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短編集86(過去作品)

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自分の顔



                自分の顔


 遠藤俊介は、友達が少ない方だった。学生時代から一人でいることが多く、大学に入ると今度は手の平を返したように友達を増やしたくなっていた。
 最初は男女問わず友達になってくれればそれでよかったのだが、女性の友達が増えることを勲章のように思うようになってから、手当たり次第に女性に声を掛け始めた。掛けた声に反応してくれるのが嬉しくて、女性と知り合うことがまるで自分だけに与えられた勲章のように思えるのだ。
「最初から積極的に行けば意外ともてるものさ。最初から諦めているから友達になれるものもなれないんだ」
 と嘯いているのを聞いて、中にはバカバカしいと思うやつもいるだろうが、繰り返しきかされるともっともに聞こえてくるから不思議なものである。
 きっかけなんて適当だ。その時に思いついたことを話せばいい。話が合わなければそれ以上付き合っていても長続きするわけではないだろうし、何を話していいか思い浮かんでも迷って話しかけられないなど愚の骨頂に思えてくる。
 大学に入学して数ヶ月で友達と言えるのではないかと思える人が百人を超えた。それがピークだったように思う。キャンパスで出会えば挨拶を交わす。挨拶に忙しい自分を他の人がどんな目で見ているだろうと思うと、想像するだけでゾクゾクしてくる。
――なんて友達の多いやつなんだ。羨ましい――
 友達を作ることの醍醐味は、羨ましがられることが最大の魅力ではないだろうか。他の人に言えばそれこそ笑われるだろうということに気付きもしなかった。
 後から考えれば顔から火が出るほど恥ずかしい。自分の浅はかさもそうだが、友達になってくれた連中が本当は自分をどんな目で見ていたのだろうと考えると、怖い気もする。
 友達というのもある程度までくれば、そこから先はなかなか増えないようだ。疲れてしまうのか、自分から無意識にブレーキを掛けている。
 しばらくすると、その中から本当の友達を探そうとする自分がいるのに気付く。一緒にいて同じ相手でも最初に比べて見方が変わってくるのだ。相手もそのことが分かってくるのか、本当に友達として残らない人は相手の方から去っていく。却ってアッサリとした気分になり、スマートになってくる気がしてくる。
 俊介は自分がスマートな人間だと思っているが、それは変な贅肉がついていないからだということが分かっている。しかし性格的なスマートさを意識したことはない。人を見ていてスマートな性格だと思っても、それを自分に当て嵌めてみようとは思わないのだ。
 意識がないからだろう。スマートという言葉に対して意識があれば、きっと自分に当て嵌めてみようという気持ちになるはずである。
 結局、友達といえる人は十数人に残ったが、それでも自分で多いと思っていた。その中で親友と呼べる人が三人、男二人と女性が一人だった。
 女性で親友などありえないと思っていた。今でも本当に親友だったのか疑問である。だが、今となってはそれを確かめる術がない。なぜなら彼女はもうこの世の人ではないからだ。
 話を聞いた時はショックだった。
――彼女にしたい――
 と思ったことがあり、思い切って告白したが、
「あなたは親友なの。私にとって一番の親友なの」
 と言われてしまっては、言い返しようがない。よくふられる時の定番のセリフに、
「あなたはお友達としか思えないの、いいお友達でいましょう」
 というものがあるが、そう言われれば言い返せるわけもない。実に都合のいい言葉ではないだろうか。
 彼女、名前を沙織と言ったが、彼女がそんな常套手段で断ってくるとは思えない。本当に心から思っていることなのか、はたまた、本当に俊介が嫌でたまらないのか、どちらかだろう。
 とにかく沙織はその瞬間から、親友として確立してしまった。それ以上を求めてはいけないし、それ以下など考えられない。告白して断られたのだから、それまでなら友達としても辛くて顔が見れなかっただろうが、沙織に対してはそんなことはなかった。とにかく俊介にとってそれまでに知り合った女性とは、まったく違うタイプの女性であることに間違いはない。
 親友の中に、沙織と同じ趣味を持ったやつがいた。名前を歳三と言ったが、名前のごとく新しいものを貪欲に取り入れるタイプの男で、俊介にはないそんなところが、親友として見れるところである。
「歳三って、土方歳三みたいだな」
 というと、
「そうさ、親が土方歳三が好きでこの名前にしたんだ。新撰組でも土方が一押しらしい」
「「鬼のようなところのある冷血人間のイメージがあるが?」
「確かにあるかも知れないが、冷静沈着で、彼ほど状況判断の早い人間もいないかも知れないぞ。だからこそ、貪欲に新しいものを取り入れる性格で、そんなところが俺も好きなんだな」
 言っている顔を見ていると自信に満ち溢れたような顔をしている。まさしく土方歳三が乗り移ったように見える時があるくらいだ。
 そこが歳三の最大の魅力なのだろう。俊介にも同じようなところがあるが、歳三ほど徹底していない。自分が自信を持ってしたことに後から不安になる俊介に対し、
――やってしまったことには自分なりの自信があるんだ――
 と思っている歳三の考え方が尊敬できるし、羨ましく思う。とても自分にできることではない。
 そんな歳三を沙織は慕っていた。
 沙織という女性、一人で孤独なイメージがあり、そこが男性にとって魅力の一つのように思えるのだが、実際は孤独が好きというわけではないようだ。いつも誰かしっかりした考えの人を捜し求めていて、妥協を許さないところから、あまり人の輪の中に入ることを好まない。歳三のように自分の考えが徹底している男性に憧れを持ったとしても自然なことだ。
 失恋して、失恋した相手の好きな男性が自分の親友というのも、本当ならばショックが大きいのかも知れない。しかし、それほどでもないことに驚いている。
 まるで気分は他人事、二人とも親友ではあるが、それぞれの性格が違いすぎるところが他人事と思わせる要因かも知れない。
 それまでに俊介は数回失恋していた。最初からふられることもあったし、付き合っても数ヶ月というのがほとんどだった。
 別れ方はいつも決まっていて、セリフとしては、
「友達以上に思えないの」
 決まり文句である。
 しかしシチュエーションがすべて違うのに、よくも判で押したようなセリフが出てくるものだと感心してしまうほどだ。
 失恋も重ねていれば、そのうちに自分が本当に好きになれる女性に出会えるだろう。失恋してきたのは、本当に心から好きだと思える相手ではなかったからだと思えば、それほどショックでもない。感覚が麻痺しているのだろうか。
 大学を卒業してからの俊介は、社会人になる前に感じていた期待と不安のうちの不安を最初に感じてしまった。なったことのない鬱状態に陥り、今までの自分ではなかった。しかしそれでも、今までの自分は存在していた。
作品名:短編集86(過去作品) 作家名:森本晃次