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短編集86(過去作品)

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 実際に、若かった頃の母に会っているような気がする。恵子と一緒にいる時に感じたことのない新鮮さだけに、その瞬間でしか会えないと思うと、こみ上げてくる寂しさをどうすることもできない。
 母に自分の息子と会っていたなどという記憶があるはずはないが、無意識になら何かを感じていただろう。時々懐かしそうな顔になったり、映画が好きだといった時のホッとした表情。そこには自分の中にある感じていたことが記憶となり、意識にまで発展していることだろう。とても奇妙なことなのに、自然に状況を受け入れられる素直な気持ちになっている。それこそ青春時代の母を垣間見ているようで、西本氏の胸は高鳴った。
――やっぱりあれは母だったんだ――
 気持ちの中に芽生えてくるのは、母としてではない、一人の女性のイメージ、そして同時に感じた孤独というものの正体。まるで自分の気持ちの中を垣間見たような気分になっていた。
 今頭の中はフル回転。須藤先生に教えてもらったものすごい回転をともなうエネルギーは、次第に色を失い、最後は真っ白になってしまうという円盤のイメージが頭の中を駆け巡っている。だが、本人はそれほどフル回転という意識はなく、逆に真っ白になっていく気配を感じていた。真っ白になる感覚から先生の話を思い出していたのだろう。須藤先生と、牧野先生の幸せそうな表情が目に浮かんでくる。
――二度と会えないから感じる孤独感――
 西本氏と母親の間にある気持ちであるが、それに気付くと、いつも自分が孤独に思っている気持ちとかなりの隔たりがある。孤独を好む性格は、人との交わりを拒絶するものではなく、自分というものを表に出したいという潜在意識が働いているのだ。
 今の母とは違う母が自分の中にいて、
「人と違う素晴らしいところを持っているあなたが好きなの」
 と言われているような気がして仕方がない。
 きっと自分がそのことの本当の意味に気付いた時、もう一度母と再会できるだろう。
 心の中に母は永遠に生き続ける。今ならあの時に会っていたのが息子だと思うことだろう。映画館へと久しぶりに行きたくなった思い、そしてそこで感じた孤独の本当の意味。果てしなく広がる暗黒の世界で、母は永遠になったのだ……。

                (  完  )

作品名:短編集86(過去作品) 作家名:森本晃次