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短編集87(過去作品)

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――彼に対して心の底から信頼できないんだから、これからも心の底から信頼できる人物など現われるはずがない――
 と思っている。
 人を信頼すればするほど、自分の中で不安が募るということもある。心配性の人はどんなに安定があっても、それ以上を求めようとするのか、どうしても安心に行き着くことができない。安心してしまうとその後ろから付きまとう不安が、自分の中の自信を揺るがすのだ。
 田舎で育った橋爪は、都会でずっと育ってきた三木を尊敬している。垢抜けた発想は、時々橋爪の度肝を抜き、自分の愚かさを思い知らされる。
 田舎で育つと、どうしても「島国根性」が先に立って、都会の人への憧れとは別に、田舎者として見られているという偏見が抜けなかったりする。それが田舎から出てきた者が一番最初に感じる試練であり、都会に対して言い知れぬ不安を大きく感じるところなのだろう。
 しかし、三木は田舎の人間だろうと都会の人間だろうと差別はしない。それだけ懐の広さを感じるが、ある意味したたかでもある。
――利用できる者は何だって利用する――
 この考えが三木の根底にあるのは間違いない。彼ほど、味方につければ頼もしいが、敵に回すと厄介な人間もいないだろう。それを分かっているから、離れられないとも言える。
 三木は一体、橋爪をどう感じているのだろう。
 三木は確かに卓越した発想をすることがあるが、基本的には石橋を叩いて渡る性格である。無謀な冒険をすることもなく、絶えず緻密な計算をしていて、決して危ない橋を渡らない。人から見ていて、
「危ないな」
 と思うことでも彼にとってみれば、至極当たり前のことである。
「三木さんは、どうしていつもそんなに冷静なの?」
 冴子にそう聞かれて、
「なぜなんだろうね? 性格だといってしまえばそれまでだよ」
「でも、冷たくないからいいのよ」
「これで冷たかったら、掬いようがないよ」
 と言って笑った。
 心の拠り所がないことは感じている。三木はいつでも孤独と背中合わせなのだ。同じような考え方の人が少ないというのもあるだろう。そういう人は得てして同じような考えの人間としか付き合わない。それでもいいと思っているからだ。
 橋爪はどうなのだろう? 三木とそれほど同じ考えだとは思えないが、なぜか一緒にいる。やはりナンバーツーで自分の実力を発揮できることに気付いてから、ナンバーワンにできる人を絶えず探していたことだろう。
――自分が探し求めている人は、きっと同じ考えの人間じゃないんだ――
 最初から分かっていたように思う。同じ考えの者が組むと、それなりに増幅した考えも持てるだろうが、それ以上の発展はない。口でいうと簡単に聞こえるが、実際にそのことに気付くまでにはかなりの時間を要した。そんな三木が橋爪を慕うのは、自分の目で探し当てたナンバーワンだからだ。
 冴子は思う。
――橋爪さんの方が暖かい人間に思うのに、どうして三木さんを好きになったのかしら――
 その答えは、冴子の中にあるように思うが、なかなか自分では分からない。少なくとも気持ちの中で大きくなっていった三木を感じていると、暖かな気持ちになってくることだけは確かだった。
――男って暖かさだけじゃなければ、強さだけでもないんだわ――
 どちらも持っていないと、なかなか人に好かれないだろう。しかし、得てして暖かさと強さは裏返しに思える。そして裏返しでもあり、紙一重でもあるのだ。そう簡単に気付くものではない。
 男の人にとって、仕事と女は切っても切り離せないものだということを、三木から聞かされたことがあった。三木のセリフには思えず、ビックリしてしまった。
「仕事と女って、一緒にしてしまうと整理がつかなくなるんじゃなくて?」
「ああ、その通りだよ。だから一緒にするとは言ってない。切っても切り離せないといったんだよ」
 つかず離れずの関係だろうか。
「切っても切り離せないって、感覚的に似ているってことかしら?」
「そうだね、優しく扱わないといけないし、しっかりと変化を見ていないといけない。女性の気持ちだって、ちょっとしたことで変わるだろう? 仕事だってそうさ。相手によって商談の仕方も違えば、ちょっとしたことで、状況が変わってしまう」
「そういうことなんですね。分かりました」
 仕事と女心を一緒にされるのは少し抵抗があったけど、話を聞いてみると、
――なるほど――
 と思えるところもある。男の人はやはり仕事が一番、きっと仕事をしている時の表情は自分と話している時とまったく違う表情をしていることだろうと思う冴子だった。
 それでこそ男だと思える。女性が惹かれるのは、そんな男性にである。それは冴子にもかすみママにも言えることだ。
 冴子やかすみママから二人を見て、共通して感じるのは、余裕だった。スナック「しらさぎ」には、他にもいろいろな客が来る。中には同じようなベンチャー企業の社長さんのような人も来るが、同じようなところもあるのだが、
「一番の違いは?」
 と聞かれれば、やはり余裕ではないかと答えるだろう。
 他の客に余裕がないというわけではない。余裕があって、どこかに違いを感じるのだ。自然とどこが違うのか考えてしまうだけに、余裕の違いが一番の違いに思えてならない。
 会社を立ち上げる前は、いろいろな店に顔を出していた橋爪だったが、今は三木と二人で、スナック「しらさぎ」だけになった。他の店との明らかな違いは落ち着けることだというのが二人の共通の意見である。
「きっと、相思相愛という気持ちが強いからでしょうね。他の店だと、皆社交辞令が強く、なかなか心から安らぐこともできませんからね。まるで、温泉に浸かっているようなそんな気分にさせられるのがいいですよね」
 三木の意見だったが、橋爪も同様だった。まったく意義などない。自分の気持ちをそのまま代弁してくれていた。
「ねえ、じゃんけんしましょうか?」
 遊び心なのか、かすみママが橋爪にそう言った。
「ジャンケンポン」
 何回かやったが、どういう意味なのか分からなかった。
「じゃんけんって面白いわね。いわゆる三すくみっていうのかしら?」
「そうだね。どれも、強いものと弱いものが存在しているから、結局その輪の中から抜け出せないような気がするのは私だけだろうか?」
 橋爪も三すくみについては以前からいろいろな考えを持っていた。これは仕事においてもありえることで、競争という概念の中で、避けては通れないところかも知れない。
――ひょっとして、私と三木の間にもう一人いたら、三すくみになるかも知れないな――
 とも考えていたりした。
 そういえば元々二人が出会ったにも競馬場だったではないか、お互いにギャンブルには造詣が深いのかも知れない。もちろん他のギャンブルはあまりやらないが、他のギャンブルをすればするほど、三すくみということが基本であることを痛感していただろう。
作品名:短編集87(過去作品) 作家名:森本晃次