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フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~

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#12.孤独の中のふたり




神戸市街地
ルミナリエの電飾が消えていく。
帰路につく観光客たち。
その群集の中から鈴木を探しだそうとする湊の携帯が鳴る。

湊  「(電話に出て)はい、湊。・・・撤収? どういうことです?」


元町ガード下。
小じゃれた店が軒を並べる中を千晶を探して歩く鈴木。
異人館が建ち並ぶ北野坂で千晶を探す和田。
ルミナリエの喧騒を逃れて南京町へと抜けだす千晶。
角を曲がるとショップの店員に遭遇する千晶。

店員  「わっ、来てくれたんだ。どうぞどうぞ」

強引に千晶の手をとる店員。
暗い階段を千晶を引っぱって地下に降りる店員。

千晶  「わたし、お金が・・・」
店員  「いいのいいの、初回はタダなの」

店員が地下の店のドアを開ける。
いきなり、トランス系の音楽と、ミラーボールに反射するバリーライトが千晶を包みこむ。
ホールを占める十代らしき若い女性たちが無心に踊っている。
体験したことのない不思議な空間に迷いこむ千晶。
ホール2階にバルコニーVIP席。
札束をテーブルの上に積んだ男たちが、酒を片手にダンスフロアで踊る少女たちを見おろして品定めしている。


同地区周辺
千晶らしき女性を呼びとめる鈴木。

鈴木  「あの、優里さん?」

振り向いた女性は市役所で別れた千晶とは別人。

鈴木  「ごめん。人違い」

溜息をつきつつ近くのカフェでコーヒーを注文する鈴木。
中2階になっているテラス席に座る鈴木。
カップを片手に通りを行き交う人々をウォッチする鈴木。
暫くして通りの向こうに千晶らしき女性を見つける鈴木。
千晶はストリート系の少年に付きまとわれている。
拒否する千晶に少年はなおもしつこく付きまとう。
少年の後方をつかず離れず歩く男。
VIP席にいた胡散臭い中年男性である。
誰かに手を掴まれて驚く少年。
少年の手を掴んでいたのは鈴木。

少年  「何すんだよ、おっさん!」

鈴木がさらに少年の腕をねじあげると、少年はポケットからナイフを抜く。

鈴木  「おっと」

少年を壁に押しつけ、銃口を少年の鼻先の押しあてる鈴木。

鈴木  「死にたいか?」

少年の手からナイフがこぼれ落ちる。
一目散に逃走する少年。
胡散臭い中年男性も少年とともに姿を消す。
振り返ると千晶の姿がない。

鈴木  「優里さん!」

呼びかけるが返事はない。
通りを数十メートル探し歩く鈴木。
建物の間の狭い路地で膝に顔を埋めて震えている千晶を発見する鈴木。
声をかけようとして躊躇する鈴木。
周囲を見回す鈴木。
電飾のついた洋菓子店が鈴木の目にとまる。

*     *     *     *

“優里ちゃん“と穏やかな声で呼ばれて顔をあげる千晶。
焼菓子が詰まった紙袋を持って千晶の前に立つ鈴木。

鈴木  「おなか減ったでしょ」

警戒する千晶だったが、千晶のお腹が鳴る。

鈴木  「一緒に食べませんか」

*     *     *     *

南京町の祠のベンチに並んで座る千晶と鈴木。

鈴木  「ほら、こうやってナプキンで端っこをつまんで食べると手が汚れないんだ」

紙袋にはチョコレートやストロベリークリームでコーティングされたスティック状のパイが溢れるほど入っている。
鈴木に言われた通りナプキンでパイをつまみ、口に運ぶ千晶。

鈴木  「どう?」
千晶  「(感情たっぷりに)おいしい」
鈴木  「(笑いながら)生まれて初めて食べました、みたいな」
千晶  「生まれて初めて食べました、こんな美味しいもの」
鈴木  「ほんと?」
千晶  「甘いものは、ずっと控えていたから」

2個目のスティックパイを頬張る千晶。

鈴木  「きょうは大丈夫なの?」
千晶  「はい、もう・・・」

微笑みながら自らもパイを食べる鈴木。

鈴木  「ウマいよね、これ」
千晶  「すっごく美味しい。なんていうんですか、これ?」

紙袋を持ちあげて店名を千晶に見せる鈴木。
ドイツ語が書かれていて千晶には読みにくい。

鈴木  「ケーニヒスクローネ。給料が入った日はここのお菓子を買うのが家の習わしだった。ささやかなプチ贅沢」
千晶  「ケーニヒスクローネ? 今度買いにいきます。あっ、ごめんなさい。これいくらですか(ポケットの中の小銭入れを探す)」
鈴木  「いいよ、これくらい(笑う)。お・ご・り」
千晶  「ありがとうございます」
鈴木  「真面目なんだね・・・」

小銭入れをしまい、食べ終えた口元をハンカチで拭う千晶。
千晶の仕草をじっと見つめる鈴木。

鈴木  「ひとつ、訊いてもいいかな」
千晶  「・・・?」
鈴木  「君は佐原、優里ちゃん?」



神戸市街地
湊   「どういうこどですか!」

無線を手にしている湊の怒声が街角に響く。

湊   「奴は凶器の拳銃を持ったまま、連絡を絶った。また市民に犠牲者が出たらどうするんですか!」
湊   「受け入れられません。俺は鈴木の捜索を継続します」

捜査員Aが湊に耳打ちする。

捜査員A「永井本部長直々の命令です。撤収しましょう」
湊   「納得がいかん。俺は鈴木を見つけだす。お前も手伝え」

困惑する捜査員A。



南京町の祠

千晶  「あたし、自分が誰だか、時々わからなくなるんです。あ、変なこと言ってごめんなさい」
鈴木  「・・・わかるよ」
千晶  「えっ?」
鈴木  「つらいだろう?」
千晶  「・・・?」
鈴木  「僕もそうさ」
千晶  「あたし、おじい様が望む佐原優里になりたかった。そうなるのが当たり前だと思って・・・。でもなれない。それが苦しくて・・・」
鈴木  「君は、君のままでいいんだよ。誰かの期待に応えようとしなくてもいい」
千晶  「あたしはあたしのままでいい?」
鈴木  「君はそのままで、十分・・・きれいだ」

誉め言葉に照れたようにはにかむ千晶。

千晶  「父も母も亡くなりました。おじい様に嫌われてしまったら、あたし独りぼっちになるんです。友だちもいないし・・・」
鈴木  「僕がそばにいるよ。君の力になる。変な意味じゃなくて、君のことずっと守りたい。もし僕が必要になったら、教会の鐘を鳴らし続けてくれ。どこにいても駆けつける。教会なんて簡単に忍びこめるから。そうだ、いまから行こう。教会の鐘を鳴らしに」
千晶  「いいです」
鈴木  「・・・そうだね。こんな夜中に、迷惑だね」
千晶  「ありがとう。そう言ってくれるだけで、優里は、優里はとても嬉しいです」

千晶の目から大粒の涙がこぼれる。

*    *    *    *

祠のベンチに身を寄せ合って眠る千晶と鈴木。
鈴木が身震いをして薄目をあける。
空が明るみを帯びている。
眠っている千晶の肩に鈴木のスーツの上着がかかっている。
和田の声がする。
千晶が目覚める。

和田  「お嬢様、千晶様。あっ、こんなところに」

和田が千晶発見の一報を昭吉に入れる。

和田  「お嬢様を発見しました。南京町でございます」

鈴木を不審に思う和田。

和田  「お宅はどちら様ですか。お嬢様から離れなさい」
鈴木  「あんたこそ誰だ」