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フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~

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#6. 青山千晶




摩耶大学 
喫煙スペース

大村  「この間、平松学長と話しておられましたね」
天根  「ええ。それが・・?」
大村  「天根与四郎博士が女性とふたりきりで楽しそうに歩いていたと、キャンパスで話題になりましたよ」
天根  「よしてください。学長に呼び止められただけです」
大村  「冗談ですよ。マジに受け取らないでください。でも、学長を味方につけたんじゃないですか」
天根  「学長は、興味本位で、いろいろ質問してきただけですよ」
大村  「興味をそそられる研究内容なんですよ、きっと。そこで、興味本位に天根博士にお聞きしたいのですが、トランシング状態が、一生涯続くことはありますか?」
天根  「理論的にはあり得ます」
大村  「では、トランシングした状態のエスが、別の人間にトランシングすることは?」
天根  「さあ、それは何とも・・・」
大村  「私、考えたんですよ。もし、トランシング状態の人間に死期が迫っていて、そのときにエスがまた違う人間にトランシングしたら、それを繰り返したら、千年も二千年も生き続けられるんじゃないかってね」
天根  「大村先生、それは飛躍のし過ぎですよ。それに私の研究目的はエスの発見であって、トランシング実験はその発見の手段にすぎない」
大村  「そうでした。そうですよね。エスの発見こそが大事だ。アリストテレス以来の、心身二元論を打ち破る大発見になるかもしれない。ジューベル曰く、肉体とは、われわれの存在が野営している仮の小屋である・・・」

駆け寄ってくる佐伯と政岡を見て話を中断する大村と天根。

佐伯  「天根教授、お客様がお見えです」
天根  「お客? 誰だね?」
佐伯  「サハラ宝飾店の会長とおっしゃる方です」



高級レストランの個室
神戸の湾岸風景が眼下に広がる。
ディナーを前に会談する天根と昭吉。

天根  「お話はよくわかりました。しかし私の研究はまだ道半ばです。テストを何度か繰り返してからでないと、本格実験にゴーサインをだすことはきません」
昭吉  「そこをなんとか。医者からは見放された。先端医療の粋を尽くしても回復は無理だと言われた。頼るのは、あなたしかいない」
天根  「そう言われましても・・・」
昭吉  「わしは老い先が短い。娘にも先立たれた。孫の行く末が心配なのだ。優里の元気な姿をもう一度見られるのなら、何でもする覚悟だ」
天根  「お気持ちはお察ししますが・・・」
昭吉  「もしわしの望みを聞いてくれたら、7億円融通しよう」
天根  「7億円・・・」
昭吉  「7億じゃ足りんか」
天根  「どうして・・・その金額を?」
昭吉  「調べさせてもらいました。何とかという機械を、買って差しあげもしよう。どうだ?」
天根  「・・・」
昭吉  「ここに1千万円の小切手がある。これを受け取ってくだされ」
天根  「困りましたなぁ」
昭吉  「年寄りのわがままを聞いてくださらぬか。後生だ」

困惑する天根 。



警察病院
ICU集中治療室
包帯を全身に巻かれた友也がベッドに横たわっている。
生命監視装置に心拍数や心電図の波形が静かに波打っている。
遠藤は友也の傍らに座り、友也の包帯が巻かれた手に軽く触れている。

遠藤  「(眠っている友也に語りかける)トモ、小さい頃ふたりでよく遊んだよな。よく喧嘩もした。僕はわかっていた。トモは僕より頭がよかった。僕ができなかった小四の問題を、まだ幼稚園児だったトモはいとも簡単に解いた。僕は怖かったんだ。いつか、トモに勉強で抜かれるんじゃないかって。いつか親の愛情が、僕からお前に移るんじゃないかって。五歳も離れているのに、おかしな話だろう。子供だったんだ。だからお前と喧嘩したときも、僕は本気でお前を打ちのめした。気づかない間に力いっぱい殴っていた。でもお前は怒らなかった。いつも笑っていたな。そんなお前が好きになれなくて、両親の離婚が避けられなくなったとき、僕はお前と離れ離れになることを望んだ。父さんでも母さんでもなく、僕が望んだんだ。馬鹿だったよ。
お前が母さんとふたりで暮らすようになって、どれほど苦労していたか、子供ながらに聞いていた。母さん、慣れない仕事がもとで身体を悪くしたんだろうな。高校にも行かず働き始めたお前は、周囲に馴染めずいざこざを起こしては何度も警察の厄介になった。悪い知らせばかり僕の耳に届いてたよ。でもそのときちょうど僕は大学生で、親父のあとを継いで司法試験に受かることで頭がいっぱいだったから、お前のことは見て見ぬふりをしてしまった。お前が十九歳のとき、裁判所の廊下で連行されるお前と話したのが最後だった。ショッピングセンターに強盗に入るなんて、昔のお前からは想像できなかった。すっかり変わってしまったお前を見て驚いた。お前は子供の頃から、人を疑うことを知らない本当にいい奴だったから。頭がよくて優しくて・・・。なのに、どうしてこんなことに・・・。
     お前が変わってしまったのは‥‥僕のせいだ。今さら言っても仕方ないことだけど、後悔している。母さんにもお前にもつらい思いをさせたこと。この世でたったひとりの弟に、何もしてやれないこと・・・」

心拍数、心電図の数値が少しあがる。
友也の左目がゆっくり開く。
眼球が動き遠藤を見る。

遠藤  「友也! トモ!」

友也の記憶
崖に押しだされる車が空中に飛び出し転落する。
心電図の波形が大きく振れる。
友也の目がぎゅっと閉じられ、体が小刻みに震えだす。

遠藤  「トモ、どうした? トモ?」

友也の記憶
子供部屋で屈んだ友也の背中を物差しで何度も叩く幼い頃の兄遠藤。
遠藤の耳に幼い友也の声が聞こえる。
“やめてよ、お兄ちゃん。痛いよ”
両足を車体に挟まれ、身体中炎に包まれ、もがく友也。
必死に目の前に流れる細い渓流に手を伸ばす友也。

生命監視装置の数値がどんどん上がっていく。
友也の目が上下左右に激しく動き、白目になる。

遠藤  「先生! 先生!」

叫びながら狼狽する遠藤 。



中国地方笠戸町付近
山間の自動車専用道路を疾走する病人搬送車。
カーナビを見ながら運転する佐伯。
ベッドに横になっている優里と、付き添っている政岡が、荷室の小窓から見える。
追走する高級乗用車。
高級乗用車を運転するのは和田。
後部座席に佐原昭吉と天根。
山間部に工場がふたつ見えてくる。
サハラ宝飾笠戸工場の文字。



町立笠戸中学校
田園風景の中にポツンと建つ校舎。
校庭に二十人ほどの生徒が体育の授業を受けている。
車から降りた天根に昭吉が言う。

昭吉  「ここの校長とは旧い知り合いで、病気の孫の転校先を探しているとだけ言ってある」

授業を受けている二十人ばかりの生徒がいる教室。
誰もいない講堂に『祝!全国大会出場 笠戸中学校合唱部』の横幕。
授業中の廊下をゆっくり歩く昭吉と天根と校長。 
ふたりのあとから車椅子に乗せられた優里。
車椅子を押すのは政岡。 
車椅子に簡易計測機器、点滴、酸素吸入器。
優里の頭にはいくつも電極がついたヘッドギアが被せられている。


校長室