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端数報告2

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か。いいえ、おれが見るところ、帝銀事件に謎などひとつもありません。すべての証拠が疑問の余地なく平沢の犯行なのを示しており、GHQの実験だということにしたいこいつのような陰謀論者が話を嘘で塗り固めてきただけなのです。
 
 
 
――というところだが、やっぱりこれじゃ、ただの落ち武者狩りだよなあ。新しい話は何もしてない。
 
でもまあおれが悪いんじゃなく、帝銀事件について書くやつ書くやつみんな、同じ嘘を並べるのが悪いんだと思ってください。だからおれも同じことしか書きようがなくなるわけで、せいぜい、赤で囲っておいた、
 
 
・しかし、この詐欺事件はまた、平沢真犯人説を疑わせる事実をも含んでいたのです。すなわち、この未遂事件で平沢は騙し取った小切手を換金しようとしていますが、その際銀行員に言われる前に自分で小切手に裏書をしているのです。つまり、平沢は小切手に裏書が必要なことを知っていたのです。これは、裏書を知らなかった帝銀事件の犯人とは明らかに矛盾する行動です。
 
 
これか。犯人は事件翌日に壱萬七千圓の小切手を換金しているが、それには裏書をしていなかった。前年暮の詐欺では裏書してたんだから、平沢は帝銀の犯人じゃない。
 
というのが無実の決定的証拠だと、GHQ実験説を唱える者は叫び立てる。でも、普通の人間にすれば、
 
「それがなんだよ」
 
というところだよな。おれ、この話、したくなかったんだ。つまんないから。つまらない話をするとおれという人間がつまらないやつと思われるでしょう。この小切手の裏書の話は、帝銀事件全体の中でも特につまらないピースだとしかおれには思えないものだから、できることならしたくなかった。
 
でもしょうがねえ。やるか。セーチョーの『小説』によれば、その小切手は裏書がされてなかったわけじゃない。引用すると、
 
   *
 
 当然のことに、捜査本部は思わず机を殴るくらいに口惜しがった。この小切手さえもう少し早くわかっていたら、犯人は簡単に逮捕された筈なのである。(略)ともかく、この小切手は、捜査陣を残念がらせはしたが、また同時に喜ばせもした。それは、犯人の筆跡という重大な証拠が手に入ったからである。裏書「後藤豊治」の右に書かれた「板橋三の三六六一」という八文字だった。当人の後藤豊治は住所を書かなかったので、たしかに彼の住所と違っており、こういう番地は板橋三丁目には無いのだから、実際に犯人が、思いつくまま、でたらめを書いたのである。
 
アフェリエイト:小説帝銀事件
 
こうだ。おわかりだろうか。裏書はしてあったのだが、住所が書いていなかった。〈後藤豊治〉という名前は本人の後藤豊治さんが書いていたものだが、住所だけ、帝銀事件の翌日に銀行に現れた男が行員に「住所が抜けてます」と言われて慌てたように書いていったもの。
 
それで筆跡が手に入り、検事側が「平沢の字だ」、弁護側が「別人の字だ」とそれぞれ筆跡鑑定人を立ててやり合うことになるのだが、これもつまらない話だよな。とにかく『小説』では、
 
   *
 
 銀行員の話では、男の来た時刻は、行内は客でかなり混雑しており、男は、出納係の窓口近くのカウンターにもたれて、五分ぐらい待たされたが、人相は帝銀犯人そっくりで、オーバーの襟を立てて、顔をかくすようにし、足踏みしたりして落着きがなく、そのくせ表面は薄笑いして、わざとらしくゆとりを見せていた。また、出納係に、裏書人の「後藤さん」の名を呼ばれても、二、三回は気づかず、あわてて返事をして金を受取ると、算えもせずにポケットにねじこんで立去った、というのであった。
 
アフェリエイト:小説帝銀事件
 
という。犯人に間違いなしと見ていいだろうが、平沢の無実を唱える人間でこの裏書の話を持ち出す人間は、
 
《名前は書いてあったが住所が抜けていた》
 
というポイントに触れることがない。セーチョーと違って知ってても隠す。そのうえでこの齋藤勝裕のように、
 
 
・つまり、平沢は小切手に裏書が必要なことを知っていたのです。これは、
 
 
などと書くわけだ。それでなくともおれみたいな人間からすりゃ、
 
「それがなんだ」
 
と言っておしまいの話の上に、住所が抜けてただけとなったら話が違ってくる。それがわかっているから、伏せる。
 
そしてこう書いている。さっき見せたのの前のページだが、
 
画像:毒の事件簿130-131ページ
 
こうだ。
 
 
・行員に指摘されて始めて住所氏名を裏書したのです。
 
 
と。嘘だ。この先生様が、男が書いたのは住所だけだったのを知らないとは思えない。
 
 
 
――とまあ、この齋藤勝裕という人間の手口はすべてこうなのがわかりますね。てわけで落ち武者一匹狩ってやった、と、いうとこだけどなんかなあ。
 
こんなのひとり潰したからと言ってやっぱりおもしろくない気もするな。だからブログより、ほんとに平沢を犯人とする小説書く方がいいかしら。
 
どうしよう。ただ、ひょっとして期待してる人がいるかもしれませんけど、〈ノベリスト〉と〈ハーメルン〉に出している『宇宙戦艦ヤマト』のリメイク小説の続きを書くことはありません。誰がおめーらみてーなやつらが、何千人も盗む考えで待ち構えてると知ってて書くかよ。それだけはねーよ。
 
https://2.novelist.jp/89820.html
 
作品名:端数報告2 作家名:島田信之