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家族と性格

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 元々、恭一のような性格の男の子が嫌いではないかも知れないが、もし嫌いだったとすれば、その時に考えるのは、
――私に受け入れられるかしら?
 という思いであろう。
 途中から親になったわけなので、これまで育ってきた環境など分かるはずもない。聞いたとしても教えてくれるはずはないのだが、もしそのことで悩むとすれば、それは少し考え違いをしているのかも知れない。
 たとえ生まれた時からずっと一緒にいる親であったとしても、子供のことをすべて分かっている親などいるだろうか? いや、いるはずはない。もし分かっていたとしても、そこで考えるのが、自分本人との違いについてだ。
 それは息子として父親を見た時の恭一に似ているかも知れない。恭一は確かに一緒にいることで、
「あれ? どこか父親とは違っている」
 と思い始め、次第に親子間で生まれる葛藤に悩みながらも、自分と父親では考え方も性格も、趣味趣向もまったく違うと気付いたのだ。
 それがどれほどの期間によるものなのか、最初に疑問を感じたのがいつだったのか、あるいは、ここまで来るまで、ずっと同じスピードだったのか、など、ハッキリと分かっているわけではない。漠然とした気持ちを抱いたまま、考えることがどんどん増えていって、お互いその場その場で感じたことが蓄積していったのであろう。
 道子さんが、恭一のそんな気持ちを分かってくれるかどうか分からない。きっと分からないだろうと感じていた。
 だが、道子さんは恭一と違って父親を慕う気持ちがある。まずは父親を見て。そして恭一を見るという順番になるだろう。
 その時、恭一は父親を見ている道子さんをどのように感じるだろう。
「どこか嫉妬のようなものを感じてしまうのではないか?」
 という気持ちは、最近芽生えてきた。
――嫉妬?
 父親に嫉妬など考えられるわけはなかった。
 ここでいう嫉妬というのは、道子さんという人から慕われている父親に対して感じるものであり、年齢の近い相手と同じ人を好きになり、ライバル視することで生まれる男女間の嫉妬心とは違うおのだった。
 同性として、相手に敬意を表しながら、それでも適わない相手に対して感じる悔しい思い、それを嫉妬という感情で父に持つかどうかということである。
 性格的に一致を見ない相手にそんな嫉妬が生まれるはずなどないと恭一は思っていた。だが、恭一は自分の中で母親の道子さんにも自分に対して父に感じているような慕情を感じてほしいと思っていた。
 年齢は自分よりもかなり上で、しかも立場としては、義理ではあれ絶対的に優位なはずの母親ではないか。母親に慕われたいなどという感情を抱いてしまった自分がおかしいのではないかと感じたのは、やはり自分が思春期の中にいるからだろう。
 もし慕われたいと思うのであれば、それは道子さんに対してではなく、娘の咲江に対してではないだろうか。
「お兄ちゃん」
 そう言って慕ってくる咲江の姿を何度想像したことだろう。
 この想像に関しては正常な感情であり、道子さんに感じたものと比べれば、相当に当然と言える感情である。
 それを親子ともどもに感じるのである。しかも、相手は実の親子、自分とはどちらも血がつながっていない、言い方は悪いが、
「架空の家族」
 である。
 形式的に考えれば、父親と道子さんが結婚することで、その付帯として存在している自分と咲江も一緒に華族として生活することになるというだけのことである。
――そういえば、親父は咲江に対してどう感じているんだろう?
 道子さんが自分に対して、いろいろ知りたいと思うように、家族になる相手である咲江に対しても父親になれるようにいろいろ知りたいと思っているのだろうか。
 そう思った時、ハッと気になるものがあった。それが何であるかすぐには分からなかったが、胸騒ぎのようなものがあった。だが、それは、
「これ以上深く考えてはいけない」
 と思わせることであり、考えること自体がタブーな気がした。
 そのせいなのか、恭一は自分が咲江に対しても妹として以外の感情も抱いているのではないかと思うようになっていた。
 恭一はいろいろ考えていたが、現実としてその日、家の中にいるのが自分と道子さんの義理の母子であるという事実を思い出した時、ふと我に返ったような気がした。
「何か夢を見ていたような気がする」
 それはきっと前からこの日が道子さんと二人きりになる日だということを分かっていて、胸の高鳴りを感じていたからではないだろうか。
 もし夢を見たとすれば、曽越いかがわしい夢だったかも知れない。その証拠に夢の内容をまったく覚えていないではないか。
 元々夢というのは、目が覚めるにしたがって忘れていくものだという意識があった。
それは楽しい夢であったり、
「夢なら覚めないでくれ」
 という夢である。
 怖い夢など、早く覚めてほしいと思っている夢に関してはなぜか記憶にあるというのは、実に皮肉なことだと思っている。
 この夢の内容がいかがわしいものだったのではないかと思ったのは、その後に起こった出来事が関係していた。
 目を覚ました恭一を待っていたかのように、
「恭一さん、お目覚めですか?」
 と部屋の外から道子さんの声が聞こえた。
 部屋は恭一個人の部屋であるが、別にカギをかけているわけではない。入ってこようと思えば入れるのだが、さすがに義理の母親としてはそこまでできないと思っていたのだろう。
 それでもいくら偶然とはいえ、よく恭一が目覚めたのが分かったものだ。ひょっとすると時々恭一が目が覚めるまで声を掛けてきたのかも知れない。たまたま今回目が覚めた時に掛けた声が今だったとすれば、理屈としては成り立つ気がした。
「あ、はい。目が覚めてますよ」
 というと、道子さんは一瞬押し黙ったが、
「失礼していいかしら?」
 と言って、扉の向こうからそう声を掛けた。
 恭一としても断る理由などないので、
「いいですよ」
 と返事をすると、
「失礼します」
 と、ずっと本当に他人事だった。
 若干の苛立ちを感じていた恭一だったが、まだ完全に目が覚めていないこともあって、ベッドから身体を起こすことはできなかった。
 道子さんは、紙を後ろで結び、いつもの長い髪とは違ったいで立ちに、エプロン姿のいかにも主婦といった姿だった。一瞬実の母親を思い出したが、もう何年も経っているので、顔は思い出せなかった。それだけ成長のわりに、時間が経つのが遅いということなのかも知れない。
 化粧をしていないのか、それとも限りなく薄化粧なのか、今まで知っている道子さんとは少し違っていた。だが、恭一には新鮮に見えて、それが嬉しかった。
「ちょっと遅いですが、朝御飯にいたしますか?」
 と聞いてきた。
「今何時なのかな?」
 何となくは分かっていたが、わざと聞いてみた。
「十時半を過ぎたくらいです」
「じゃあ、まだ朝ご飯だな」
 本当は昼も兼用だったが、せっかく朝御飯と言ってくれているのだから、朝御飯にしておいた。
「そんなにジロジロ見ないでください」
 と言って、顔を赤らめて微笑んだ道子さんだったが、その姿にドキッとしたのは、彼女のあざとさに気付いたからだろうか。
「あ、いや」
作品名:家族と性格 作家名:森本晃次