小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~

INDEX|14ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

校長  「そうですか。それは、お気の毒に‥‥。この学校は、幸いバリアフリーで専門の先生もおります。ぜひ、うちの学校にいらしてください。あ、こんなときに何なんですが、昼から合唱コンクールの練習があります。よかったら見てやってください」

チャイムが鳴る。
校長が講堂の最後部のドアを開ける。

校長  「佐原さんのご希望に添って、女子生徒だけ集めました」
昭吉  「すまないね、わざわざ」

壇上に二十人足らずの女子生徒が“アメイジンググレイス”を合唱している。
四十人余の女生徒がパイプ椅子に腰かけて聴いている。
生徒の生年月日や住所が記された資料に目を通す和田。

校長  「全国大会が近づいているので‥‥。毎年、入賞以上はいくんですよ」

校長が立ち去り、昭吉、天根、佐伯、優里が残る。
天根がノートパソコンを開く。

昭吉  「どんな具合ですか?」
天根  「ええ、本来ならばひとりひとり脳波を測定するところなのですが、なんとも心苦しい・・・」
昭吉  「お願いします」
天根  「気が進まないが・・・」
昭吉  「責任は私が取ります。ご心配なく」
天根  「うまくいっても、どの子に優里さんのエスがトランシングするか、わからない。それに、優里さん自身に万が一のことがあるかもしれません。それでもいいのですか?」
昭吉  「承知の上です。やってください」

しぶしぶノートパソコンを政岡に手渡す天根。
優里の左手中指に配線されたクリップをつける天根。
生理食塩水の点滴の中に色のついた薬剤を注入する天根。
ノートPC画面の三本の波形のうち、一番下の波形が強く波打ちはじめる。

天根  「佐原さん、少し離れてください。では、始めます」

車椅子後部に取り付けられた機械類を操作する天根。
優里の表情が赤みを増す。 
顔面がひきつり、痙攣したかと思うと稲妻のような光が優里の全身を包む。
やがてその光は潮が引くようにすっと消える。
普段の柔らかい寝顔に戻る優里。

昭吉  「??(優里に変化がない)」

計測機器の数字をチェックする天根。
壇上で小さな悲鳴があがる。
歌声がなし崩しにフェードアウトし、列が乱れてざわめきが起こる。

生徒A 「先生、千晶が・・・」

合唱のひな壇の下で青山千晶が倒れている。
痛みをこらえながら上体を起こし身辺を確かめる千晶。
壇上に立つ生徒たちの心配そうな視線におののく千晶。
起きあがり周囲を見回す千晶。
逃げるように舞台袖に消える千晶
「青山さん!」「青山!」「千晶!」と女生徒たちが騒ぐ。
生徒や教師の声から逃げる千晶。
事態をつかめていない昭吉や天根たち。
渡り廊下を逃げ惑う千晶。
玄関の大きな鏡に自分の姿を映し見て驚く。
ただただ驚き、上履きのまま校庭に走りでる千晶。


千晶  「(周囲を見廻し)どこ、ここ? あたしは誰?」

講堂から出てきた老人を認める千晶。

千晶  「あっ、おじい様。おじいさま〜!」

昭吉に駆け寄る千晶。
昭吉の前に崩れおちる千晶。
その目に涙が溢れる。

昭吉  「(腰をかがめて)優里か?」
千晶  「あたし、どうしちゃったの?」
昭吉  「本当に優里なのか?」
千晶  「(当惑しながら)優里だよ、おじい様」

天根のほうを向いて答えを求めるが、天根は無言。

千晶  「ねぇ、私ヘンなの。どうやってここに来たのか覚えていないの。ここはどこなの、おじい様?」
昭吉  「ここは、わしの故郷の笠戸だ。去年の夏休みに一緒に来たろう」
千晶  「ううん、おじい様と笠戸に来たのはおととし。去年の夏休みは志摩の別荘だよ、おじい様」
昭吉  「そうだった、そうだった。やっぱり優里はよくものを覚えているな」

千晶の頭を撫で、そっと抱きしめる昭吉。
天根に頷いてみせる昭吉。
教室の窓や校庭の隅から、口々に千晶の不可解な行動の噂をする生徒たち。

教師  「青山さん!」

昭吉と話す千晶に呼びかけ、駆け寄ろうとする女教師を“来るな”と手のひらで制する昭吉。
昭吉の動きを見て女教師に自制を促す校長。


来客駐車場
車の前に小さな椅子を並べて座る優里と昭吉。

昭吉  「優里、お前に大事な話がある。ちょっと聴いてくれるか」
千晶  「いいよ、おじい様」
昭吉  「実は、一ヶ月前、お前たちとオペラを観た夜だった。悲しい事件が起きて・・・」

車椅子の優里を病人搬送車に運ぶ天根と政岡。

佐伯  「(天根に)博士、先ほど大学から連絡がありました。二台目のハイパーメグの導入が、評議会で決定されたそうです。明日にも、業者が打ち合わせに来ると・・・」

吉報を聞いても冴えない表情の天根。

政岡  「よかったですね、先生(天根を元気づけようとするが失敗に終わる)」

搬送車の後部ドアが閉じられ、天根と政岡、佐伯が中学校を後にする
ハンカチで涙を拭い笑顔を取り戻そうとする千晶。

昭吉  「いいのか、優里。まったく違う顔と体になったのだよ」
千晶  「わからない。でも、おじい様がそうお望みになられたのだから、優里は受け入れます。けど・・・」
昭吉  「けど、なんだ?」
千晶  「おじい様はあたしのこと、好きでいてくれるのかしら」
昭吉  「当たり前じゃないか。どんな顔でも優里は優里だ」
千晶  「ほんと!(昭吉にしがみつく千晶)」
昭吉  「優里、それで、ちょっとばかりしてもらいたいことがあるのだが・・・」
千晶  「何?」



青山宅
大きな倉庫ほどの車庫と小さな家。
クレーンのアームの先が車庫から突き出ている。
アームの腹に書かれた屋号青山建機はほとんど消えかけている。
和田がテレビ電話の画像が映るモバイルPCモニターを千晶の両親に見せている。
正面を向いた千晶が映る。
カメラに向かって喋り始める千晶。

千晶  「急な話でごめんなさい。私、青山千晶は、佐原昭吉の養女になります。今まで育ててもらって本当にありがとうございました」
千晶の父「なんでや急に。どういうことなんや」
千晶の母「何なんですか、あんたたちは。千晶はな、私らの大事な・・・」
和田  「ご本人がそう望んでおられます。それから、大切なお子様をご養子にいただくにあたり、佐原からこれをご両親にお渡しするよう言付かっております。(ふたつあるジュラルミンケースのひとつを開ける)全部で二億円あります。このあたりの一般的勤労者の生涯所得を上回る 額です」
千晶の父「二億‥‥。お金で娘を買う、いうのか」
千晶の母「そうじゃ、お金の問題じゃねえ」
和田  「不足があるようならおっしゃってください。一両日にご返事を伺いにまいります。手付金として、百万円置いてまいります。では」

封筒を置き、ジュラルミンケースを持ち帰る和田。
千晶より年端のいかない三人の子供たちが、家の奥からみすぼらしい格好で両親と和田の様子を窺っている 。