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端数報告2

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堀はだいぶ埋めましたので


 
さてと前回、遂に平沢が帝銀事件の犯人とされた最大の根拠、
《事件直後に手にしていた出所不明の大金》
の話をしました。この
 
画像:疑惑α表紙
 
本には、前回お見せしましたように、
 
   *
 
 事件後、平沢の手許に少なくとも一三万四〇〇〇円という当時としては大金が入っていた。その出所を平沢が明確にしなかった事が、平沢の最大の弱点だった。逮捕後、この事で平沢はさんざん追及されたし、世間も問題にしていた。
 
   *
 
と書いてある。おれが犯人は平沢という確信を持ったのも同じ話を『刑事一代』で読んだからだが、どうして今までこのブログでこれを持ち出さなかったと言えばものには順序があるからだ。
 
本丸を攻める前に外堀を埋める。それが兵法の初歩でしょう。もうそろそろお堀をだいぶ埋めた頃だと思うので、満を持しましてこれについて語ろうというわけなのです。
 
セーチョーは同じことを『小説』でこう書いている。
 
画像:小説帝銀事件238-239ページ
 
アフェリエイト:小説帝銀事件
 
これが239ページか。でもって9ページに渡ってウンヌンカンヌンしたうえで、
 
画像:小説帝銀事件246-247ページ
 
こう締めくくっている。間の8ページで弁護団がどんな釈明をしたかと言えば、「春画うんぬん」とあるのでお察しがつくと思うが、つまり女のハダカの絵を描いて18万稼いだ――それも都合のいいことに帝銀事件当日に――のだが、平沢はそれを恥じているために決して「描いた」と言わないのではないかということである。
 
公判では弁護士達が、
 
「平沢さん! アナタはハダカを描いたんですよね! そうですよね!! そうですよね!!! 描いたと言ってください!!!! 描いたと言ってください!!!!! 本当のことを! 本当のことを言ってください!! アナタはハダカを描いたんだ!!! ハダカを描いた!!!! ハダカを描いた!!!!! 描いたと言ったら描いたんだ! 恥ずかしがらずに本当のことを言ってください!! 描いたんですよね!!! 描いたんですよね!!!! それが真実なんですよね!!!!! どうして、どうして本当のことを、『ハダカを描いた』と本当のことをアナタは言ってくれないんだあああぁーーーーーーっっっ!!!!!!!!!!!!」
 
とみんなで泣きながら大絶叫したらしいのだが、平沢はそれに応えて『描いた』と言うことはなかったという。言えばひょっとして、無罪になったかもしれないのに。
 
 
なぜか。
 
 
『小説』の主人公・仁科俊太郎はこれを、
 
   *
 
 平沢画伯は、肉体的な死刑よりも、芸術的生命の処刑を重しとした。その比重の測り方は、普通人では考えらぬことだが、多分、平沢は、「恥よりも死を択ぶ」という殉教精神に立っているのかもしれない。
 
   *
 
などと想像する。つまりセーチョーが想像する。スキャンしたもので見せた通り、
《平沢が春画を描いたか、描かなかったかは、立証することは出来ない。描いたかも知れぬというのは、飽くまでも想像である。》
などと書いてはいるが、「オレの推理に間違いなどあるわけない」と完全に決めつけているのがおわかりになるだろう。
 
が、春画ねえ……1948年に裸婦画と言えば、おれの手元に、
 
画像:ロベール・ドアノー写真集その他
 
こんな本がある。表紙の写真で有名なロベール・ドアノーの作品集だ。ページをめくると1948年の作として、
 
画像:ドアノー写真集78-79ページ
 
こんなのがある。丸いシールを貼ったのはおれ。一緒に置いた雑誌に載ってた『世界写真全集「ドアノー」』って記事にこの連作の説明があり、
 
   *
 
 ドアノーの写真は、単体としてもストーリーとして十分に成立していた。そのなかで最も傑出しているのが《斜めの視線》(一九四九)と題された一連の写真である。(略)猥褻にたいして神経が鈍化していない二十世紀中葉人にとって、この絵の衝撃度は高かった。通行人はこのエロティックな絵に「斜めの視線」を送り、それをローライのレンズがとらえる。
 人々の反応はさまざまだ。「けしからぬ」といいたげな視線を送る眼鏡の大学教授風。「うーむ、眼福、眼福」とニンマリする銀行家風。「ふしだらな」と嫌悪の表情をしてみせるマダムA。「うひょー、いい女」とよろこぶ非番の兵士。「本官はあくまでも前方の絵を鑑賞しておるのである」と心のなかでつぶやきつつも横目をつかう巡査。「あれまっ……」のマダムB。「!」のトスカニーニ風。ショウウィンドウの内側から見た人間ドラマである。音の出ないはずの写真が言葉を発する。
 
   *
 
と書いてあった。〈ローライ〉ってのは一緒に置いたカメラの名前だ。ドアノーはフランスはパリの写真家。この文では1949年の作となっているけれど、それはいいとして、この当時はパリでさえ裸婦画と言えばこんなもんだった。
 
アフェリエイト:ロベール・ドアノー
 
かもしれないけど、だからってねえ。おれは平沢が「春画を描いて売ったのでないか」と聞かれて「違う」と応えたのは、《春画なら18万で売れる》というのは弁護団やセーチョーの勝手な思い込みであって、せいぜい180円とか(それでも今の一万円だが)にしかならず、千枚描かねば豪邸の建築費やテンペラ画協会から横領したカネの補填にならないのをプロの絵描きとしてよく知っていた。だから「違う」としか言いようがなかった、なんてところが真相じゃないかと思うがどうでしょうね。ま、飽くまでも想像ですが。
 
で、遠藤はこの件について、
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏86-87ページ
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏表紙
 
こう書いている。『しかし、私たちの調べによると』うんぬんかんぬんと並べているが一字残らず嘘なのは読んでおわかりになるでしょうね。オーケンは全部真に受けたんだろうが。
 
が、セーチョーの『小説』によれば事実はこうだ。
 
画像:小説帝銀事件242-243ページ
 
平沢はその大金を最初は〈花田卯造〉という男に絵を売った代金だと言ったという。しかし『それでもボクは』の「それは友達にもらって」と同じですぐ嘘だと調べがついた。『刑事一代』によれば、
 
画像:刑事一代148-149ページ
 
画像:刑事一代148-149表紙
 
こうだ。おれが平沢が犯人と確信したのは、特にこのくだりを読んだ瞬間だと言っていい。さらにセーチョーの『小説』に〈平井の清水虎之介〉なんて名前が出てくるが、『それでもボクは』の武田真治と同じで存在もしていないのがわかったという。
 
いや、あっちの武田真治さんはもちろん存在しますが。なんでも結婚されるとかでどうもおめでとうございます。とにかく、セーチョーでさえ認めないわけにいかないように、この《事件直後に手にしていた出所不明の大金》という問題は、《平沢にとって、最大の欠陥であり、彼が金の入手先を明白にしないことだけで、彼を「黒」と決めてもいいくらいなもの》なのだ。
 
で、さらに、前に見せた《捜査本部が推定した平沢の足取り》にもあったが今日スキャンして見せたものにも、
 
作品名:端数報告2 作家名:島田信之