて
「助かった」
 という思いがあっただろう。
 まわりの人の大げさに騒ぐ歓喜の声が聞こえていたが、もうそんなものは耳に入ってこない。親は必死になって一緒に探してくれた親や子供に誤っている。それはそうであろう、誰が悪いというわけでもない。しいていえば、そんな危険なところに隠れた自分が悪いのだ。しかし、今までに鬼ごっこの経験のない彼にとっては無理もないことだった。
 では、彼のことを忘れて帰ってしまった皆に罪はないというのか?
 これも難しいところである。今まで一緒に遊んだことのない人がその日初めて臨時参加のような形で一緒に遊んだのだ。しかも夕日の魔力で、すでに彼らは家に帰ることを意識していたため、普段と変わりない意識しかなかった。一人増えているという感覚がまったくなかったと言ってもいい。そんな彼らにも罪はないだろう。
 しかし、見つけてもらえなかった親はそうは思わなかった。
――どうしてうちの子を置き去りにして帰ることができたのかしら?
 としか思わない。
 わざとされたという意識は消すことができなかった。
 他の親は誰でも、不幸な事故だと思っている。子供たちもそうだ。見つけてもらえなかった子供にしても同じだったが、子供たちの間では、誰の心にもその時のことがトラウマとなって残っていた。
 学校からは、
「あの空き地で遊ばないように」
 という通達があり、警察の方も、その場所を立ち入り禁止にし、放置されているゴミを行政の方で、強制撤去という形にしたようだ。
 その場所は空き地に変わりはなかったが、買い手がなかなかつかないのも事実で、どうも因縁があるという変なウワサも立ってしまったようだ。
 事故が合って、一か月を過ぎたあたりで、見つけてもらえなかった子供の家族は、この街から引っ越していった。街の人たちの反省が見られないからというのと、息子のトラウマを解消してやりたいという気持ち、そして、自分たちがこれ以上いれば、人間関係で致命的な喧嘩になり、収拾がつかなくなることを分かっていたからだった。
 その事件のことは、誰も口にする人はいなかった。口にするのはタブーなのだという暗黙の了解が広まっていたようだ。
 そのせいもあってか、このことを知っている人は次第に減っていく。この街に住んでいた人も、次第に他の街に引っ越したり、都会に出て行ったりして、まるで都市伝説的な捉え方になり、下手をすれば、七不思議的な、本当にあったことなのかどうか分からないというレベルの話にされていたのだ。
 しかし、誰も死んだわけでもなく、子供を中心とし他愛もない事件として忘れ去られるのは仕方のないことだろう。
 この街には、絶対に風化させてはいけない暴行されたが、泣き寝入りしなればならなかった女の子の事件、そして風化してしまい、都市伝説になってしまった子供の間での、鬼ごっこにおける冷蔵庫格納事件と、二つの明暗分ける事件が存在しているのだった。

                カルチャースクール

 昔から曰くある街として言われてきた街ではあったが、一つは都市伝説になっているので、一番大きな事件はやはり、
「暴行泣き寝入り事件」
 であろうか。
 殺人事件にはなっていないが、少なくとも二人の若い男女が別々に自殺しているのも事実だった。しかも、男性の方は後追に自殺という苦み走った気分にさせられる、嫌な事件であった。
 それから数十年が経ち、その間には、変な事件は起こっていない。ただ、最近はマンションの建て替えラッシュという意味で、かつての事件を思い出す人もいるのも事実だった。
 当時の様子を知る人でmほぼ当事者と言っていいような人は、すでにこの街から離れて行った。
 女性の家族は娘の自殺を機に、この街を離れた。彼氏だった自殺した男性の家族も同様である。
 しかし、彼女と彼の共通の友達がいて、彼はまだこの街に居残っている。それから数年してからは普通に恋愛し、普通に結婚した。表面上はまるであの事件を引きづっているようにはまったく見えない生活をしていたが、なかなか忘れられるものではない。さらに、この街から去っていったそれぞれの家族とも連絡はずっと取りあっていたようだ。彼女の月命日には、必ず彼女の父親が花束を置いていく。彼女が自殺してからしばらくしてから、彼女の両親は離婚した。理由はいろいろあっただろう。
「あの時、どうして泣き寧入りしないといけないの?」
 という奥さんに、
「しょうがないだろう。逆らうことはできない」
 という夫、この言い争いは、火に油を注ぐだけでお互いに解決の糸口など見えてこない。
 完全に、交わることのない平行線を描いていたのだ。
 そうなると、もう離婚しかない。彼女の家庭は、あの事件を境に坂道を転がり落ちるように破滅への道を一気に駆け下りたのだった。これは絵に描いたような展開で、人が聞くと、
「まるでドラマのよう」
 と答えるだろう。
 それこそ、他人事でしかない。その思いも離婚を境に世間にまともにぶち当たった母親は、かなり悲惨な生活を続けていたようだ。何もする気にもならず、しばらくは放心状態、支えてくれる旦那がいるわけではない。彼とも連絡が途絶えてしまった。そのために彼と連絡が取れるのは父親だけになっていた。
 また、後追い自殺をしたと目された彼には姉がいて、友達はそのお姉さんと連絡を取っていた。
 彼の両親は、離婚までには至っていないが、家庭は冷え切ってしまい、姉もいたたまれなくなり、家を出たのだという。彼女も彼が死んでから、月命日にはお参りをしていた。それを知っているので、友達もなるべくこの街にやってきた家族にはできる限りのもてなしを考えていた。
 彼の奥さんも、そのことは分かっていて、一緒になってもてなすようになっていた。家にくれば止めてあげたり、食事をご馳走したりと、至れり尽くせりの状態だった。
 どちらの家族も喜んでくれていた。彼の奥さんも、事情を知って、大いに彼がやっていることに感銘を受け、それならばと、自分から料理を勉強したりして、できるだけのことをしようと思っていた。
作品名:過去への挑戦 作家名:森本晃次