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加害者のない事件

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「ええ、確かにそうですね。でも、深溝さんとまさかと思った時、やっぱりと思ったのも事実なんです。分かってしまうと、いろいろ思い当たるところがあったという感じなんでしょうか」
「なるほど、それも安川君の特徴なのかも知れないですね。あなたをミスリードして深溝君の首に手を掛けさせる。その時、彼は睡眠薬を飲んでいたので、少し絞めただけでも彼は気絶するでしょう。だからあなたは罪に問われるほどきつくは絞めていません。それを安川は知っていたので、少し時間が経ってからでも、まだ深溝さんは昏睡状態だと思っている。そこでもう一度彼を絞めたんでしょうね。でもその時は殺すつもりだったかも知れない」
「でも、実際には殺していませんよね?」
「ええ、そこなんですよ、完全に殺そうと思えばできたのでしょうが、苦しんでいる深溝さんを見て可哀そうだと思ったのか、それとも見たこともない彼の顔を見て、殺そうという気持ちが萎えてしまったのか、本当のところは本人にしか分かりませんが、結局深溝さんは死ななかった。それはあなたにとっても不幸中の才腕。でも一番ホッとしているのは唐の本人である安川君なのかも知れませんね」
「安川さんにとって、私は何だったんでしょう?」
「それは恋人だと思っていると思いますよ。その気持ちに変わりはないと思います。ただ、ひょっとしたら、最初は深溝さんとの間を清算するために、初めてまわりを見て、そこで見つけた相手だという但し書きがあるのかも知れませんが」
「何か複雑な気がします」
「でも、恋愛などというものは、存外そんなものなのかも知れませんよ。好きだった人と別れてから、他の人を好きになるなどということは、当たり前にありますからね。それに前の人を忘れようとして好きになるパターンもあります」
「そうなんですね」
「もちろん、失恋してすぐに恋愛なんかできないと思っている人も多いでしょう。好きになった人の思い出が自分の意識のすべてを満たしている場合、他の何も目に入らないという人もいますからね。要するに他の人を受け入れられないんですよ。だって失恋した相手を最初に好きになった時、『この人は唯一無二の人だ』だなどと思うじゃないですか、その人に対しての思いはたとえ失恋しても、消えることはないでしょうから、急に他の人を好きになるというのは、そんな自分の気持ちを否定することになる、でもね、結局次に好きになる人も同じ思いで『唯一無二』だと思う人なんですよ。だからm頭の回転ができるかできないかではないかと私は思います。視線を変えるとでも言いましょうか。いわゆる『隣の芝が青く見えるか見えないか』ということではないでしょうか?」
 という鎌倉先生の話を聞いて、瑞穂もハッとした。
「なるほど、それが安川さんの方の性格なのではないかとおっしゃりたいのですね?」
「ええ、その性格をあなたと深溝さんには理解できなかった。それがひょっとすると安川君を追い詰めたのかも知れませんね」
「そう思えてきました」
 そう言って少し考えていた瑞穂だったが、ふと思い立ったのか、
「ところであのクスリは?」
 と聞いてみた。
「あの麻薬は、性交渉をする時に、快感を得るためにしようされたんでしょうね。もちろんそれを使用したのは深溝君でしょう。それほど安川君との間の行為に燃えていたんでしょうね。でも、そのうちに依存症がハッキリしてきたので、睡眠薬による中和を考えた。しかも、もう一つ考えたのは、もし警察から何か言われた時に、言い逃れするためもあったでしょうね。彼は麻薬を使うようになって、精神的に不安定になり、疑心暗鬼が強くなってきた。そのせいもあって、睡眠薬も常備するようになった。目には目をというのがm逆に煽る形になったというべきか、症状を打ち消すことには成功していたかも知れませんが、潜在意識としては、相乗効果を生んだのかも知れない。彼は睡眠薬を常用するようになってから、悪夢に悩まされるようになっていたかも知れないですね」
「深溝さんはどうなるんでしょう?」
「まあ、命にも精神的にも異常はないと思います、欠落した記憶もクスリと睡眠薬の相乗効果によるもので、次第に取れていくと、精神的にも安定してくるし、記憶も戻ってくるでしょう」
「そういえば彼の性格なんですが、あれはクスリのせいなんでしょうか?」
 と、瑞穂が聞いた。
「若干はあるかも知れませんね。確かに精錬実直な人は多いとは思いますが、あそこまで落ち着きを払っているのは、少し病的なところがあります。だから、すべてが素の性格だとは言えないところがあると思います」
「なるほど分かりました。では安川さんはどうなんでしょう?」
「安川君も、私はある意味では被害者なのではないかと思います。この事件は、最終的には誰も死んでいないし、大きな事件にはなっていないけど、逆に言えば、僕には犯人はいないのではないかというおかしな意見もあるんですよ。つまり登場人物、主要人物のことですがね。その人たちに少しずつの罪深いところがあって、それが重なりあってこんな自演を引き個々してしまったというべきではないかと思うんです。もちろん、実行した人が一番悪いのでしょうが、すべてを押し付けるのはいけないと思います。やり方として人を陥れるのはいけないとは思うけど、やむ負えない部分もあったということで、私としてはやり切れない気がします」
 と少しうな垂れた鎌倉探偵を見て、
「じゃあ、私にも何か悪いところがあるのでしょうか?」
 と瑞穂は聞いた。
「あるかも知れません。今の私には何とも言えませんが、できれば、それはあなたに自分で探してもらいたい。この事件はある意味、自分に何か悪いところがあるのではないかということを、ウスウス感じていて、それを追求する勇気がなかったことから起こった事件ではないかとも思うんです。だから瑞穂さんには、ぜひ自分の中で解決できることは解決してほしいと思うんです。結局他人には人の気持ちの中までは入りこめないということなんですよ」
 と鎌倉は言った。
「私は、自分で自首する気持ちになった時のあの心境を今思い出していました。今の鎌倉先生のお話を伺ってると、あの時の自分に何か問題があったのではないかとも思っているんですよ」
 と瑞穂がいうと。
「そうですね。私もあの時のあなたには問題があったと思います。自首することですべてを解決しようと思われたのでしょうが、それは浅はかだったという感じだと思います。そのあたりから、もう一度ご自分を思ってみると思いますよ。客観的に自分を見つめるのがいいと私は思います」
「分かりました。そうしてみます」
「この事件は、案外気付きにくいんですが、同じ時にまったく同じことを考えていると思っている人と、まったく別のことを考えている人が存在していたと思います。でも、それはその時だけではあく、考えているんじゃなくて、考えるというべきなんでしょうが、絶えずその場その場であったのではないでしょうか? それがすれ違いになったのではないかと思うのは私の突飛な発想でしょうかね」
 と、意味深な話をした。
作品名:加害者のない事件 作家名:森本晃次