フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~
政岡 「ウウン、佐伯さんは馬場くんのこと知らないから」
佐伯 「やっぱり好きだったんだ、エミリー」
政岡 「そんなんじゃありません。彼はなんていうか、男気があるっていうか面倒見がいいていうか。たぶん、部活の仲間や同級生たちも心配していると思います」
佐伯 「でもなぁ、警官がひとり殺して、もうひとりも殺人未遂だからなぁ。極刑は免れないかも」
政岡 「何かあるはずです、理由が。馬場くんがそこまで追いつめられた理由が」
佐伯 「エミリー、君の気持ち、わからないわけではないけど、やっとハイパーメグが導入されたんだ。今、そっちに集中しようや」
政岡 「まさか・・・」
佐伯 「まさか?」
政岡 「馬場くん、犯行時の記憶がないって言ってましたよね」
佐伯 「おいおい、まさかエミリー・・・」
政岡 「調べましょう。佐伯さん」
佐伯 「調べるって、何を?」
政岡 「トランシングレポートを再開するんです」
佐伯 「待てよ。非公開実験の準備をするのだけでも、相当忙しいんだよ」
政岡 「佐伯さんは、無実の人間が死刑になっても平気なんですか?」
佐伯 「エミリー、いいかい。無実の人間が死刑になっても平気だなんて誰も思ってやしない。彼の身に何が起きたかはわからない。仮にトランシングがあったとしても、トランシングはまだ一般的には超常現象の域なんだ。科学的に実証されたものではないから、捜査や裁判の役に立たない」
政岡 「じゃあ、証明して見せましょうよ」
佐伯 「軽々しく言うな。実験が終了するのに少なくとも三年はかかる」
政岡 「待てないわ、三年も」
佐伯 「エミリー、いいか。これは、君の研究じゃない。天根教授の永年の苦労が実を結ぶかの瀬戸際なんだ。いま世間に公表したらぶち壊しになるだけだ」
政岡 「(立ちあがって)じゃあ、いったい私には何ができるの?」
窓ガラスを透写する夕陽が白い壁に濃い影をつくる。
兵庫県警本部前(夜)
受付に現れる佐伯と政岡。
政岡 「お願いです。馬場武史に面会させてください」
警官D 「だから無理だと言っているでしょう、さっきから」
政岡 「少しでいいです。とっても大事なことなんです」
警官D 「何度同じことを言わせるんですか」
政岡 「あなたじゃ話にならないわ。上の人を呼んでください」
警官D 「あんたね・・・」
佐伯 「すみません。(頭を下げる)あの、この事件の担当の刑事さんはいらっしゃいませんか。その方とお話することはできないでしょうか」
警官D 「いることはいるが、話は無理です。今、忙しくてそんな場合じゃありません。用件があるんなら文書か、警察のホームページにそういうのあるから、そっちで・・・」
政岡 「馬場武史は無実かも知れないのよ」
警官D 「馬場は・・・あいつはひとり殺した。湊刑事が止めなければ、もうひとり殺してた。無実なわけないでしょう、お嬢さん」
遠藤が仕事を終えて県警ロビーに降りてくる。
佐伯たちの問答に聞き耳をたてて、
遠藤 「どうかしましたか?」
警官D 「これは遠藤監査官。お役目ご苦労様です」
政岡 「遠藤監査官?」
警官D 「この方は捜査関係者じゃない」
遠藤 「いいですよ。僕でよければお話を伺いましょう」
ロビー端のテーブルの備わったソファ席
遠藤 「その、トランシングとかいう現象が馬場巡査の身に起こった可能性があると?」
佐伯 「はい、あくまで可能性です。それに証明することもできません、今は・・・」
遠藤 「そのようなあやふやな話を持ち出されても警察は動きませんよ、佐伯さん」
政岡 「遠藤さん、事件の概要をニュースで見聞きした限り、馬場くんの身にトランシングが起きたとしか、私には考えられません。あの、来週、大学でトランシングの実験が行われます」
佐伯 「エミリー! 非公開だぞ!」
政岡 「天根教授には、私から事情を話します。遠藤さん、実験に立ち会ってもらえませんか? 人と人との間にトランシングが起きることを、その目で確かめてもらえませんか?」
作品名:フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~ 作家名:JAY-TA