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過去への挑戦

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「その犯人というのは、それから少ししてから捕まったんだ。当時はまだ少なかったんだろうが、防犯カメラのあるところがあり、そこに犯人が映っていたんだ。ただ、完全な犯行現場ではなかったけどね。そも警察はその男を重要参考人として取り調べることにしたんだ。その男は逃げられないと思ったのか、すぐに白状したというんだけど、その後で弁護士というやつが警察に訪ねてきたらしい。そして、その弁護士が被害者のところにも訪ねてきたのさ。そこで大金を積んだらしい。その加害者というのは、本人も未成年で、受験勉強のストレスからの犯行だったというのだが、あいつの親が政治家らしくて、その圧力が掛かったのさ。弁護士は大金を積んで言ったらしい。『彼はこれからの日本をしょって立つ男になる。今ここで事を荒立てても、あなた方には何にもいいことはありませんよ』ってね」
「それはひどい」
「そう思うだろう? しかも裁判沙汰になったとしても、被害者はいろいろ言いたくない恥ずかしいことを口にしなければいけない。そんな状態で法廷で耐えられるかな? なんてこともいうんだ。完全に脅迫じゃないか」
「それで?」
「親の方としても、本当は訴えたかったんだろうが、娘のことを考えるとどうしても訴えることができなかったんだ。娘も泣き寝入りするしかないと思ったんだろう。それから少しして、彼女は手首を切って死んだんだ」
 彼は続ける。
「ここで死んだ俺の友達は、その女の子と付き合っていたんだよ。まわりの人に変に気付かれないようにね。彼女は受験生だったから、あまり余計な気持ちにさせないようにしようという彼の男としての優しささ。俺は二人ともよく知っているから、どっちの気持ちも分かったんだよな。彼女が暴行された時、やつは本当に憤っていたよ。自分はこんなに怒っているのに、何もできない。彼女に何もしてあげられないってね。それで彼女の自殺を聞いた時、彼の中で何かが切れた。それはきっと、彼女を救えなかったという思いと、どうして自分に相談してくれなかったのかという彼女に対しての憤りとだね。そうなると彼はもう抜け殻だった。俺もいつかあいつが死を選ぶんじゃないかって怖かったけど、彼を見ているうちに、彼が死にたいのなら、死なせてやってもいいような気がしてきてね。彼は結局、自殺したんだ。でも、それは後追い自殺というわけでも、何かに抗議してというわけでもなく、彼自身は犬死なんだろうけど、俺には彼のイヌ気にを責める気にはならなかった。彼だって被害者の一人だと思うからね」
「そんなひどいことがあったんですね」
「ああ。だってやりきれないだろう? 犯人が見つからないとかでも被害者は溜まらないのに、犯人は分かっていて、それで泣き寝入りしなければいけないなんて、こんな世の中が悪いんじゃないか」
 と彼はとうとう、涙を流し始めた。
 こんな時に何といって声を掛けていいものなのか、そのすべを知らない。ただ今までに何度も同じような被害者を見てきているので、こんな時には何も言えない自分を憤るしかないことは分かっていた。
 ただ、今から二十年くらい前に、この場所でそんなことがあったということを、事件関係者、いわゆる当事者でしか覚えている人はいないだろうが、この話を聞いた刑事も、
「俺もきっとずっと忘れることのできないことになるんだろうな」
 と感じた。
 いろいろな事件があって、実際に携わったものの中にはもっと悲惨な事件もあっただろう。
 ただこの事件だけは、なぜか頭に残っている。聞き込みをした刑事は、その頃ちょうど刑事に上がったばかりで、ある意味最初の事件と言ってもよかったくらいだ。話を聞いただけでも衝撃で、実際に震えが止まらなくなった。
「警察官になったのは、悪い奴を懲らしめるため」
 誰もが思う勧善懲悪の考えを、この時にハッキリと感じた。
―ーこんなやつがのさばらないようにしなければいけない。それを取り締まるのが俺たち警察官の役目だ――
 と再認識した。
 その思いがあったからこそ、二十年経った今も、警察で飯を食っている。すでに年齢も四十過ぎで警部補に昇進していた。今では捜査の指揮を取れるまでになっていたのだ。
 そんな事件があったなどというのは、きっと誰も覚えていないだろう。当時の工事を請け負った会社の人でも覚えている人は少ないかも知れない。しかし事件としては、一人の女子高生がそこで暴行され、手首を切った。そして彼女の付き合っている大学生が、彼女の襲われた場所で自殺をしたというだけでもセンセーショナルな話である。しかし、遺族であろうか、その後にマンションが建ったのだがマンション前の電柱に、時々花束とお菓子をお供えにくる人がいる、見かけた人もいるようで、
「背が低い、腰の曲がった爺さんが、お供えに来ているようですよ」
 という証言があった。
 だが、別の人が見ると、
「いやいや、あれは女性だ。まだ三十代くらいの女性がお供えにきていたんだよ」
 という人もいた。
 男性には兄妹はおらず、お供えしているとすれば妹ではないかと思えたが、いつも無口で、しかも、人目を憚るようにお供えをしていたという、
 とにかく、この場所はその当時から曰くのある場所で、忌み嫌う人は、マンションを借りることもなく、問い合わせに来る人も少なかったという。当時はウワサを気にする借りても多く、マンションを作った方にとっても、この事件は、
「いい迷惑」
 だったのだ。
 しかし、建ってから一年も経てば、気にする人はいなくなり、まだほぼ新築に近いマンションで、駅に近いという立地条件もいい場所で、掘り出し物に違いないのに、まだ空室があるということで、すぐに部屋は埋まった。そのいくつかは、夜の店の女性で、ホステスなどが多かった。
 このあたりも、その時の教訓からか、街灯も整備され、少なかった監視カメラもたくさんでき、もっといいことには、マンションができてくれば、近くにコンビニなども進出してきて、いよいよ住宅街の様相を呈してきたのだった。

                 冷蔵庫

 マンションばかりというわけでもなく、少し入ると昔からの高級住宅街があり、夜は閑静な住宅街のはずだったのが、コンビニができたおかげで、騒音が目立つようになった。
 マンション住まいの人にとっては、夜道が怖くないという利点はあるのだが、昔からのこの土地に豪邸を構えている人たちにとっては、本当にいい迷惑であった。
 そのマンションの隣にもマンションが建っていて、そこはすでに耐用年数が来ているようだった。
 マンションの耐用年数というのは、役後十年くらいらしいが、実際にはもっと長く住むことはできるという。しかし、その間にいろいろな災害で壊れかけているところが目立ってくると、グッと短くなってしまう。
 このマンションは、高度成長期の後に作られたもので、当時は最先端だったようだが、今では、
「団地よりはマシ」
 という程度で、耐用年数というよりも、この設備で借りる人もいない状態だった。
 住んでいた人も、どんどん近くのマンションに引っ越して行ったりして、入居者あがいなければ、取り壊すか、立て直すかのどちらかだった。
作品名:過去への挑戦 作家名:森本晃次