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端数報告2

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インテリジェントな設計の話


 
例によって前回のおさらいから始めよう。山崎貴監督の映画『アルキメデスの大戦』は、史実に着想を得たフィクションであるという。映画はクライマックスで、主役の天才数学者の活躍で〈大和〉の建造計画が取り止めになる顛末を描く。おれはあれを見てあきれた。
 
アフェリエイト:アルキメデスの大戦
 
たぶんほんとに史実としてあれに近いことがあり、そこから話を作っているのじゃないかと思えるフシがあるのだが、しかしけれども実際の話は、
 
「会議はまだ終わっていません。計画案には重大な欠陥があります。高波への想定が甘い!」
 
「はん? 『高波』って、君が言うのは30メートルの波なんだろう? そんな何百回に一回の波になんで備える必要があるんだ?」
 
「何百回何千回に一回に備えるのが設計者の責務です」
 
「豪華客船を造るならその考えも正しいだろうが、これは軍艦の話なんだ。君が言う通りにしたら、魚雷に弱い船になるぞ。そんな軍艦の設計があるか」
 
「魚雷がなんだと言うんですか。それより高波、高波です! 〈大和〉は魚雷一発で沈む船でも構わないから高波に耐えるようにするべきです!」
 
「何言ってんだお前わあっ! だから軍艦はホテルじゃないんだ! 〈大和〉〈武蔵〉〈信濃〉と船を三隻造るとするよな。そのうちもしも高波で〈大和〉で沈んじまったとしても、残る二隻も同じ理由で沈むことはないと言えるなら構わないと、軍艦を造る場合はするべきなんだ。『マイノリティ・リポート』読めよ。バカ映画じゃなくてちゃんと原作小説の方!」
 
アフェリエイト:トータル・リコール
 
「いいえ、日本の海を護る旗艦は、高波で沈む船であってはいけない!」
 
「なんでお前はそういうことを言うわけなの。あのね、旗艦はそもそもが、一隻だけで海に出ないよ。艦隊の中で〈大和〉だけ30メートルの波に耐えてもしょうがないだろう。台風が来たら20隻の船みんなで、横に逃げりゃいいんだよ。そのときには敵も来れやしないんだから。つまりこの設計は『高波への想定が甘い』んじゃなくて、そんなもんは最初からする必要がまったくないからしていないだけなんだ。欠陥じゃない。〈大和〉はある程度の時化(しけ)に耐えられればそれでいい――お前ホントに頭いいのか? これくらいちょっと考えればわかりそうなもんだろうが」
 
これを書いてるおれの頭で、別に誰に教わらなくてもすぐ気づくことなんだからね。軍艦はまず性能が第一だ。戦闘時に船そのものと乗員を護るように造るのが設計者の責務であって、それを損なうものはいけない――これがインテリジェンス・デザインというもののはずだが、しかし天才・歩目死男(あるきめですお)少尉は言う。
 
「いいえ、それではいけません。他の性能すべてを犠牲にしたとしても30メートルの高波です!」
 
「だからどうしてそういうことを言うんだあっ!」
 
「よろしいですか」と目をキラリとさせて天才少尉。「仮に〈大和〉と〈武蔵〉以外、日本の船が全部殺られて一万の敵がやって来たとしましょう」
 
「え? それって、その2隻は他が戦ってるあいだ温存しとくってことなのか? そんなもんは旗艦じゃない」
 
「いいえ、旗艦とはそうあるべきです! 〈大和〉〈武蔵〉のプリキュア姉妹に対して一万の敵艦隊。そうなったらどうしますか!」
 
「そんな話をされてもなあ。言いたかないけど、いくらなんでもおしまいじゃねえのか」
 
「そこがアナタの浅はかさ。日本は神国なのですよ。そのときは天皇陛下が靖国神社でお祈りしてくださるでしょう。キンキラキンの衣に烏帽子で、玉串振られて、
『天よ神風吹かせ給え〜』
とやってくださる。さすればそれまで晴れてた空に突然風速50メートルの嵐吹き荒れ、30メートルの波が立つは必定!」
 
「ええと……」
 
「一万の敵はすべてがひとたまりもなく海に没し、後には〈大和〉と〈武蔵〉のみ、何事もなかったように浮かんでいる。かくして御国(みくに)は救われました。それというのも何百回何千回に一回の波に備えたこのワタシの設計のおかげ!」
 
「お前……」
 
「おお、それだよ!」と、橋爪功にそっくりな海軍少将・嶋田(ヤな名前だな。〈島田〉じゃないだけいいけど)。「さすが天才! それで一から設計をやり直してくれたまえ!」
 
「なーに、数学者として当然の責務を述べただけです」
 
「待ってください! こいつの言う通りにしたら魚雷に弱くなるんですよ。いいんですか、閣下。いいんですか、皆さん!」
 
しかしおっさん一同、「構わん! 魚雷なんかより、どんな高波にも耐える船だ!」
 
そして山本56、「これはワタシが間違っていた。空母も必要だがしかし、何より大切なのは戦艦! 完成したら大事に大事に大事に扱い、最後の最後の最後の時まで海戦の海に出すことはなりませんな!」
 
と……〈大和〉と〈武蔵〉がたどった歴史を考えるに、山崎貴が撮った話の本当の史実はこうであったのではないかとおれは思ってしまいましたとさ。という、そんな話を前回しました。
 
主人公の歩目死男は、〈大和〉の最初の設計案に対し、
 
「(造船中将の)案は、中央は分厚い装甲で覆ってはいますが、その重量配分の皺寄せで(略)最悪の場合、沈没します!」
 
と言う。映画はここで〈運命〉と言うか〈悲愴〉と言うか、〈トッカータとフーガ〉と言うか、オー人事オー人事な曲が響いて、
 
「そんなことが起こったら、テングー以来の大惨事となる!!!!!!!!!!」
 
と叫んでしまうおっさんがいるため、映画館で見る人は、
 
「そうなのか。でもテングーってなんだろう」
 
と思ってしまうものかもしれない。だがおれのようにCS放送をハードディスクに録画して、セリフを文字に起こしてみればその蒟蒻(ごびゅう)は明らかである。高波に耐える船にしようとすれば装甲を薄くしなければならないのだ。
 
もし装甲を厚いまま、他でなんとかしようとすれば結局、より大きな皺寄せが別のところにかかってしまう。それが理の当然であってどうにもならない。そもそも20の船から成る艦隊の中で、旗艦一隻だけが風速50メートルの波に耐える造りをせねばならぬという考え方が変なのだから、この映画で主人公が急にいきなり早口でまくしたてる話はまったくのこんにゃく問答と言うべきだろう。
 
人が何か主張してたら明文化して検証してみる。時にはそれが必要という話の証明だろうな。政治家やマスコミ人種の言うことなんか特にそうだという話で、コロナウイルスについてですが、また同じく〈波〉の話。
 
人は第2波が来ると言う。第2波とはどんな波か。
 
これを読んでるあなた、説明できますか。おれにはできない。この半年、第2波が来る第2波が来ると毎日のように、いや毎日、15分置きに聞いてきたけど、ただの一度たりともそれがどんなものか聞いていない。
 
ただ、それが来た時に大勢の人が死ぬという漠然としたイメージがあるだけだ。違いますか。おれがおかしい? おれはコロナの第2波なんて、麻原彰晃が言っていたハルマゲドンと同じと思う。それが来たとき大勢が死ぬ。そうは言うけどそれについて具体的な説明がない。
 
作品名:端数報告2 作家名:島田信之