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端数報告2

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今年の1月26日、あなたはどこで何をしていましたか


 
おれは最初にこのブログを始めた時、怒りのコメントが殺到するもんとばかり思っていた。
 
そしてそれを期待していた。ボーンメラメラと炎上すれば、「平沢が犯人なんて言ってるバカがいるんだって」というので人が集まってきて、けれどもすぐにおれが正しいと気づいて皆が驚愕する。初めはギャンギャン吠えるだろう〈救う会〉が尻尾を巻いて逃げてったら、その後おれに噛みつくのは《アポロは月に行ってない》とか《地球は平たい》とかいうのを信じるやつくらいだろう。そんなのシカトでいいのだから最初から全部シカトでいい。
 
という考えでいたのだけれど、しかしそうはならなかった。これを読んできた人間の中には帝銀事件に詳しいつもりでいた者も相当な数いたはずで、《GHQの捜査中止命令》とか《毒は青酸○○だと判明していたにもかかわらず》とか、《居木井警部補は占いで》《鬼の八兵衛が拷問で》《平沢は詐欺と言えないような詐欺を過ちで犯したばっかりに》なんていうのを真に受けて――おれは見たことないけれど、インターネットで帝銀事件のサイトを覗けばズラズラとこういう話が〈確かな事実〉ということでまとめられてるに違いないから――それを根拠にGHQの実験なのだと信じ続けてきたやつがおれに正義の鉄槌を喰らわすつもりでコメントを送って寄越していいはずだった。
 
が、そうはならなかった。そんなのひとりもいなかった。どうして? ってまあ、読めばすぐ、広く信じられてる話が嘘でこれが正しいと誰にでもわかるからに違いないけど、実は案外〈救う会〉でもこのブログをもう知っていて、
 
「神よ、これを読んでる者をみんなコロナで殺してください。ワタシ達がついてきた嘘が世間に知られぬうちに」
 
とみんなで泣きながら地に土下座して祈っていたりするんじゃないか。
 
そうして世が知らないうちに、冤罪説の城を崩しておれの方がここに《平沢犯人説》の鉄壁の城を築き上げ、天守閣を高く突き立てまわりを何重もの堀で囲んでやれたんではないかと思っているわけだが、ひとりくらいはおれに刃向かうコメントするやつを捕まえて、手足をゆっくり一本一本もぐようにして嬲り殺してやりたかったな。そうならなかったのが残念である。
 
そんなところで今回は、このブログの第一回目に戻ろう。帝銀事件の話をまず、おれはこの本から始めた。
 
画像:警視庁重大事件100表紙
 
部分を拡大すると、こう。
 
画像:警視庁重大事件100表紙一部拡大
 
〈連合赤軍あさま山荘事件〉の現場指揮官として名高い佐々淳行監修、協力・警視庁。警視庁創立140年、〈警察官の闘いと誇りの軌跡〉という本のはずだけど、そのうち、帝銀事件については次の4ページで全部だが、
 
画像:警視庁重大事件194-195ページ
画像:警視庁重大事件196-197ページ
 
こんな書き方がされている。警視庁の協力で、元警察官僚が監修してるものなのに。
 
これを書いてる人間は明らかに平沢貞通を無実と見てるが、それはとりあえず置くとして、おれが線で囲ったのが前に引用した部分だ。
 
おさらいしよう。まず青で囲った部分。
 
 
・簡単に奪える場所にあったほかの現金には、なぜか手をつけなかった。
 
 
だが、これについては前に見せたこの写真をまた出すだけで充分でしょう。
 
画像:文庫本16冊他
 
これだ。こいつがその〈なぜか〉に完全な答を出せているはずだとおれは言う。何か質問はありますか。
 
で、その次の紫の部分だが、まず、
 
 
・犯人を目撃した行員たちが平沢とは別人であると証言したこと
 
 
こいつは繰り返さなくていいでしょう。次、
 
 
・現場に残された犯人の指紋と平沢の指紋が一致しないこと
 
 
だが、おれはこのブログ2回目で、《セーチョーの『小説帝銀事件』によると、この事件で確かに犯人のものだと言える指紋は》うんぬんと書きましたね。これはあらためて、『小説』のその部分をスキャンしてお見せするのがよろしいでしょう。
 
画像:小説帝銀事件32-33ページ
 
アフェリエイト:小説帝銀事件
 
たったこれだけ。でもこれだけで、指紋採取は失敗していて2個の指紋がかろうじて採れたがどちらも犯人のものと考えるのは無理があるのがわかりますね。
 
けれどもドーマコの
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏
 
この本によれば、弁護団は公判で、「ふたつの指紋は犯人のもので、平沢のと違うのだから平沢は無実」と主張した。裁判官は当然認めなかったのだが、たぶん今でも〈救う会〉ではこれを不当と叫んでるのじゃないかしらん。
 
その意味ではこの『重大事件100』が書いてる通りと言えるが、あなたがそれをどう思うかはおれはあなたにお任せする。
 
 
で、その次。これが今回の本題と言えるが、
 
 
・6人もの証人が平沢のアリバイを証明したこと
 
 
だ。これについては第1回目に書いたきり、おれは触れてきませんでしたね。
 
なぜかと言えばオーケンとドーマコの対談に出てこなかったし、溝呂木大祐の『未解決事件の戦後史』にも出てこなかったし、礫川全次の『戦後ニッポン犯罪史』にも齋藤勝裕の『毒の事件簿』にも一切出てこなかったからだ。アリバイなんてものすごく重要な話のはずなのに。ただドーマコの
 
画像:帝銀事件と平沢貞通氏
 
これにはまあ出てくるが、こんなもん見せたところでしょうがない。
 
てわけでちゃんとあらためて書きたくても書けなかった。というのが理由でしたが、けれどここでやりましょう。
 
おれは以前にこの件について、
 
   *
 
あと、アリバイか。それもこの『小説帝銀事件』を読むと、事件発生の時刻に確かに平沢が別の場所にいたと言うのじゃなくて、現場から電車で一時間のところにいる親戚を二時間前に訪ねて数人と会っている。その彼ら(つまりアリバイを証言したという6人)は「平沢はちょっと話してすぐに出てった」と初めは言っていたのに裁判では「いーやもっと遅い時刻でかなり長く居たような」と供述を変え、検事が「どういうことですか」と聞くと、
 
「みなと話し合い、よく記憶を呼び起こしてみて、総合的に判断した結果だ」
 
と応えたということで、なんかセーチョーの『点と線』みたい。セーチョーの読者にするとこれが鉄壁のアリバイに見えるんですかね。
 
   *
 
とだけ短く書いていました。
 
なんでこんな書き方したのかと言えば、さっき書いたように怒りのコメント寄越すやつが出てほしかったから。炎上をむしろ起こしたかったからです。けれど、アテが外れてやんの。
 
で、そのままにしちゃっていたね。いま思うに火付けを呼ぶなら2回目に《もう鞄がズッシリ》の話、3回目に《パリダカラリー》の話はなかった。これじゃあすぐに誰でもが「ひょっとしたら」と考えてマッチを引っ込めちまうよな。
 
失敗したな、と思うとこだがまあしょうがない。とにかくアリバイについてこれからちゃんと詳しく話そうというわけですが、その前に、
 
 
 
まずお尋ねしたいのですが、あなたは今年の1月26日、何をしてたか憶えてますか。特に午後2時から3時。ちなみにその日は日曜日です。
 
 
 
作品名:端数報告2 作家名:島田信之