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端数報告2

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 4件の銀行詐欺もコルサコフ病のせいと考えられるといいます。平沢の行おうとした詐欺は、他愛のないいたずらのようなものであったといいます。別件逮捕に利用されましたが、普通ならば事件として立件するほどのものではなかったといわれます。
 
アフェリエイト:毒の事件簿
 
だとか言ってくれる人にだけ「そうそう、そうですよね。それがわからない人間はちょっと頭がおかしいですよ」と簡単に言っておしまいにしてしまう。
 
 
   これを読んでるあなたはそういう人間ですか。
 
 
だったらおれは何も言わない。〈救う会〉にでもなんにでもお入りになるがよろしいでしょう。遠藤誠も周防正行も齋藤勝裕もみんなあなたのような者を騙して肥え太ってきた人間だ。俗物を騙すのは簡単だ。絵の大家で人格者で獄中でにごりのない絵を描き続けたと言えば平沢の無実を信じる。遠藤美佐雄が藤田二郎に電話で「権威筋の命令でね」と言われたと言えば即座に、
 
「マッカーサーが囲い込みたかったわけですね」
 
と言って「うおお、カッコいい! オレ今、超カッコいいこと言っちゃったぞ。『マッカーサーが囲い込みたかったわけですね』だって。うっひょー!!」
 
と心で叫ぶ。
 
オーケンのように。俗物だ。が、マトモな人間は違う。
 
1975年、『刑事一代 平塚八兵衛聞き書き』がサンケイ新聞に連載されていた頃は、まだ多くの人々が《出所不明の大金》や詐欺の話を憶えていて、冤罪説を唱える者にその点をどう見るのか尋ねてみれば、
 
「それはですね、実は春画を……」
 
なんて応えると知っていたに違いない。それに対して「バカか」と言うのがマトモな人間であり、まだその当時はそうだった。
 
事件当時に12歳の子供が39歳だから、まだそうだったはずである。が、その頃は若者が「Don't trust over 30」と叫ぶ時代でもあった。ゆえに極めてタチの悪い40代や50代に騙される時代であった。交番に爆弾を投げて警官の腕がちぎれたり失明したというのを聞けば、
 
「ザマーミロ、それが正義だ」
 
とうそぶく時代。これをヒーロー扱いする45歳の遠藤誠もまたヒーロー。
 
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というような時代のことは、これにもちょっと書いているのでよろしければ。そして80年代になり、免田事件や財田川事件が再審無罪となる時代を経て平沢が死に、平成へ。そして令和の今になった。
 
もう今では本当の詳しい話を知る者はない。インターネットの〈まとめサイト〉は嘘で埋め尽くされてるはずだ。おれは覗いたことないけどね。
 
だからわからないんだが、〈まとめサイト〉にアリバイと指紋の話は出てるんだろうか。確かめる気もないのだが、どうなんだろう。このふたつは、オーケンとドーマコの対談に出てこなかったし、齋藤勝裕や溝呂木大祐や礫川全次や新藤健一の本に出てこなかった。こいつらがするのは《居木井警部補は占いで》とか《真犯人は諏訪だと突き止めておきながら》というような、マトモな頭の人間が聞いたら、
 
 
「それって全部誰かの創作なんじゃないのか」
 
 
とまずは疑いの眼をしそうな話ばかりだ。
 
帝銀事件の〈平沢無実/GHQ実験説〉は全部がそんな話で出来ている。そしてどうやらこいつらは、それが全然わかってない。世の常識とズレた世界に住んでいるから、こういう話にリアリティを感じる一方、指紋とアリバイみたいな話には心の琴線が鳴らないのと違うのか。
 
齋藤勝裕は、
 
   *
 
 4件の銀行詐欺もコルサコフ病のせいと考えられるといいます。平沢の行おうとした詐欺は、他愛のないいたずらのようなものであったといいます。別件逮捕に利用されましたが、普通ならば事件として立件するほどのものではなかったといわれます。
 
アフェリエイト:毒の事件簿
 
こんな書き方が、読む人間が平沢貞通の無罪を信じるようになる書き方と思うのだろうからこんな文の書き方をする。けれどもおれは、ここで何度も書いてきたように昔から、
 
《事件の少し前に平沢氏は、詐欺と言えないような詐欺をほんの小さな間違いから犯してしまっていた。それはほとんど過失と言えるものであったにもかかわらず、その件だけを理由に犯人と名指しされた》
 
こういう文に出くわすたびに、
 
「それじゃわからん。具体的にどんなことをやったんだ」
 
と思ってきた人間だ。で、そのたびに、
 
「ごまかしている。嘘があるな」
 
と思ってきた人間だ。おれにこの手は通じない。
 
けれども、たぶん、何も知らない状態でおれがこの『警視庁重大事件100』を読んだら、
 
「指紋が違う? アリバイがあった? なるほど、だったら平沢ってのは無実だろうな」
 
と思ってるんじゃないかな。うまい。この書き方、この嘘のつき方はうまい。こいつを書いたやつはできる。
 
と言うより、
 
   *
 
大槻「ほおー。それでも、なおかつ遠藤さんは平沢さんは白だと確信したんですね」
遠藤「ええ。犯罪学の常識なんですが、詐欺ってのは知能犯ですよね。それから、強盗殺人ってのはいわゆる強力犯ですよ。詐欺ができる奴は、強殺は性格的にできないと。それから、強殺ができる奴は、直線的に行動する性格ですから、詐欺などという頭を使う犯罪はできない、ってことが常識になってるんですよ」
 
アフェリエイト:のほほん人間革命
 
なんていうのが人に嘘を信じさせるいいやり方と思っているドーマコと、これで騙されるオーケンがどうかしてるのだが、たぶん本当に常識的な人を騙すにはこれでなく、『警視庁重大事件100』の手口がいい嘘のつき方だ。
 
   *
 
(略)現場に残された犯人の指紋と平沢の指紋が一致しないこと、そして6人もの証人が平沢のアリバイを証明したことなど、(略)

画像:警視庁重大事件100表紙
 
とだけ書いて、それ以上の余計なことには一切触れない。
 
見事だ。シンプルで力強い。「アッパレだ。褒めてつかわす」とまで言いたくなってくるな、こいつには。
 
今のおれには通じないんだけれどもさ。でも何も知らずに読んだらあなたにきっと騙されてますよ。素晴らしい。こんなふうに書かれちゃあねえ。やっぱ誰でも、
 
「指紋が違ってアリバイもあったの? だったらその人は間違いなく無実なんじゃん」
 
と思っちまってそれ以上詳しく知ろうと考えもしないんじゃねえかな、普通。
 
齋藤勝裕も溝呂木大祐もこの手を使えば良さそうなものを、《居木井警部補は占いで》《カネは春画で得た説があり》と書きたいばかりにそうしない。そういう話にリアリティを感じてしまっていさえするから、こういううまい手があるのに気づきもしないんだろう。
 
だから〈まとめサイト〉にも、この指紋とアリバイの話はひょっとして書いてないかもと思ったりするがどうなんでしょね。どうでもいいのでおれは確かめる気もないが。
 
作品名:端数報告2 作家名:島田信之