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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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#1 身勝手なコンピューター

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「じゃあ、簡単な実験をしよう」
 飛鳥山は、さっき自分が入っていた部屋の鉄の扉を指差した。
「あの壁に鉄のドアが二つ並んでるだろ。君がどっちかに入って隠れたら、君自身はどちらに居るかは100%分っているのに、私には判らない。私が当てる確率は?」
「0~100%(笑)」
「はっ! ははははは、それはドアの向こうに入らないで、他のどこかに隠れる可能性もあるってことだね」
「へへへへへ」
「意外な発想をしたね。でも、それもこの試作コンピューターなら計算出来るんだよ」
「どんな方法でですか?」
 飛鳥山は装置の電源を入れた。コンピューターは冷却ファンの大きな音を立てて起動した。

「これでこの部屋の中は量子世界になった」

「面白そうですね」
「量子物理学に沿った演算方法で、身勝手な量子の振る舞いよって、結果から行程が導き出される。その過程を逆算して、現在の君の行動と一致する未来を当てるんだ」
「量子には、そんなことが本当に出来るんですか?」
「なかなか言葉では説明しにくいから、実際にコンピューターに予想させて見せよう。私は目を瞑って椅子に座って居るから、その間にどちらかのドアに入って、待機してくれたまえ」
 飛鳥山は手元のキーボードで、試作コンピューターにカチャカチャと入力した。

キィーーー! ガチャン!!

「先生、入りました!」
「よし。今君の声がどちらのドアから聞こえて来たかは判らない。でもドアの向こうに居るんだね」
「はい」
「そう答えたということは、君はどちらかのドアの向こうに100%存在しているはず。でもそれは君側から見た時の確率だ」
「先生側からだと、私は左右どっちか、50%ってことになるんですね」
「その通り、君がドアを開けて現れるまで、『宇野さんは左右に半分ずつ存在している』と、このコンピューターは認識しているだろう」
「じゃ、先生から見たら、先生はそこに100%存在しているけど、私から見れば、居るか居ないか、0%か100%ってことですね」
「声が聞こえていれば、居る方の100%だ」
「そうか。じゃ声が聞こえないように耳を塞いじゃったら、どうなるかしら」