端数報告２
なんだなんだ？ 見ながらおれはアッケにとられてしまったのだが、映画館であれを見た人どう思ったの。主人公は数学の天才だという話だが、船や軍艦の専門家でもなんでもない。それがどうして『ハートブルー』で『ビッグ・ウェンズデー』な大波の話なんか持ち出すのか。
話はこの後、
「しかし！ 30メートルを超える波に備えて設計した場合、性能デゴワになりません。そんな何百回に一回起こるかどうかの波まで想定して軍艦は造れない！（と言ってるように聞こえるが、こっちはたぶん『デグアイ』と言ってて〈出具合〉と書き、〈不具合〉の対語なのだろうと思う。聞いたことのない言葉だが）」
と反論する者がいる。どう見てもこれが正論だ。豪華客船ならばともかく、軍艦がそんな波に備える必要がどこにあるのか。速力や防御力を犠牲にしてまでやる話とは思えないし、結局はその皺寄せで、別の理由で沈没しやすくなる欠陥を抱えた船を造ってしまうだけじゃないのか。
それよりは〈大和〉〈武蔵〉〈信濃〉と三隻造っておいて、仮に一隻が沈んでも残る二隻で国を護れる、とするのが合理的判断じゃないのか。何百回に一回起こるかどうかの波まで想定するなんてのは、軍艦の設計としてはイカレてる。
としかおれには思えない。しかし主人公はそれに応えて、
「何百回何千回に一回に備えるのが設計者の責務」
と言うのであった。いやいやいやいやそう言うのなら、どんな小舟もその設計をしてない限り一隻たりとも海に浮かべてならないことになるだろうし、日本の周りを30メートルの堤防ですっぽり囲まなければいけないことになってしまわんかね。ムチャクチャだよ。それに、
「台風なんか避けりゃいいことじゃーねえの？ その時には敵さんも来れるわけがないんだからサ」
と言う者があの映画には、なんでひとりも出てこないのだろう。
風速50メートルはもちろん、40メートルの海だって海戦なんかできるわけない。だから〈大和〉はそんな大風に耐えるよう造る必要はまったくない。どう見てもこれが正しい結論で、あの映画の主人公はイカレてる。のだけど、うーん、なんだろう。《この映画は史実に着想を得たフィクションです》ということにあの映画はなっている。
てことは、ひょっとして本当に、30メートルの高波にも耐える設計をせねばならない、ということになって〈大和〉が一度、計画を見直された史実があったりするのだろうか。かもしれないが、なんでどうしてそんなデタラメが通ったと言うのか。
これがおれの頭でもまったくわからなかったんだけど、しかしピンと閃きました。てわけでようやく本ログの題の、
『そうだったのか！戦艦大和』
という話でございます。
それが事実であるのなら、海軍はたぶん、〈大和〉は「神風に耐える船でなければならない」という考えだったんじゃねえかしら。日本の船は全部殺られて残るは〈大和〉と〈武蔵〉のみ。そこに千の敵が来る。そうなったらどうしましょう。
なんつーバカな心配していた。でも、そうだ。その時にはきっと神風が吹くであろう。かつての元寇（げんこう）の時のように。天皇陛下が靖国神社で玉串をお振りあそばして、
「天よ神風吹かせ給え〜」
と祈ればそれまで晴れてた空に風速50メートルの風がたちまち吹き荒れて、敵は全部がブクブクと沈んでいくに違いない。
でもその後に〈大和〉と〈武蔵〉の二隻だけ浮かんでいたらカッコいいぞ！ そうだ、計画の見直しだ！ 平山造船中将、〈大和〉を30メートルの高波に耐えられるよう造るのだ！
「はあ」と平山。「でも、そんなことしたら、その皺寄せで魚雷に弱い船になってしまいますが……」
しかし山本56、「構わん！ そんなもんよりも、どんな高波にも耐える船だ！」
というのが本当の史実だったりしないかしらとおれは思ったが思いつきです。事実として人に話すと笑われるかもしれませんよ。
――と、そんなところですが、0.001パーセントの確率を理由に計画の見直しだ取り止めだとイカレたやつらが叫ぶ話で何かおもしろいのがないかと思われた方がございましたら、例によっておれが書いた次の作がそれであります。最近ちょっと値上げしました。また上げないうちにどうぞ。
クラップ・ゲーム・フェノミナン
https://books.rakuten.co.jp/rk/c4c936f145e636b5b3a9d0fee0752ce7/?l-id=item-c-seriesitem
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