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家族と性格

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 と感じたのだが、それはきっと中学で話をするようになった女の子の小学生の頃の雰囲気によく似ているからではないだろうか。
 今日は何を話していいのか、恭一も戸惑っていたので話をすることができなかったが、他の日に二人で会って話をしたのであれば、きっと会話が成立するのではないかと思えた。
 相手が何を考えているか考えるよりも、一緒にいて、
――僕の方から何かを話してあげなければいけない――
 と感じる時の方が、言葉が出てくる気がしたのだ。
 プレッシャーに強いわけではなく、女の子と二人きりでいる場合、自分から話しかけることができるのは、クラスの当番を決める時、恭一がパートナーを彼女にしようと思ってその顔を見た時、その表情に、
「ちゃんと話をしてほしい」
 と言っているかのように見えたからだった。
 それは彼女が目で訴えていたというのを感じたからであって、もし、自分が話をしてあげていなければ、今もずっと彼女から避けられることになったのではないかと思うのだった。
―ー俺は話をしようと思えばできるんだ――
 と感じたのだった。
 実際に小学生の頃、家の近くに住んでいた女の子がいたのだが、その子は自分よりも二つ下で、五年生の時、三年生だった。その子はどうやらクラスでいつも一人ポツンといるような女の子だったようで、ただ別に苛めを受けていたわけではない。なぜかその子は、いつも恭一に近寄ってきて、離れようとしない。恭一を見つけると遠くからでも何とも言えない嬉しそうな顔をして近寄ってくるので、恭一も敢えて避けるようなことはしなかった。
 その顔を見ると、
「人懐っこい女の子なんだ」
とずっと思っていた。
 だが、実際には学校ではいつも一人で、他の人と離れたところにいる。その時の表情を知らないので、自分に近寄ってくる彼女がまるで懐いているイヌのように思えて、可愛らしくて仕方がなかった。
 その表情が本当は嬉しそうな表情ではなく、その裏に寂しさを隠し持っていたなどずっと知らなかった。
 ただ、一度本当に寂しそうな表情をした彼女を見て、何と言って声を掛けていいのか分からなかったことを覚えている。その時の彼女は明らかに恭一に何かを言ってほしかったのだ。
 初めて見る寂しそうな表情でありながら、その視線は恭一を貫かんとする眼力に、怖さすら感じた恭一は完全に戸惑っていた。
――どうすればいいんだ?
 声を掛けてあげるどころの問題ではない。
 まるで自分が金縛りにでも遭ってしまっているかのようで、彼女のことを考える前に、自分がどうすればいいのかが分かっていなかった。
 その時、彼女がいつも嬉しそうに見えるあの表情が、初めて寂しそうな表情だったのだということに気付いた。
 寂しさというのは、どうしても相手に対して隠したいという意思が無意識に働くのだろう。だから、相手が気を付けて見てあげないと、本当に寂しい時の気持ちを分かってあげることはできない。戸惑いの中で相手の寂しさを見つけることは結構難しいことなのではないだろうか。
 その時、恭一は、
――とにかく何を言ってあげなければいけない――
 という思いはあった。
 だが、そう思えば思うほど、どういえばいいのか分からないという思いに戻ってきて、ループを繰り返してしまうようだ。
 それでも、何とか絞り出すように話しかけた。どんなことを話したのか覚えていないが、話しかけてあげたことで、彼女は安心したような表情になった。
――これでよかったんだ――
 と思ったが、彼女は次の日から恭一を避けるようになった。
 あれだけ顔を見かけただけで、人懐っこく近づいてきて、抱きつきでもするかのような態度とはまったく違っていたのだ。
 避けられてしまうと、前の日に、
「何でもいいから話しかけよう」
 と感じたことが間違いであり、彼女が安心したような表情をしたと感じたのは、勘違いだったということになるのであろう。
 そう思うと。恭一の後悔はかなり大きなものとなった。彼女ともう二度と話ができなくなるのではないかという思いが辛くそして重くのしかかってくる。しかもその原因を作ったのは、他ならぬ自分である。
 それが後悔となって襲い掛かってくることで、
――ではどうすればよかったんだ?
 と考えることもなかった。
 とにかく、やってしまったことへの後悔だけで、それ以上何かを考えるということができなくなってしまっていた。
 考えなければいけないことがあるということは分かっているのだが、考えることが怖いのだ。このジレンマがトラウマとなって今の自分を形成している。
――ひょっとして父親との確執もこの時の感覚が影響しているのではないだろうか?
 という思いもあった。
 だが、父親との確執はもっと前からあったような気がする。それは物心がつく前のこと、つまりは、自分の方が考えるのではなく、父親の方で考えたことが、理解できないまでも、何かおかしな感覚として、恭一に襲い掛かったのではないだろうか。
 その時、そのように考えたからと言って、実際に相手の希望通りに話しかけたことはなかった。頭の中でシミュレーションをしてみたことはあったが、それはあくまでも想像上のことにすぎない。要するにそれ以降、そんな機会に恵まれなかっただけのことだった。
 元々そんな感情を持つようになったのは思春期前のこと。つまりはまだ子供だった頃のことで、思春期に突入し、自分の精神状態が不安定になり、気持ちも流動的にはなっていたが、この想像は不変のものであり、
――もし、今度こんな機会が訪れれば、きっと想像通りに事が運ぶに違いない――
 という、根拠はないが自信のようなものはあった。
 今、その機会が訪れた気がした。
 相手は、まだ子供の小学生、しかも、自分が最初にこのことを感じた相手とほぼ年齢的に変わらないだろう。
 だが、その時恭一は気付いていなかった。
「女の子は男の子と違って思春期前になると、成長は急激に早い」
 ということをであった。
 実際に乳房の膨らみが目立つようになってくるのも、初潮を迎える時期というのは、男の子が思春期に入るよりも早かったりする。早熟な女の子は十歳にはすでに初潮を迎えている人もいるというが、そこまではさすがに恭一の想定外であった。
 小学生の頃、女の子は男の子と別れて、女の子だけが教室に入って、何か女の子の成長に対して話をされていたのは知っていた。だが、それを男の子が聞くことはない。知るのはきっと中学に入り、自分が思春期に入ってから誰かから聞くことになる。
 それが学校の先生であったという意識はない。悪友か何かに最初に聞かされた気がした。最初はそれを聞くとどこかショックな気がしたのは、その後に多分、保健体育の授業で聞くことになったと思うのだが、その時の印象がほとんどないのだ。学校の授業で聞いたということすら記憶に残っていることに自信が持てる気がしないくらいだ。
作品名:家族と性格 作家名:森本晃次