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過去への挑戦

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 詩織は先ほどの写真を貰って帰っていた。最後は不本意であったが、その写真をよく見ると、何とそこには自分の姿が映っていない。
「どこに行ったの?」
 と思ってみると、
「なんだ」
 と自分を見つけてホッとしたのだが、その自分の姿も中途半端で、顔から上しか出ていなかった。それは、美佐子さんの影に隠れて、腰のあたりに顔が浮かんでいるというような感じだった。
 だが、詩織はふっと思った。
「私は、こんなところにいたかしら?」
 確か写真を撮った時は、もう少し中央にいたような気がしたのだった。
 しかし考えてみると、それは自分の勘違いで、シャッターチャンスをを自分で勘違いしたのかも知れないと感じた。
 そもそも皆和気あいあいとしているところをいきなりシャッターを切られたようなものである。ただ、気になったのは、皆最後の瞬間は、カメラに正対し、まるで修学旅行の集合写真のごとく、キチンとしていやはずだった。それがなぜこんな羽目を外した写真になったのか、感がられることは一つである。
「シャッターチャンスは二回あったんだ」
 というものだった。
 被写体側がシャッターチャンスだと思っていたのは、実はもう一枚の方で、主催者が面白がって、こちらをシャッターチャンスとして渡したのではニアかということである。
 となると、一つ疑問が残る、
「なぜ、もう一方で「はダメだったのか?」
 という疑問だ。
 明らかにポーズを決めていたのは、もう一枚だったはず、しかもシャッターの音も聞こえたではないか。それを使わなかったということは、何か都合の悪いものでも写っていたのだろうか? 心霊写真的な何かである。
 あるいは、写してはいけない人を写してしまった。そういう考えも出てくるというものだ。
 そう考えれば、何となく辻褄は合うし、そう考えなければ、こちらとしても納得がいかない。
 写してはいけないものなのか、そこに写っていてはいけないものなのか、どちらにしても恐怖を感じる。
――そういえば、あの時の美佐子さんの態度、このことに何かかかわりがあるのかしら?
 と思うと、背筋が寒くなり、ゾクッとするものを感じた。
 詩織はそんなことを考えながら帰っていた。いつも通る背の高い人なら頭をこするのではないかと思うような低いガードレールを通り越すと、少し寂しい道に入ってくる。
 今まで詩織はその道を歩いていて、怖いと感じたことはなかったが、先ほどの写真の一件といい、いくら皆と仲が良くなかったとはいえ、せっかくの教室を今日で卒業しなければいけないという一抹も寂しさのため、少し心細くなっていたのだろう。普段感じたことのない恐怖のようなものを感じた。
 それは普段意識することのない足元を見ながら歩いたからかも知れない。
 足元からは、当たり前のことであるが、自分の影が伸びていた。こんなにも細長い影を見たことはなかった。しかも、その影は一つではなく、足の先を中心に放射状にいくつも存在した。
 そして歩いていくごとに、その影はがグルグル回っているのだ。街灯による悪戯なのはすぐに分かったが、今まで見たこともない光景を見せられると、その場所が本当に恐ろしい場所であるということを再認識した気がする。
「痴漢に注意!」
 などという看板に、コミカルではあるが、ニヤけた変態音とが写っていて、その向こうから制服警官が追いかけてくる。そして手前には座り込んで泣いている女の子。いくらコミカルとはいえ、リアルなマンガだった。
 そんな道を歩いていると、その先には、小さな空き地があり、そこから人が走り去った気がした。
「何だろう?」
 と思って歩いていくと、今度はバイクの音が聞こえてきた。目の前を走り去ったように見えて、急カーブになっている道を曲がっていくと、エンジン音が急に小さくなり、どうやら止まったようだった。
 そちらの方に入ると、そこには人だかりができていた。
「何かあったんですか?」
 と聞いてみた。
 道のそばには真っ赤に光って、眩しい光が交互に襲ってくるのを感じると、それがパトランプであるのは一目瞭然だった。それが救急車によるものなのかパトかーによるものなのか、すぐには判断できなかったが、白衣に身を包んで、ヘルメットをかぶった人たちがテキパキと担架を出して運んでいるのが見えた。救急車が人を運ぶのだから、少なくとも死んでいないのは分かった。
「死人は救急車では運ばないからね」
 ということだった。
 もし、死んでいるのであれば、警察が現場検証を終わるまで動かすはずがないからである。
 救急車に運ばれる人の顔がチラッと見えた。
「あれ? あれって、ななみちゃんじゃないかしら?」
 と思わず声に出してしまった。
 さっきまで一緒にいたはずのななみだったが、確か用があると言って帰ったはずだということを覚えていた。それにしても、さっきまで一緒にいた人がなぜこんなところで救急車に運ばれる羽目になったというのだろう?
 詩織の隣にいた人が詩織の今の言葉を聞いて、
「あの人をご存じなんですか?」
 と訊ねてきた。
「ええ、同じ料理教室に通っていて、さっきまで、そうですね、一時間くらい前まで一緒だったんですよ。ところで彼女どうしたんですか?」
 と、今度は詩織の方が聞きなおした。
 すると、相手から返ってきた言葉はとても意外で、にわかには信じられないものだったのだ。
「彼女、ここで誰かに刺されたんですよ。詳しいことは私にも分かりませんが、とりあえず救急搬送されるということで、もう少ししたら警察が来るということです」
「じゃあ、まだ警察も来ていないということは、本当に今のことだったんですね?」
 と聞くと、
「ええ、我々は、さっきまでそこのスナックでちょうど常連同士の慰安会のようなものをやっていて、途中で一人酔ってしまって、酔い覚ましに表に出た時、オンナの悲鳴が聞こえたって、そいつが急いで戻ってきたんです。僕たちは皆、そいつがまだ酔いが冷めていないだけだと思ってからかったんですが、彼の様子が尋常ではないので、来てみたら、この通り、胸を刺されたようで、うずくまって唸っていたというわけです」
 事情はそれで分かったが、そういう話をしていると警察が来て、警察の本格的な捜査は始まった。
「そうですか、オートバイの走り去る音ですね。その相手を見ましたか?」
「暗いし、ヘルメットをかぶってますからね。見えなかったです」
 とバイクの話が飛び込んできたが、詩織はさっきのバイクの音を思い出していた。
 さて、詩織は後から来たので、普通なら何も事情聴取を受けることはないのだが、何しろ被害者とは顔見知りということで、一応の事情聴取を受けた。詩織もななみのことは知ってはいたが、あくまでも知っているというだけで、事件に関係することは何もなかった。
 ただ、バイクがここから走ってきたのを見たということは証言したが、それは事件が起こって少ししてからのことで、しかも野次馬連中は気付かなかった。どうして気付かなかったのか、この事件では重要なことであったが、その時そのことを気にする人は、警察の中には誰もいなかった。
作品名:過去への挑戦 作家名:森本晃次