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フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~

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#7. 慟哭の谷




警察病院
友也の病室(個室)
戸口に制服警察官・馬場武史巡査が立哨している。
ベッドの傍ら、友也に語りかける遠藤。

遠藤  「トモ、聴こえているなら目を開けてくれ」

友也の目は閉じられたまま開かない。

遠藤  「そうか、まあいい。聞いてくれ。親父が最近ボケてきてなぁ。退官して六年、ほとんど家にいるせいだと思う。僕の顔を見て、ときどきお前の名前を言うんだ。今までそんなことは一度もなかったのに。この年齢になってやっとわかることがある。親父はトモ、お前のことをずっと気にかけていたんだ。離れて暮らすようになったことを、今になって後悔しているんだと思う。親父がボケてしまう前に、親父に会ってほしい。そのことを言いたくて、お前を探していたんだ、トモ。でも、まさかこんなことに・・・」


湊がノックして入室する。

湊   「どんな様子ですか、弟さん」
遠藤  「はい、目を覚ますたびに痛がりまして、見ていられませんでした。でもここのところだいぶ落ち着いてきたようです。昨日ICUからこちらに移りました」
湊   「それはよかった」
遠藤  「ところで捜査のほうは?」

友也の目がすうっと開く・・・遠藤と湊は気づかない。

湊   「難航しています。暗号化アプリでメールは解読できましたが、携帯そのものが  盗品で、しかも偽造したSIMカードを使っているので、共犯者がなかなか割り出せません」
遠藤  「そうですか。早く友也が供述できるようになればいいのですが・・・」
湊   「んん、遠藤さんも、あまり根をおつめにならんように。では(立ち去る湊)」

心電図の電子音が早くなる。
友也は気づかれることなく、すっと目を閉じる。

遠藤  「どうした、友也。痛むのか?」

友也に変わった様子がなく、心電図が落ち着く。

遠藤  「友也、また明日くるからな」

左目を薄く開き、遠藤の背中を見送る友也。
廊下で俯いて歩く清掃員に変装した日垣とすれ違う遠藤。
馬場巡査に向かって廊下の突き当たりを指差す日垣。
色めきだってそちらのほうに走りだす馬場。
日垣が友也の病室に入る。
素早くカーテンを引き、戸口からベッドを隠す日垣。
友也の目が日垣の動きを追う。
心電図がまた早くなる。
友也の身体が小刻みに震えだす。
清掃帽を脱ぎ、友也を覗きこむ日垣。
日垣の唇が動く。
日垣の唇の動きが友也の記憶を呼び覚ます。

友也の記憶
日垣  “ハンガー、てめぇ人の話聞いてるのか‥”
唐津  “罪の重さは三人とも同じだ、いいな”
日垣  “無駄話は終わりだ。じゃあ、あばよ”

猿ぐつわを噛まされ、運転席に縛り付けられ、崖から押し出される光景。

生命監視装置の脈拍数、血圧が上昇する。
ポケットから注射器を取り出し点滴袋に突き刺す日垣。

傷ついた身体で渓流に手を伸ばす友也。
その指の先に割れた骨壺の欠片。

友也の目が虚ろになってゆく。
生命監視機器の警報音がけたたましく鳴り出す。
馬場巡査が異変を察知し戻ってくる。
病室に飛び込みカーテンを開く馬場。
注射器を手にした清掃員姿の日垣を視認する馬場。

馬場  「誰だ、貴様! 小森に何をした!」

驚いた日垣の腕が点滴チューブや電極コードにからむ。
機器が倒れる。
友也の身体から電極コードが?がれる。
床に倒れ壊れた機器から火花と白煙。
友也の腕の点滴チューブが抜け、口元の酸素吸入チューブが抜ける。
絡んだコードを解きながら注射器を向け振り回す日垣。
針先を避けてよろけて病室の隅で尻もちをつく馬場。
病室の前に看護師たちが集まりだす。
モップを手に何食わぬ顔で病室から立ち去る日垣。
福住医師を先頭に病室になだれこむ看護師たち。
壊れた機器やちぎれたコードをかき分け友也のベッドにとりつく福住。

福住  「(友也がぐったりしているのを見て)PCPSが作動していない。MEに連絡。処置室に運ぶ。ストレッチャー、大至急!」

瞳孔を診る福住。

福住  「気を失っている。(友也の首筋に指をあて)脈がとれない」

病室の隅で身じろぎしない馬場を見つける福住。

福住  「何があったんですか、お巡りさん?」

怯えた表情で首を横に振るだけの馬場。
返答を諦める福住。
ストレッチャーで友也を運びだし順次ひきあげる医師たち。
医師と看護師が友也を運び去った後おもむろに立ち上がる馬場。
ベッドのネームタグ患者名『小森友也』を見て、ただ唖然とする馬場。



病院の男子トイレ
洗面台の鏡を見る馬場。

馬場  「(自分の顔を両手でさすり)誰だ、こいつは?」

制服の上から全身をたたいて確認する馬場。

馬場  「なんで俺はここにいる? こんな格好で?」

腰周りの装備品をさぐる馬場。
警棒の隣にホルダーに収まった拳銃に触れる馬場。

友也の記憶
手を伸ばして沢の流れに浮かんだ骨の欠片に触れる友也。
小さな骨がせせらぎに運ばれて消えていく。

ホルダーから拳銃を取り出す馬場。
鏡に映った自分に銃口を向ける馬場。
肘を曲げて自分のこめかみに銃口を向ける馬場 。



佐原昭吉宅
洗面台の鏡で優里の衣類を着てみる千晶。
優里の衣服はサイズが細身で、千晶には合わない。
ゴミ箱いっぱいに捨てられた衣類。
おなか周りや二の腕を触って溜息をつく千晶。

和田  「先方と二億5千万で折り合いました」
昭吉  「そうか、予想の範囲だな。いや、ご苦労様」

『優里』と呼ばれる声を聞いて明るい表情を作り居間に現れる千晶。

千晶  「何? おじい様」
昭吉  「優里。どうだ新しい学校は? 馴染めそうか?」
千晶  「ん・・・」
昭吉  「まだ戸惑っているのか。友だちと離れ離れになってつらいのはわかるが、優里、本当のことを隠して付き合うのは、もっとつらいぞ。おじいちゃんは、新しい学校で新しいお友だちをつくったほうが楽しいと思うがな」
千晶  「・・ん、わかった。おじい様がそのほうがいいとおっしゃるなら、優里それでいいよ」
昭吉  「そうか、わかってくれるか。(和田を呼ぶ)」



裏六甲事件現場
事件現場崖上に到着する一台のパトカー。
パトカーから降りて崖下に向かう馬場。
現場はまだ散乱した破片や、焼けた草木が残っている。
小川に沿って歩くが、位牌はない。
馬場の足元に硬いものがあたる。
見ると白い陶器の底の一部が地面から突き出ている。
地面を掘る馬場。
拾いあげるが、それは砕け散った陶器は欠片。
欠片をポケットにしまう馬場。
せせらぎの水際で細長くて白い骨状のものを拾う馬場。
しかし石だとわかり投げ捨てる馬場。
拾っては石だと見て投げ捨てることを何度か繰り返す馬場。
土砂に埋もれかけた白い紙片を見つける馬場。
拾って表返す馬場。
それは紛れもなく友也の母の写真の切れ端。
残りの切れ端を探すが見つけることができない。
写真の切れ端を胸の前で抱きしめる馬場。
馬場の嗚咽に似た叫び声が谷に木霊する 。



タクシー車内
剥ぎ取られた電話帳のページ。
探偵、調査会社の住所・電話番号に二十本目の削除線を引く運転手。

運転手 「もう、二十件超えましたよ。まだ探しますか?」

後部座席で頷く馬場。