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フリーソウルズ Gゼロ ~さまよう絆~

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#5.仲間割れ




摩耶大学
天根研究室。

平松  「天根先生、ちょっとよろしいかしら」

外出を促す平松。
乗り気ではないが渋々腰をあげる天根。

構内キャンパス
昼さがりの中庭周辺を並んで歩く平松と天根。

平松  「実にユニークかつ先進的な研究ですわね」
天根  「そうですか、ありがとうございます」
平松  「よくお考えになられたと感心いたしますわ」
天根  「考えるのが学者の仕事ですから」
平松  「ここまで研究されるまでには、さぞご苦労なさったのでしょうね」
天根  「苦労だと思ったことはありません」
平松  「素晴らしい」

平松の美辞麗句を苦々しく聞く天根。

平松  「ところで、ひとつふたつお尋ねしてもいいでしょうか」
天根  「何でしょう」
平松  「エスが転移したとき、エスがなくなったのに肉体が死なずにいるのは・・・ええと・・・」
天根  「我々の肉体は、そのものが生命力を持っています。血液の循環や呼吸器を司っているのが、延髄であることはご存じかと思います。もちろん延髄は脳と繋がっていますが、いちいち脳から指令を出しているわけじゃない。エスがいようがいまいが、延髄は仕事をします」
平松  「なるほど、延髄機能が働いて、かろうじて生かされている」
天根  「少なくとも肉体は死んでない」
平松  「植物状態と同じなのかしら?」
天根  「結果的には同じといえます。脳に損傷があるかないかだけの違いです。まったく脳に損傷がないのに植物状態に陥っている患者を、一昨年メキシコシティで見ました」
平松  「エスが出ていっても、死なないって話は、何となく理解できました。ただですね、転移されたほうは、ひとりの人間の中にエスがふたつ存在して、おかしなことになるんじゃないかしら?」
天根  「おっしゃる通りです」

中庭の池の畔まで歩を進めて、小石を拾う天根。

天根  「この池を脳全体だと仮定してください」

天根が小石を池の中心に投げこむ。
波紋が同心円上に広がる。

天根  「脳は常に活動しています。この波紋のようなものです」

天根が別の少し大きい小石を拾い、池の中央に投げる。
新たな波紋が広がる。

天根  「転移されたほうの脳が先に投げた小石の波紋。そして転移したエスは今投げた小石の波紋です。従来の波紋を打ち消して、自分の波紋を描く」
平松  「まぁ。まるでパソコンの上書きのよう、ですわね」
天根  「簡単に言えば、そういうことです」
平松  「では従来のエスはどうなってしまうのでしょう? 消えてなくなるの?」
天根  「いいえ、なくなるわけではありません。トランシングされたほうはエスを奪われるわけですから、休眠状態である、と言えます」
平松  「私であって私でなくなる、と・・・」
天根  「エスの人格にとって変わります」
平松  「まあ怖い。うちの学生たちにも起こりうることなのかしら?」
天根  「成人には起こり得ます。しかし問題はそれより下の世代の場合です」
平松  「下というと、小中学生?」
天根  「ええ、高校生も含めて、脳細胞が発達過程にある子どもたちですね。当然プルキンエ細胞も未発達なので電位パターンが一定しない。パソコンで例えると、隙だらけでバグだらけのOSみたいなものです。おそらくエスの活動もそれほど活発ではないと想像される。しかし問題なのは・・・」
平松  「問題なのは?」
天根  「無理やり上書きしようとした場合です。トランシングが定着しない場合、以前のエスとのせめぎ合いが起こる。現象として、境界性人格障害に似た症状が出てしまう可能性が考えられます」
平松  「それは問題ですね」
天根  「ですから、実験の対象者はおおむね四十歳以上と決めています・・・」

平松に説明しながらも、表情の冴えない天根。



セントへレナ記念病院
佐原優里の病室。
病室は、フラワーバスケットやぬいぐるみなど、多くの見舞品で溢れている。
チューブにつながれて眠るように横になっている優里。
その優里の顔を、ベッドの傍で哀しげに見つめる昭吉。
秘書の和田が戸口付近で、直立不動で控えている。



関西フラワー園芸社(夕方)
肥料の袋を軽トラックから降ろしている友也。
友也のスマートフォンがジージーと鳴る。
暗号アプリを立ち上げる友也。

《Fromモンド ”眠れる姫はそのままにしておこう。マルPは行き詰っている。今のうちに獲物をシェアしておく。あさって午前2時に展望台”》
《Fromハンガー “了解”》

スマートフォンをポケットにしまう友也。
友也を車の中から監視する湊と鈴木。



セントヘレナ記念病院
和田が、花瓶の水を替えて戻ってくると、昭吉の姿が見えない。
廊下の曲がり角辺りから昭吉の声が聞こえる。
すがりつくように院長の山本に訴える昭吉。

昭吉  「では、もうこのまま、一生涯目が覚めないということですか」
山本  「可能な限りの手は尽くしました。優里さんは今も生きようと頑張っている。それをわかってあげてください」
昭吉  「だめだ。優里に目を覚ましてもらわないと。わしには先がない。わしの余命を院長も知ってるだろう。わしが死んだら、誰があの子のめんどうを見るのだ? わしが作りあげた佐原宝飾はどうなる?」
山本  「そう言われましても、佐原様・・・」
昭吉  「何とかしてくれ。金はいくらでも出す」

困惑する山本。
昭吉の目に別の病室で作業している政岡エミリーの姿が留まる。
政岡は、老人にヘッドギアを被せて脳波の測定をしている。

昭吉  「あの子は何をしている?」
山本  「あぁ、あれですか。認知症の研究です。摩耶大学とうちとの共同研究で、脳波測定をしてもらっています」
昭吉  「摩耶大学‥‥。少しあの娘さんと話しさせてもらってよろしいか」



友也のアパート(夜)
物陰に停めた車から監視する湊と鈴木。

鈴木  「今夜も空振りですかねぇ」

赤いキャップに赤のスタジャンを着た若い男がピザチェーンのロゴマークの入ったバイクを停める。
バイクを降りピザの箱を持ってアパートに入る男。
二階の一室のドアが開き、閉まる。

鈴木  「小森の部屋です。ピザの宅配を頼んだようですね」
湊   「・・・」

ピザ配達員がバイクで帰っていくのを見届ける湊。

湊   「ちょっと電話」

車を降りて携帯を開く湊。



兵庫県警本部
副次長室で書類の整理をしている遠藤の携帯が鳴る。

遠藤  「もしもし」
湊   「遠藤さん、湊です。友也くんの居所がわかりました」
遠藤  「わかった? でどこにいるのですか、友也は?」
湊   「訳あって、いまは言えません。もう少し待ってください」
遠藤  「言えないって、どういう意味なんですか?」
湊   「あとで、もう一度お電話します」



友也のアパート
コンビニ袋を携えて車に戻る湊。
赤いキャップにピザチェーン店のスタジャンを着た若い男がアパートから出ていく。

湊   「(車に乗りこみ)何か動きはあったか」
鈴木  「ピザの配達の多い夜ですね。腹減ってきました」
湊   「鈴木、さっきのピザ屋、入っていくのは見たか?」
鈴木  「あっ!」