短編集84(過去作品)
お互いにそれぞれの思いを込めて見つめていた水晶玉と砂時計。前世で自分が見つめていた水晶玉を現代では美咲が、逆に砂時計を野本氏が見つめることになろうとは……。
自分の意志を貫くことが己の生き方だと思ってきたが、まさしくそんな人生だったのだろう。
そういえば、砂が最後の一個まで落ちきるところを見たことがなかった。気がつけば目の前に最後の一個の落ち切るところが見えている。
その奥で水晶玉を見ながら事切れている美咲を見つめていた。何日前のことだったのだろう? 今、自分がいる時間が分からなくなっている。
――今度はまた会えるだろうか?
悲しみはない。会えるだろうという確信めいたものを感じているだけだった。
美咲を抱いている時に感じた時間のもったいなさなど今はない。ゆっくりとピンク色が落ちるのを見つめている。それは、水晶玉の奥で最後の炎が消えるのを見た、あの最後の夜を思い出しているようだった……。
( 完 )
作品名:短編集84(過去作品) 作家名:森本晃次