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過去への挑戦

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 大家さんは、最初駐車場にしようと思ったようだが、まわりのマンションはほとんど駐車場が充実していて、元々それを売りにしていただけに、駐車場にいまさら変えても仕方がなかった。
「しょうがない、建て直すか」
 ということになり、解体後、新たなマンションを建てることになった。
 実はこの地域に似たような環境のマンションは意外と多く、今はちょっとした解体、建設ラッシュになっていた。
 数メートルしか離れていない。二軒隣のマンションも同じように建て替えるそうである。昼間は騒々しい毎日だったが、夜はその分、静かだった。何しろ人の数が絶対的に少ないからだ。
 当然、マンションの窓から漏れる光もなく、街灯だけだと、いかにも寂しい。建設ラッシュが時代の最先端だった時代も今が昔、テレビドラマの世界でしかないのだ。
「そういえば、何丁目かの夕日なんて映画もあったよな」
 と、当時を振り返る人もいるが、今ではそんな人はすでに還暦を過ぎ、会社員なら定年退職している年齢である。
「もはや戦後ではないなんて言ってたけど、戦争なんて、今出が歴史上の出来事の一つでしかないんだからな」
 とぼやく人もいる。
 戦争を知っている人は、当時子供だったとしても、今では八十歳を超えている計算になる。記憶も定かでない中で、言い伝えることもできなくなっていることだろう。
 その時代のこのあたりというのは、どんな街並みだったのだろうか。決して街中というわけではなく、空襲を受けるような県庁所在地の近くでもなかった。たぶん、空襲には免れたに違いない。
 ひょっとすると、田園風景が広がっていたのかも知れない。農作物は結構あったかも知れないが、戦争末期になれば、学童疎開や、大都市への大空襲で焼け出された人が命からがら逃れてきて、このあたりに生息していたとすれば、豊富であった農作物も、実際には豊富だったとは言えないかも知れない。
 戦後は次第に都心部が復興してくると、田舎から戻る人も増えてきた。そうなると、このあたりは昔のイメージに戻ってくる。しかし農地改革などもあって、いつまでも農業だけをしていられなくなり、いずれ、若い者は都会に出ていくことになる。
 このあたりも農地から住宅地へを姿を変えていったのもそのせいであったのかも知れない。
 詳しいことは知らないが、次第に道も舗装されていくようになり、街中までの通勤にも鉄道が電化されたこともあり、一時間もかからない場所だったこともあって、駅前近くを新興住宅街として売り出す計画が立った。
 最初は分譲住宅を考えていたようだが、団地建設が始まり、駅前から少し離れた丘陵地に住宅街が建設され、完全にこのあたりは都心部へのベッドタウンとして栄えるようになった。
 近くを国道が走り、温泉も近いことから、近くに旅館やホテルが建設されるようになると、観光産業からも人の需要が生まれて、このあたりに都心部から移り住むようになってきた。
 戦争中と違って、命からがらではない、逆に都心部で金を儲けて、こっちで家や団地を買うと言った形である。
 そういう意味ではこのあたりは住宅新興が早かった。それだけ昔の団地が最近まで残っていたりして、新旧が入り混じった街としても、有名だった。
 最近では住宅街というのも、いたるところにできて、古いところにわざわざ移り住む人もいないのではと思われたが、古いところを取り壊して、新たに建設することで、まだまだこのあたりの住宅需要は十分だった。
 それに、二十年くらい前から、郊外型の大型スーパーが、レジャーランド化して建ち始めたことで、このあたりも注目を浴びるようになった。
 温泉地とのコラボでいろいろなイベントも催され、温泉もレジャーランド化してくると、このあたりの住民の人口は、最大に達していた。一時期若者が都会に出ていくというブームがあったが、今では都会の学校を出てから、地元で就職するという人も増えたおかげで、ここを地元として家を買う人もマンションを買う人も増えたのだろう。
 そうなってくると、余計に古い建物はせっかくの景観を損なうということで、新たなマンション建て替えも盛んになっていた。
 ただ、マンションを建て替えるとなっても、一気にできるわけでもない。マンション建て替え計画が住民の立ち退きが終わって、マンションを取り壊しても、すぐに工事に入らないところもあった。土地の所有者と工事関係の会社との折衝でもあるのだろうか、しばらくの間廃墟のような場所もチラホラと出てきた。
 昼はまだいいが、夜になると、完全に真っ暗で、妖鬼の世界を映しているようだった。いわゆる廃墟と言ってもいいのだろうが、すぐ近くには人が住んでいる最新型のマンションが連立しているというのもおかしな感じである。
 マンションに住んでいる人は、廃墟があるのは分かっているが、建設会社の作った足場とそこに巻き付けられている幌のような厚手のシートに覆われているので、中を覗き見ることはできない。
 やろうと思えばできるのだが、誰が好き好んで、そんな夜の不気味な時間、気味の悪い場所を覗き込もうなどと思うのだろう。意識していないふりなのか、本当に意識の外なのか、人によって違うのだろうが、近寄る人もいない不気味な場所であることは、誰の目にも明らかなことだった。
 そういえば、廃墟ということで思い出される事件が昔あったと聞いたことがあった。
 それは例の強姦によって自殺に追い込まれた事件があった頃よりももっと前、それから十数年くらい前に遡る。ちょうど高度成長時代くらいであろうか、このあたりにはまだまだ廃墟のようなところがたくさんあった。
 それは、前にあった家に立ち退きをしてもらい、建て替えている前の状態であったが、立ち退きの際に、かなりのお金を貰って、口外に引っ越していった人は、昔の家具や電化製品を買い替えて、新居には新しいものを置くようになった。そのため、取り壊す予定の元の家に、古い家電や家具を放置したまま立ち退いた。
「処分くらい、お前たちでやれ」
 と言わんばかりにである。
 そのためか、街のあちこちに残っていた空き地は、廃品置き場になってしまい、まさかの粗大ごみ置き場と化していた。
 そんな場所をわんぱく小僧たちが見逃すはずはない。洗濯機や冷蔵庫など、鬼ごっこをするには最適な場所だった。近くに公園など、そんなに整備された地域でもないので、なかなか子供が思うように遊べる場所はなかった。しかも、工事現場が増えたおかげで、元の空き地もなくなってしまい、
「俺たちはどこで遊べばいいんだ」
 と言わんばかりだった。
 友達の家で遊んでいると、
「表で遊びなさい」
 と言われてしまう。
 友達の家で皆が集まって遊べるところというと、鉄工所を営んでいる友達のところしかなかったということで、何しろ鉄工所というと危険物の宝庫なので、表で遊べと言われる道理もあるというものだ。
 遊ぶ場所に窮した子供たちにとって、この廃品置き場は持って来いだった。親もそんなところで子供が遊んでいるなどということが分かっていれば、注意の一つもしたのだろうは、誰も気づいていなかったのが、悲劇の元だった。
作品名:過去への挑戦 作家名:森本晃次