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過去への挑戦

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「じゃあ、まずは僕から行きましょうかね。僕は最近のミステリーというよりも、戦前戦後の探偵小説をよく読むんですよ。ちょうど今から四十年ちょっと前くらいですかね。その頃の小説家が脚光を浴びた時代があったんです。その頃自分の父が嵌って読んでいたらしいんですが、学生時代に流行って読んだ本というのは宝物になるようで、今でも父の書斎にたくさんあります。僕がちょうど父が その本を読んでいた年齢になった頃というのは、本屋のレイアウトは全然変わっていて、あの頃の文庫棚に所せましと並んでいたらしい小説群がまったくなくなっているんですよ。それを父は宝物にしていてくれたので僕も読むことができたし、宝物ですからね、そのつもりで読むと、相当感動したのを思い出しましたよ」
 とまくし立てるように話しながら、上を向いていたのは、その時の父親の書斎の本棚を覆い出していたからであろうか、
「僕もその頃の探偵小説は好きなんだ。今では推理小説というのが一般的になっているけど、当時は探偵小説というのが一般的だったようなんだ。探偵が出てきて事件を総会に解決していく。理論立てての解説などは、見ものだろうね」
 と鎌倉氏は言った。
「そうなんですよ。今の推理小説は、何かパターンのようなものがあって、科学捜査によるトリック解明だったり、トリックも昔と変わってしまった気がするんですよ」
「ちょうど戦前戦後に活躍した探偵小説作家が評論で書いているんだが、探偵小説におけるトリックというのは、ほとんどが、出尽くしてしまっていて、あとはいかにバリエーションや効果を用いて描くかということだそうですね。当時で出尽くされているというわけですから、今の時代は科学捜査に頼るようなやり方が主流になるのもしょうがないのかも知れないですね」
 と鎌倉氏が言った。
「また、他の小説では、三大トリックとして、『密室トリック』、『顔のない死体のトリック』、『一人二役トリック』なのだというのもありましたが、これもバリエーションなんでしょうね」
「それは私も聞いたことがある。密室と顔のないトリックはどちらもすぐに読者に分かってしまうが、一人二役トリックだけは、最後まで看破されてはいけないものだということだよね。だけど、それに挑戦するような話もあったりして、あれには、正直やられた感があったよ」
「はい、あの話は顔のない死体のトリックと、一人二役トリックの合わせ技でしかたらね。僕もビックリしました。そういう意味でも、トリックをバリエーションで何とでもできるという発想は面白いですよね。作者が読者への挑戦というような作品には、心惹かれます」
 と、門倉は言った。
「トリックばかりではなく、あの時代は時代背景も手伝ってか、おどろおどろしいものも多かったですね。しかも今では放送禁止用語になっていたりして、口に出すことも文字にすることもできない。それでも当時の文学性と時代背景を鑑みて、当時の表現を削ることなく発刊している作品もまだありますね」
「そうですね。戦争というものが時代を変えたというか、時代が戦争を起こしたんでしょうけどね」
「いや、結局戦争を起こしたのは人間さ。誰に責任があるとかいう問題は別にしてね。つまりそれだけ常識というものがすべて違っていたと言えるのではないだろうか。だから事件も陰惨なものが多かった」
「僕はそこに引き込まれるんです。読んでいるとまるで知らない時代のはずなのに、映像が流れているような錯覚に陥る。当時の作品を映像化したものも中にはありますが、どうしても映像化には限界がありますからね」
「特にエログロ系はそうでしょうね。でも、想像できるだけ、門倉君はすごいと思いますよ。普通はなかなかできるものではない。犯罪は今も結構冷酷なものも多いですが、昔とは質が違うような気がするのは僕だけだろうか」
「僕も同じことを感じます。だけど昔の小説は、今のようにそんなに人が密集しているのを感じないせいか、夜の場面など、そんなに人が歩いている場面を想像できないので、ちょっと路地に入ったりする描写があると、該当と言っても、裸電球にちょっとした傘がついているだけのところに蛾が飛んでくるようなそんな場面が想像できて、歩く人もいないように思うんです。暗闇に孤独というそれだけで人間の由布をアウルシチュエーションができあがるような気がするんですよ」
「暗い道は本当に恐怖だよね。そんなところを女性が一人で歩くのは想像できない。でも、実際にはあったんだろうね」
「以前、読んだ小説で、暗い路地を一人で深夜歩いている女性がことごとく襲われて殺されるという小説がありましたね。そしてすべてにおいて強姦されているというものです。陰惨といえば陰惨ですよね」
「変質者の犯行だったのだろうか?」
「いえ、巧妙に仕組まれた殺人でした。動機もちゃんと存在するんです。その人たちは殺される理由も存在していて、皆夜中にそんなところを歩かされるように仕向けられた。もちろん、目的は殺害であって、強姦が目的ではない。猟奇殺人と思わせるための細工だったんですね。そして、犯罪の間隔も、連続殺人なのか、それとも模倣犯の犯行なのか判断がつかないほど期間が空いていたんです。だから、どちらに絞るかも難しく、捜査は混乱していましたね」
「動機というのはどういうものだったんだい? 最初は猟奇の連続殺人かと思われて、そのうちに被害者の人間関係が分かってくると怨恨が疑われました。でも、実際には一つの犯罪を隠すために行われたものだったんです。ただ、それも皆殺される理由があったというところがこの犯罪の特徴でしたね」
「なるほど、動機が最後まで定まらなかったわけだ。そうなると捜査も混乱する。なかなか考えられた犯罪だったわけだ」
「ええ、でも僕もだいぶ前に読んだので、何か忘れているような気がしているんですけどね」
 と、言って門倉は苦笑いをした。
「それは時代背景としてはいつ頃のことなんだい?」
「そうですね。出版は戦後だったんですが、時代背景は戦前になっていました」
「何というタイトルだったのかな?」
「確か、『見えない時間』というタイトルだったと思います。タイトルだけを見ればどんな小説なのか想像もできませんけど、タイトルにもそれなりの意味があったような気がしますね」
「それは興味がありそうに思えてきたので、機会があったら読んでみよう。そういえば私も以前読んだ本で陰惨なものをいくつか思い出してきたよ」
「ほう、どういうものですか?」
「その作家というのも、戦前から戦後にかけて活躍した人なんだけど、代表作というと、やっぱり戦前になるかな? その人は今までに書いた自分の小説に限ってだけれど、気に入ったシチュエーションがあれば、何度も使っているんだ。さっき話に出た、トリックはもう出尽くしているので、あとはバリエーションの問題だと言った作家が言ったが、その作家の意見をそのまま踏襲しているような感じではないかな?」
「それは面白いですね。今だったら飽きられそうな気もしますが、その時代はそうでもなかったんでしょうね。いいものはいいという考えだったんでしょうか?」
作品名:過去への挑戦 作家名:森本晃次