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家族と性格

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 元々生まれついての勘の良さもあるのだろうが、最初の子供を亡くした時、道子さんの悲しみを見ていられなかったことで、道子さんに対して暖かい目で見るという意識が強くなった。その思いが嵩じて家族を大切にするための目が養われ、不幸にも亡くなってしまったが、生きていれば理想の家族が築けていたに違いないと思っていただろう。さぞや無念だったに違いない。
 そんな父親にも分かっていたかどうか、咲江は成長するにしたがって、その行動力は、想像を絶するものになっていた。
 そのことは道子さんにもウスウス気付いてはいたことだろうが、成長の過程において、それくらいのことはあって当たり前だと思うだけに、そこまで心配はしていない。特に母親は同性という目で見るので、自分の思春期とその前後のことを思い出すと、少々過激なこともあったような気がして、それほど気にはなっていなかった。
 だが、それはあくまでも親としての贔屓目であったり、遺伝があるからという意識からか、
――あの子に何か過激なことがあれば、私の遺伝なんだわ――
 と思わずにはいられなかった。
 それだけ父親はしっかりしていた人であり、決して石橋を渡る時、叩かないなどという選択をする人ではなかった。しかも、道子さんも子供の頃は結構行動的な性格で、
「おてんば」
 と言われていることもあったくらいだ。
 今の道子さんからは想像もできないが、それは娘である咲江にも同じであろう。そういう意味で自分に行動力があり積極的な性格は、誰からの遺伝でもなく、自分だけが持って生まれたものだという思いに駆られていたに違いない。
 その思いが咲江を有頂天にもした。
 今までの自分の性格は、ほとんどが父親からか母親からの遺伝だと思うことがほどんどだったので、
――私独自の性格ってないのかしら?
 と思っていた。
 その性格がいい悪いを問題にしているわけではなく、まずその存在に気付きたいと思っていた。
 だから気付いた時には嬉しくて、しかもこの性格のどこに悪いところがあるのかと思うほどであった。性格などというのは、ほとんど裏表があり、いい部分が表の場合と悪い部分が表に見えているだけのことで、
「上の下か、下の上かの違いにすぎない」
 という発想を持っていたようだ。
 明らかな違いはあるのだろうが、善悪という意味での違いから考えると、そこまでハッキリとしたものではないだろう。
 実際に今までの行動力はすべてがいい方に展開していた。これからは気を付けなければいけないと思いながらも、この性格に準じていく気持ちに変わりはなかった。
 咲江は正直、自分が義兄の恭一を好きになったのかどうか、ハッキリとしなかった。しかし、恭一があまりにも自分に興味を示さないことで業を煮やした気分になったことで、それまで中途半端だった義兄への気持ちがハッキリと、
「好きなんだ」
 と感じるようになった。
 キスをしたにも関わらず、その時はビックリして、このまま自分のことを好きになってくれるのではないかと期待していたが、その期待はあまりにも都合がよすぎたようだ。恭一は咲江に興味を示すことはなく、ただ、妹として接してくれていた。
 恭一とすれば、義理の、しかも妹なのだから、まるで腫れ物にでも触るような気持ちだった。逆に咲江の方はといえば、
「義理なんだから、お兄ちゃんと言っても、別に血は繋がっていないのだかから、好きになってもいいのよ」
 と思っていた。
 咲江の方が考え方としては現実的だが、自己に都合よく考えているところがあり、恭一の方は、考えすぎと言われるほどではあるかも知れないが、それだけ妹のことを大切に思っているということだろう。
 お互いに思い合っている気持ちに違いはなく、全体的に見ると、微笑ましさもあるのだが、この二人の考え方は決して交わることはない。交差することはあっても交わらなければ、二人は永遠にすれ違いでしかない。
 そのことを、お互いに分かっていなかった。
 恭一ももう少し遠慮の気分を和らげればよかったのだが、これも恭一の性格で、この部分はある意味父親からの遺伝なのかも知れない。そう、性格的には厳格で、本来であれば自分がもっとも嫌いな部分であるはずなのに、それをこともあろうに咲江に見せてしまったのだから、咲江の方としても、意地になってしまうのは仕方のないことであろう。
 そのため、咲江は
――このままお兄ちゃんに近づいているだけでは、私の気持ちは成就しないんだわ――
 と考えるようになっていた。
 行動力がある咲江だったが、その行動力に伴う考えがついていけてない様子なのは、まだ小学生という中途半端な年齢だったからであろう。
 もうすぐ思春期に入ろうとしていて、いや、半分足を突っ込んでいてもおかしくない年齢なので、咲江は自分のことを顧みることも少し増えてきただろう。
 しかし、だからと言って、自分のことが分かってきたわけではない。行動力に伴う頭がついていけていないことは自分でも分かっていたのだ。しかもそこには彼女の中の、
「都合のよさ」
 が見え隠れしていて、彼女の行動はどこに向いてくるのか、本人にすら想像もつかないほどだった。
 咲江がターゲットにしたのは、何と義父だった。父親を誘惑することで、恭一の中にあるライバル心のようなものが燃え上がってくれれば、自分に目が向いてくれるという発想であった。
 これは、誰が考えても実に浅はかなものである。勉強が好きで頭のいいはずの咲江の考えることとしては、いささか矛盾しているように思うが、身体と精神のバランスが崩れてくると、考えることも突飛さが段階を踏まずに飛び越えてしまうようだった。
 恭一が自分の父親を敵視しているということは、咲江には分かっていた。
 ちなみに、道子さんも分かっていたのだが、道子さんが見たのは父親側から見た二人の関係であり、咲江のように息子側から見た二人の関係とは違っている。しかし、咲江の考えはどこか中途半端なところで正解なのが実に恨めしいところであり、どこまでが大丈夫なのか、誰にも分かる問題ではなかった。
 咲江は父親と恭一の性格がまったく正反対であるとは思っていたが、その衝動に対しても正反対だという感覚はなかった。やはりそこは親子だという思いが強かったので、危険はないと思っていたのだ。
 だが、母親から見れば、少し不安はあった。再婚を考えた時、咲江のことが心配ではないわけはなかった。それだけ恭一の父親に対して、オトコとしての疑念を抱いていた証拠であるし、そのことを誰にも悟られないように振る舞っていたのだが、それがよかったのか悪かったのか、答えは出ていないと思っていた矢先だった。
 咲江はわざと父親と二人きりになる時間を、自らが演出した。そして「悪だくみ」という名の、
「ちょっとした悪戯」
 のはずだった計画を、まさか義父に悟られているとは思いもしなかった。
 それだけ義父のことを舐めていたのだし、恭一の父親だということでの安心感もあったのだろう。やはり小学生の浅知恵だったと言えるのではないだろうか。
作品名:家族と性格 作家名:森本晃次