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端数報告2

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謎が多くて後味がちょっとなんだか悪いお話


 
 公判では、(略)現場に残された犯人の指紋と平沢の指紋が一致しないこと、そして6人もの証人が平沢のアリバイを証明したことなど、平沢が無実である多数の証拠が明らかになった。だが、裁判所が出した判決は死刑。(略)
 
画像:警視庁重大事件100表紙
 
というわけでまたこの本だ。この嘘のつき方はうまい。《指紋が違う、アリバイがあった》などと書かれたら誰だって、
 
「じゃあ絶対に無実なんじゃん」
 
と思うだろう。簡潔で明快。おれでも騙されたかもしれん。見事だ、褒めてとらすぞ、なんて話を前回しました。
 
詳しくは前回と前々回を読んでほしいが、このうち指紋の件については、たとえば金井喜一の〈もうひとつの小説帝銀事件〉に、
 
画像:毒殺小説帝銀事件88-89ページ
 
画像:毒殺小説帝銀事件表紙
 
こう書かれる。と言ってもこいつはセーチョーの本をまんま写しているフシがあるが、とにかくふたつの指紋はどちらも決して犯人のものとは考えられていないというのが、本当に事件に詳しい者らの間の一般的な見解なのがあらためてわかるだろう。
 
が、〈救う会〉の間とかだと話は違う。ドーマコの本にはこう書かれる。これにあなたが「ウムウムその通りだ」と頷くかどうかはあなた次第だ。
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏84-85ページ
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏表紙
 
ね。おれの考えはもちろん「ほざいてろ」だけど、次にアリバイについてだが、これについてはもう前回に書いたように、どうしても詳しく知りたきゃセーチョーの『小説』を買って読めよと言う以外の言葉がない。セーチョーは何十ページにもわたって
 
「小川係長が後から思い出したことがその日にあった正しいことに絶対間違いあるはずがない。自分にはわかる。自分にはわかる。自分には、平沢がキッカリ2時10分に小川係長と会い、15分間話したことに狂いは決してないのだから、2時25分0秒にそこを出たのに疑いの余地はないとわかるのだ。だからアリバイは完璧だと確信する」
 
と書いているのだが、あまりに長くて引用もスキャンして見せることも到底できない。
 
しかしこのアリバイの話はおれに言わせれば、映画『ブレードランナー』で、セバスチャンがタイレル社長が寝てるところに押しかけて「クイーンをビショップの6へ」と言う。タイレル社長がこれに応えて、
 
「ナンセンス」
 
と言うくらいにナンセンスで、「時間考えろ時間を」と。人間は昨日のことさえ正確に何時に何をしたかなんて思い出せるもんじゃなかろう。それが7ヶ月も前のことを、急にいきなり、
 
「それは2時より前だったか後だったか」
 
と。もちろんそのとき聞かれてわからなかったことを、公判では
 
「後です」
 
と言う。そんなもん、その人にとって「後だ」ということにしたいからそう言ってんのに決まってんじゃねえか。一応もっとも重視される広瀬昌子の証言では平沢がそこを出たのは2時前なのに。
 
もちろん広瀬昌子の話もどこまでアテになるかわからん。だからと言ってなんでどうして小川係長の話が信頼できることになるのか。
 
……って、ええと、こう書いていていま気づいたが、係長の名前がどうも違うような気がするな。〈小川〉じゃなかった。けれども、あれれ……?
 
ダメだ、思い出せん。ちなみにこれ、本当に〈小川〉〈小川〉と書きながら急に「違う」と気がついたんだが、係長の名前がほんとに思い出せない。ってもちろん、この前に自分で書いたものを見るか、セーチョーの『小説』をめくればわかることではあるが、しかしええと……。
 
作ってないです。これは本当の話ですが、〈小川〉じゃないよな。なんつったっけ……。
 
と、かくもこのように、人間の記憶なんて曖昧なものです。小川係長の証言なんて、映画『ブレ――いやいや、ナンセンスとしかおれには言いようがない。そんなものはあのレイチェルの記憶同様、操作されたものであると言うべきだ。
 
アフェリエイト:ブレードランナー
 
というとこで、また話が変な方へ行かないうちに元に戻すが、
 
画像:警視庁重大事件100
 
ふたたびこの本だ。こいつの書く指紋とアリバイの話は嘘だ。もちろん承知の上で嘘を書いているのに違いない。
 
齋藤勝裕や溝呂木大祐と違ってうまいが、しかし、この本でこれをやるのは警察を裏切っている。この4ページにGHQ実験説は書いていないし、それを匂わす記述もないが、しかしやっぱりこの筆者はGHQの実験だとしたいのだろう。だから平沢が犯人じゃ困る。そういう考えなのだと思うが、だからと言ってしかしなんで。
 
と、そこで気になるのは〈監修・佐々淳行〉だが――というところで何度も話が終わってきてしまった。なんでこうなったんだろうな。とにかく、佐々淳行と言えば前に書いたように〈連合赤軍あさま山荘事件〉の現場指揮官として有名だ。おれも、
 
画像:佐々淳行の本
 
こんなのを持ってたりして、どちらもたのしく読ませていただいた記憶があるが、これ、今では絶版なんだね。お勧めなので古本屋で見つけたならばぜひどうぞ。
 
が、代わりに、
 
アフェリエイト:重要事件で振り返る戦後日本史
 
この本を図書館で見つけて借りてみました。帝銀事件について書いたページがあったので、スキャンして見せると、
 
画像:重要事件で振り返る戦後日本史60-61ページ
画像:重要事件で振り返る戦後日本史62-63ページ
 
こうだ。また4ページだけだが、明らかに平沢を無実と思っている書き方だ。元警察官僚の身でありながら。
 
それでいいのか。ええ?と言いたくなるのだが、やっぱりキャリア官僚までが、帝銀事件になるとみんなこの調子なのかもしれない。《GHQ実験説がある》というだけでGHQの実験なのだろうと思い、それ以上深く考えない。
 
のかもしれないが、それにしても……というところで、おれが紫の線で囲ったところをよく見てほしい。
 
   *
 
(略)読売新聞は独自に調査を始めていたが、捜査本部はGHQの指令として、記者に圧力をかけ取材をやめさせていたこともあり、(略)
 
   *
 
と。おおっと、ちょっと驚き。ドーミサの話がちゃんと事実通りに書かれているじゃん。
 
いや、やっぱりちょっとばかり、誤解を生みそうな書き方だけどさ。でも今までこういう文は見てこなかったね。
 
藤田二郎は読売新聞の遠藤美佐雄に〈七三一〉を追わせないよう圧力をかけ、その際に、権威筋の命令ということにして実際にGHQ公安部に手を回した。何をどう見てもそれが事実だ。
 
佐々淳行は珍しくそれをそのまま書いてるが、でもなあ、やっぱりオーケンが読んだら、
 
   *
 
大槻「マッカーサーが囲い込みたかったわけですね」
 
アフェリエイト:のほほん人間革命
 
とか言いそうな気がするな、この書き方だと。うーん、どう見るべきか……。
 
わからん。けれども、うまい。うまいぜこのおっさんは。嘘をつかずに平沢をシロと思わせ、巨大な闇の存在を感じさせるように書いている。
 
作品名:端数報告2 作家名:島田信之