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家族と性格

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 と言って、目のやりどころに困ってしまった恭一だったが、別にジロジロ見たとしても相手もそんなに大げさに恥ずかしがることなどないのだ。生娘でもあるまいし、しかも義理とは言え、親子の関係だからである。
 そのことは恭一も分かっているので、そんな言われ方をしなければ、別に意識することなどなかったはずだ。それを意識させるように仕向けたのはあくまでも道子さんの方で、恭一からではないということを、自らに言い聞かせていたのは、後になってこの時のことを思い出した時に感じたことだったのかも知れない。
―ー薄化粧だと、ここまで顔の色が真っ白になるものだろうか――
 と感じた。
 まるで白粉でも塗った花魁でも見ているかのようだった。実際に花魁など見たことはないが、テレビドラマなどで見た記憶でしかないが、それを思い出すと、ラフな格好の道子さんのイメージと矛盾していて、またそこが悩ましかった。
 布団の上にいわゆる、
「女の子座り」
 をして座ると、曲げた膝から外側の太ももに掛けて、一本の線のくぼみができている。
 筋肉の緊張によるものなのだろうが、それが艶めかしく恭一の目に写った。
 しかもその姿勢はテレビなどでよく見るシーンと重なった。誘拐された女性が、どこか誘拐犯のアジトで、誰も助けてくれる人もおらず、目の前に誘拐犯が迫ってくるのを恐怖におののきながら、何とか逃れようとでもしているような姿であった。
――こんな姿を見せられたら――
 と、思わずカッと見開いた目はスカートの裾あたりにあり、今にも襲い掛からんとする変質者の目をした男に見とがめられ、逃れることのできない恐怖に見も震えんばかりになっている姿である。
 その光景は、思春期の男の子には刺激的すぎた。身体が勝手に反応し、下半身と上半身が分離しているかのようで、別の人間の持ち物のようにさえ思えた。しかし、それでも下半身にある敏感な部分は紛れもなく自分のものであり、反応した部分を否定することはできなかった。
 今にも襲い掛かろうとする恭一だったが、いざとなったら今度は身体が動かない。罪悪感などすでになく、本能の赴くままのはずなのに、肝心の身体が動いてくれない。やはり上半身と下半身は別人になってしまったということなのか、恭一はそんな自分が分からなかった。
 しばし恐怖におののいていた義母だったが、恭一が何もできない状態にあることが分かると、こわばった表情が次第に落ち着いてくるのを感じた。血色も先ほどよりもだいぶよくなっているはずなので、自分では分からなかったが、意識は次第に正常に戻りつぃつあった。
 そのせいもあってか、落ち着きを取り戻すことができ、正常な判断力が戻ってきたのは自分でも自覚できているようだ。
 ただ、目の前の恭一が、どうして本能の赴くままに行動しないのか分からなかった。
――どうしたのかしら?
 思わず、恭一を睨みつけたが、その目に驚いたのか、それまで固まってしまっていた恭一の表情に恐怖がよぎったようだ。
 たった今まで恐怖におののいていたのは道子だったはずなのに、完全に形勢逆転していることを道子は悟った。
――こうなれば、もうこっちのものだ――
 と道子が感じたかどうか分からないが、道子は身体を起こして、艶めかしい姿勢を元に戻した。
「ごめんなさいね。私があなたを余計な気持ちに煽ってしまったのね」
 と言いながら、硬直している恭一の頭を撫でた。
 恭一は身体すべてが硬直してしまっていたのだが、唯一目だけは動かせるようだった。頭を撫でてくれた道子の手を横目に見ながら、見張っていた目が次第にトロンとしてきて、心地よさを感じてくるのが分かった。
 その思いは道子にも伝わっていた。
「大丈夫よ」
 と言いながら頭を撫でていると、道子も何か恍惚の気分になっていき、それを恭一も感じてくれているのだと思うと、嬉しくなっていた。
 恭一は実の母親からもそんなことをしてもらったことはなかった。恭一は咲江に兄がいたという事実を知らないので、どうして自分が襲い掛かろうとまで下道子が、こんなにも優しくしてくれるのか、理解に苦しんでいた。
「親子だと思ってくれているという証拠なのかしら?」
 と恭一は思ったが、それにしては優しさにねちっこさを感じる。
 ねちっこいのは別に悪いことではないと思っているが、思春期の男の子を相手に義理の母親がする行動ではないと思えて、何が起こっているのか、元は自分が原因だったはずなのに、その状況が分からなくなっていた。途中から自分の手を離れ、道子の腕の中に委ねられた快感だったのだ。
 道子は今度は、恭一の頭を両手で持った。まるで目の前にあるバスケットボールを両手で持ったような感じである。そして自分の胸の近くに手繰り寄せると、一瞬胸の中に抱きしめたが、すぐに膝の上に載せて、いわゆる膝枕をしてくれた。
 もちろん、恭一には初体験だった。実の母親からされたこともない。
――これが膝枕というやつか――
 と思うと、また目がトロンとしてきて、心地よい時間に誘われているのを感じた。
 道子さんは恭一の耳の後ろを指でゆっくりと撫でている。ここが気持ちいいということを知っている素振りであった。
――今までに何人の男性にされたのだろう?
 と思うと、嫉妬心が生まれてくることを自覚した。
 道子さんはそれ以上のことをしようと思っていたのかどうか、後になって考えても分からなかったが、それ以上のことを結局はしてこなかった。するつもりではいたが、いざとなったらおじけづいてしまったのか、もしそうであれば、その気持ちは恭一が一番分かる気がした。
 恭一には、思春期を迎えたことで抑えきれない欲望が自分の中にあることを自覚し始めている。しかし、実際にそれを行う勇気も、行ったことで相手が自分に対してどう感じるかということ、恭一の考えられる範囲ではなかった。形式的に考えると、そのどちらも自分にはできないと思うのだが、しなかったことでの自分に対して感じる後悔と、やってしまったことで取り返しがつかなくなり、それが自己嫌悪を増長させてしまうことを恐れていた。
「どうしようもない騒動に駆られるのは思春期なので仕方がない」
 そんな思いが自己防衛として存在していることも分かっているのだが、本当に自己防衛なのだろうか。本当に自己防衛なら、ムラムラ来る前に何とかしようとするのではないだろうか。そう思うと、恭一はムラムラしてきた心境を抑えるためには、どこかで必ず冷静になれる瞬間がなければいけないと思うのだった。
 だが、実際に冷静になれた時間が存在したのだろうか?
 おじけづいたことで、急に我に返るという感情はあるが、もし冷静になれたのだとすれば、そんな感情を抱いている時でなければいけないような気がする。
 おじけづくというのは、どうどの方向から考えたとしても、あまりいい表現ではないだろう。何しろ怯えてしかもたじろいでしまうわけだからである。後ろに下がるという意味でもマイナスイメージが強いに違いない。
 しかしゆっくりと考えてみると、前に進むだけがいいことだと言えるだろうか。
「猪突猛進」
 という言葉があるが、これは決していい表現だと言えないのではないか。
作品名:家族と性格 作家名:森本晃次